侵入者
人には何かしらの役割がある。
それは人生における大それた意味ではなく、
もっと日常生活的な意味合いでだ。
農民が畑を耕す。
商人が物を売る。
領主が領民を守る。
それくらいの軽い意味合いの話だ。
今回の場合でいえば、
襲撃者四十人の役割は囮である。
裏から回り込んでいる一人の為の大規模揺動。
ただそのことを彼らは知らされていない。
お前らは捨て駒だと宣言しているような物だからだ。それにいざという時の別の用途としての役割も、襲撃者には備わっている。
「……二階に到着。暗くてよくは見えないが此処は、物置か?」
裏の蔓植物を特殊な鋏で切断。
二時間掛かりでようやく開けた通り道。
もし途中で休憩を挟んでいたら、
ガラプ達の荷車と鉢合わせていた。
通り道さえ開けば、後は熟練の技。
二階からの侵入であろうと
男は魔法と経験を活かして入り込む。
①風を地面に撃ち体を浮かす
②窓の縁に捕まる
③窓に腕が入れるだけの穴を『火』で溶かす
④鍵を開け 縁で雨具を脱ぐ
「中にある物は……ん、カーテン? あっ、此処は寝室だ。カーテンは仕切りだ。おそらく上客用の寝室か何か。ただこのベッド……固いし狭い。掛け布団も見当たらない。埃一つ、指先に付かないから清潔さは保っているようではあるが」
独り言が激しいのには理由がある。
彼の手に握られているのは魔石。
自らの魔力を石に込めると
周りの音を吸収して録音する音の魔石である。
握られた魔石を口元に寄せ話す。
いざという時の備えとして。
「こうも薄暗いと表面上しか分からない。さっきから、変な棒やら車輪付きの収納棚の上には、妙な形の鋏とナイフ。それと用途不明の鉄の道具が他にも……」
ベッドの側に何故こんなものが。
男には皆目見当のつかない。
「コレから扉の外に出ます」
この部屋から出る唯一の扉の前へと進む。
扉は重々しい鉄扉。
無駄とは思いながらも、
扉に耳を当てて音を探ろうとする。
「鍵は……開いている」
不自然さを覚える。
扉には鍵穴があり、窓の鍵は閉まっていた。
普通はどちらかに偏るのでは。
「……扉の前に到着。コレから屋敷内へと侵入する」
取手を持つ。
扉は引き戸式で横にスライドする。
ずっしりと重く、腰を入れる。
空いた隙間に足を差し込み、
屋敷の中の様子を伺う。
暗い廊下がまっすぐ続いている。
すぐ向こう側には落下防止用の柵。
一階から光が上ってきている。
「終わった終わったー!!」
「久々の襲撃者でしたね」
男女の声がする。
ガラプとアーメットだ。
だが男にはそれが誰かわかるはずもない。
「(覗き込んで人物像を確認したいが、いざという時にもう一度この重い扉を開けることを考えると……ナシだ。)一旦部屋の中へ戻る)」
男に名前をつけようかとも思いましたが
やめました。
この発言
割とネタバレかな?




