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異世界に医者はいらない  作者: 技兎
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兜執事


 古い時代の洗濯は、

 どの地域でも似た形式が取られている。

 川の水の汲み、あるいは川に浸けたまま

 洗濯板に洗濯物を押し付けて洗うという形式だ。


 重労働で時間もかかる。

 その為洗濯はたまにしか行われない。


 この世界でも大差はない。

 魔法はそこまで応用が()かない。

 洗濯に使う水を汲まなくて済む程度。

 水が自動で洗ってくれたりはしない。


 コレが異世界における洗濯である。



 ───── 洗面所 ─────



 洗面所と銘打(めいう)っているが、

 構造としてはコインランドリーに近い。

 いくつもの洗濯機が列を成している。



「何ですかココ……ゴウンゴウン音が凄いですけど」


「ここが洗面所っていう場所らしい」


「らしい? というより、聞こうと思ったんですが洗面所ってなんですか?」



 洗面所という概念がこの世界にはない。

 歯磨きや手洗い、洗面は自室で行われている。



「今更これの説明をすんのも何だな……。朝サ、部屋で顔とか歯を磨いたりするじゃン? その部屋が、いや違うな……アー! 焦ッタイ!!!」


「ホント姐さんは説明下手〜。今の流れで大体よかったのに。顔洗ったり歯磨きする場所を、この屋敷では洗面所っていうらしいのヨ」


「? この屋敷だと、朝にこの部屋に来て顔を洗ったりするのが礼儀ってことですか?」


「そこんとこがややこしい。ご主人はそう言うふうに説明したけど、実際にそういう風には使わなくていいらしいんだよね」



 何ともややこしい話だ。


 つまりここは洗面所という名前の部屋であり、

 洗面所は顔を洗ったりする部屋のことを指すが、

 一々ここに来て、洗顔などをする必要はない。



「アアア!! とにかくここは洗面所って場所で、ヴァネッサの仕事である洗濯をこのずんぐりむっくりな箱が勝手にやってくれるってことだよ!! 以上! 説明終わり!!」


「ゴメンねー。姐さんに難しいこと聞くと、頭おかしくなっちゃうんだあ」


「ァー……アハハ」


「何の騒ぎです。扉も閉めずに」


 そういって執事が部屋へと入ってきた。


「あっ、兜執事……」



 【アーメット】 死因:未開示 本名:未開示

 身長170cm前後 低音ボイス 常識人枠

 屋敷内で随一に真面目な謹厳実直(きんげんじっちょく)

 しかし融通の効かない杓子定規(しゃくしじょうぎ)でもある。


 彼に関する情報は非常に限られている。

 メイド長も身の上話はしない方だが、アーメットはそれに加えて、表面上の姿さえも他人に隠している。


 最もそれを体現しているのは頭部。

 ボコボコのアーメットを被っている。

 表情の一つさえ判別できない。

 かろうじて目線は見える程度で留まっている。


 手は手袋、首元は服を改造して襟高に。

 徹底して素肌を隠す努力を行っている。


 担当は『掃除』『庭の手入れ』『執事長代理』



「ブふっ! 兜執事だって、マンマだなあ!!」


「すすす、スミマセン! ゴメンなさい!!!」


 完全に油断していた。

 洗濯機などという異質な魔道具に、

 完全に脳が思考を放棄してしまっていた。


「構いませんよ。(わたくし)もアーメットと名乗りはしましたが、旦那様同様、好きに呼んでもらって構いません。彼女みたいに、故郷にいた魔物に似ているという理由でカブトガニと呼んでもらっても問題はありません」


「ちなみにアタシはかぶとんって呼んでマース」


「次までには、考エテオキマス……」


「じゃ一旦は兜執事だな。……ブふっ!!」



 名前を明かさない患者は、

 過去にも多く存在していた。

 メイド長も役職名で実名を伏せている。


 名前がバレると危険

 過去を捨てたという意味合い

 あるいはそもそも名前がない


 いずれにせよそこを深くは掘り下げない。

 コレもまたこの屋敷の暗黙のルールである。



「それで何の話をしていたのですか。ここの部屋は扉を閉めないと、廊下にまで音が漏れるから閉めるのが決まりでしょうに」


「悪い悪い。新人に屋敷の魔道具の説明をしてた所でよ」


「殆どアタシが説明してたけど」


「余計なこと言うんじゃネッ!」


「ほう、それはとても素晴らしい事です。殊勝(しゅしょう)な行いだ。普段、グータラしている分を取り返すつもりかな?」


「肩の抜き方が上手いだけですー」


「そうそう。てか、たまにはお前も一緒に駄弁ろうゼ? いっつも誘ってるのに、なあなあに流してくれちゃってヨぉ」


「この兜でどうしろと。それに男一人で花園に臨む程。私、乙女ではありませんので。執事長を呼んでください。そしたら行きますよ」


「無理なんだ〜い……」


「アハハ……アハ、は……」



 この既に出来上がっている、

 仲間同士での和気あいあいとした会話。

 新人のローズは置いてけぼりだ。


 こういう時どうすればいいか。

 一歩引いて無に徹することは出来ない。

 ただ愛想笑いで場が流れるのを待つしかない。



「事情は察せました。先輩としては模範的な行動です」


「だろ!? 俺も先輩が板についてきたっ」


「ですがガラプさん、掃除がまだ済んでいないでしょう? 通路に箒が置きっぱなしでしたよ」


「ァー、アレは午後にやろうかなぁ〜って……」


「丁度いい機会です。先輩が板についてきたのなら、先輩らしく任された仕事をキチッと片付けましょうかッ!」


「っ……ハーイ、わっかりましたよ〜……」


 ガラプは渋々、

 残った掃除を片付けに部屋を出た。


「ヴァネッサさんは洗濯物を取り込んで置くように。ローズさんも暖炉の火を絶やさないよう気を付けてください。では」



 洗面所には二人だけが残った。

 そしてタイミングを示し合わせたように

 洗濯機から鳴っていた音が止む。



「おっ、洗濯完了!」


「で、では私はまた暖炉の見回りに……」


「ローズチャン、それ終わったらまた応接間に来てヨ。すぐにアタシもコレを乾燥機に入れて戻るから」


「乾燥……いえ。分かりました!」


 乾燥機とは。

 そんな疑問がでかけたが飲み込んだ。


「今日は確保してヨ〜。知らないことばっかだから、質問攻め大会勃発の予感。好きな紅茶とかお菓子、どんどん聞いちゃうから、覚悟しといテッ!」


「! わかりました! 覚悟、しておきます!!」



 交流の機会を与えられるのは嬉しいものだ。

 特に同様の友ならば尚嬉しい。


 もう魔道具の事を考えるのはやめよう。

 そうローズは決めた。


 小難しい話は平民にはわからない。

 それにマネーのことも思い出す。

 だからやめとう。

 考えてどうにかなるわけでもない。


 それよりも応接間入った時に見えたお菓子。

 アレを口にできると考えると、

 車椅子を動かす手も愉しげだ。



「(もう魔道具で頭悩ますのやめやめ!)私は使用人、私は使用人……魔道具なんて、知りませーん♪」



 アーメットはヨーロッパ製の兜です。

 頭を完全に覆う丸型の鉄兜で、

 顔を覆うバイザー部分が尖っているのが特徴的。

 バイザーは上に上げることもできます。


 重さは3.5kg程

 日常生活で肩がこりそうだね!

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― 新着の感想 ―
[一言] ローズたちの幸せな様子を見ていると、こちらも幸せになってきますね。この幸せがいつまでも続いたらなぁと思います…
2022/06/30 20:40 退会済み
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