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異世界に医者はいらない  作者: 技兎
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コインの受難



 ───── 作戦実行日 ─────



「嗚呼、腹が痛い腹が痛い。何故私がこんな役回りを請け負わねばならんのか」



 この男の名はコイン。

 マネー家で一番歴の長い執事だ。

 ローズ引き取りの際にいた男が彼だ。



「こんなこと、本来であれば適当な人間を雇うのじゃないか? 何故、わざわざ私が、こんな目に遭わねばならない……? しかも前日に」


 コインに任された仕事は、

 作戦の概要及び事の顛末(てんまつ)の確認である。


 本来は前金を渡して終了。

 後は(かれら)が仕事をやるだけでいいのだが、

 コインもマネーもこの手の事は初心者だった。


 マネーは全てが完了した確認を求め、

 主人の命令に従い、

 コインもわざわざ現場に出張る。


 裏ギルドの連中も、

 まさか現場に来ているとは思ってはいない。



「(だからって、なんで私なんだ。産まれ落ちて70年、マネー家にお仕えして55年。誠心誠意お仕えした私が、まさか捨て駒の役割を任せられるとは…)」


「それもこれもあの男がいい加減な処置を施したせいで。いやあの女が爆発事故なんかで死ななきゃ。いやいや、全ての原因は坊ちゃんが……」


 悪環境が普段は口にしない

 雇い主の悪口を引き出させる。

 すぐさま口をつぐむが、脳では会話が続く。


「(ここまで大事(おおごと)に動くと、マネー家が(こうむ)る被害の方が大きい。私は何度も忠告した。なのに、坊ちゃんは聞き入れなかった。それ程までにあの医者が憎いんですか、坊ちゃん!)」

 


 コインは今、ネイヴの屋敷へと向かっている。

 屋敷の場所はある情報屋から仕入れてある。

 裏の人間だが信用のおける人物だと、

 ゴールドはマネーに話している。


 荒くれ集団には事前に説明はした。

 コインは場所と襲撃時間は教え、

 全員一緒に作戦を実行する気でいた。


 だが彼らは近くにはいない。

 (あらかじ)め決められたグループに分かれて、各々が勝手に行動を開始した。


 本来ならばその場で待ち、

 彼らの帰りを待つのが定石なのだが、

 先程の説明通り、彼らは初心者だった。



「(道が悪い 雨が冷たい 暑い 植物が鬱陶しい 薄暗い 腹が痛い!)」


 体力が奪われる環境。

 それに加えて馬車が通れる道を避け、横道である整備されていない道を進んでいるのも追い討ちだ。


 老体に(こた)える。

 隠居の二文字が脳裏によぎる。



 二時間に(わた)る道のりを乗り越えた。

 既に体力は限界、足がプルプルと震えている。

 作戦は既に執行されている。



「……」


「ん? 今、女性の声が」


「…! ……!!」



 間違いなく女性の声だった。

 集められた集団の中に女性もいた。

 彼女らの声かもしれない。


 作戦時間は過ぎている。

 作戦中かあるいは作戦が終了したのか。


 いずれにせよ警戒をしておいて損はない。

 踏ん張りを入れ、もう一度腰を落として

 声のする方へと歩み寄る。








「……な、何だ。アレは?!」



 丘の上から状況を確認することができた。

 木が邪魔でよく見えないが、

 二人のメイドと一人の執事の姿は確認できた。


 そして三人を囲うように

 荒くれ達が一箇所に固まっている。


 何故メイド姿で応戦を

 チームごとに分かれたのでは

 数的有利があるから安心


 そんなありきたりな考え以上に、

 『奇妙な木』が使用人の周りに生えているのが

 気掛かりで仕方がない。



「……ガラプさん、大丈夫ですか?」


「ああ? 何だカブトガニ、俺がこんな連中に倒されると思うかあ? 確かに現役時代の感覚はまーだちょっと、掴めちゃいないがっ」


「そう言うことを言っているんじゃないと思うわよ、アーメット君は。貴方が『()した』彼らの心配をしているのよ」


 奇妙な木の正体。

 それは一見、逆立ちをしているようにも見えた。


 だが実際は肩まで地面に突き刺さった

 生死不明の人の一本立ちであった。


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