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異世界に医者はいらない  作者: 技兎
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異世界オーパーツ


 異世界にあっちゃならない物のパレード。


 この世界における一般的な食事の支度。


 釜は一般家庭にも普及している。

 魔法は人々に当然に備わっている力。

 薪や藁といった着火剤さえあれば、

 苦労なく料理は作ることが出来る。


 冷蔵庫の(たぐい)はない。

 生鮮品は近場で無ければ食べられない。

 氷の魔法は長持ちせず、

 日の下に10分も晒されれば溶けてしまう。


 異世界の生活水準は、

 現代社会の数百年前に位置している。

 だが魔法が不便さを解消している一面もある。



 ───── 台所 ─────



 以上がこの世界の一般家庭の水準である。

 貴族の場合も延長線のレベルを超えない。

 石窯(オーブン)があるかないかくらいの差だ。


 ではこの屋敷の台所も似たようなものなのか。


 初めに言っておくが『否』である。

 少なくともここにある物の数々は、

 この世界にはまだ過ぎた代物ばかりだ。


「ヴァネッサ、俺のプリン食ったか?」


「はて何のことやら」


(とぼ)けるんじゃねぇ。この屋敷で名前の書かれた菓子に手を付けるのなんて、お前か執事長のどっちかだろうガ!」


「なら執事長じゃないかな〜? 私は甘〜くてよく冷えたプリンなんて、食べた覚えはありませ〜ん」


「こんのぽっちゃりがよオ! つまみ食いばっかりして意地汚ねェ! だから()えるんだよ」


 三人は今、台所にやってきている。

 来て早々にガラプとヴァネッサは

 『プリン』なる聞き覚えのない

 おそらく食べ物のことで喧嘩している。


 だがそんなことはどうでも良い。

 ローズは今、目の前で起こっている喧騒よりも

 目の前に雄々しく立っている大きく、冷たい冷気を放つ箱の存在が何よりも気になっていた。


「分かった、分かったよぉ。後で埋め合わせプリンは作るからさ。今はローズチャンにこの『冷蔵庫』の説明するのが先じゃん? その為に来たんだしさ」


「絶対だぞ。後でバケツプリンを作りやがれ」


了了(りょりょ)。んでんで、ローズチャン。コレ、冷蔵庫って言うんだけどー……ヤバさわかる?」


「わかります。……ヤバイです」



 冷蔵庫

 本来保存の効かない生鮮品を保存する、

 内部で冷気を発生させる『電化製品』だ。


 (あらかじ)め説明するが、

 この冷蔵庫は電気を使ってはいない。



「コレがあれば。例えば海の遠い地域でも、この箱の中にさえ入れちゃえば腐らない……! 野菜だって、保存の効かないやつをその日に食べなくてもっ」


「らしいね〜そんなこと言ってた気がス。原理はー……説明受けたけどワカリマセンデシタ」


「っまともかく、コレに突っ込めば腐らないんだろ?」


「だねだね。とりあえず腐らない! 後で食べようと思った物も、とりあえず突っ込んどけば、冷たくて味変しないで食べられる。以上完結」


「(簡単に言ってるけどコレ……アイツが必死こいて作ってた冷凍保存庫の完成品じゃない!?)」


 冷蔵庫をこの世界で再現する。

 本家の冷蔵庫の原理はさておき、

 冷蔵庫を作るにあたって大きな壁は二つ。


 長期間に(わた)って冷気に耐える『箱』

 長期間に(わた)って冷気を出し続ける『仕組み』


 この二つを攻略すれば再現可能。

 そしてそれが再現できた暁には、

 莫大な利益を生み出すのは言わずもがな。


 故にマネーも冷蔵庫の開発に着手している。

 三年の歳月を費やした。

 だが未だ問題を解決できずにいる。


「そんでもってこっちが……コッチが……何だっけ?」


「レ・ン・ジ! こっちは瞬間的にあっためられるんだヨ。試しに……今朝の朝食のパンの切れ端を突っ込んで」


 言葉の通りにヴァネッサは行動している。

 小さな箱の扉を開け、

 中にパンの切れ端を入れて閉じる。


「そして最後に『魔石』を入れてと」


 電子レンジにはない煙突に似た筒。

 そこに火の魔石を入れると、

 箱の中の景色が赤く光り出した。


「アタシも難しい原理とかはわかんなかったけど、こうやって焼きたかったり、あっためたい食べ物を入れて。んでもって焼き時間に合わせた大きさの魔石を入れると」


『チンッ』


「こんな風に焼きあがっちゃうワケですよ奥さん」


 ローズは恐る恐るパンに触れる。

 パンはほんのり温かい。


 石窯(オーブン)は用途が違う。

 あちらは焼くのがメイン。対してこちらは温め直し。

 料理をする人間であれば、

 この用途の違いの重要性にはすぐに気がつく。


「嘘……あっ」


「ホント、出来立て喰えるって最高だなレンジ。俺がまだ部族のトップ張ってた時に欲しかったよ。したら冬場だろうが関係なしに、アツアツが食えるんだしな!」


「さっきアタシに意地汚いとか言ってたクセに、パン取っちゃうんだ〜」


「どうせならこんな切れ端じゃなく、しっかり目の飯作りゃあ良いだろ折角だし」


「そりゃ言う側は簡単だけどサ。作る側からすれば、ちょーっとムカッてくるセリフよ?」


「そりゃ悪かった。素直にゴメンだわ」


 ここにある品は全てオーパーツ。

 魔道具が普及し始めたのはここ数年。

 その使い道の広さが知れ渡り、

 多くの発明形が構想を練っているのが今の時代。


 それなのにこの屋敷には答えがある。

 生鮮品を長期保存する冷蔵庫。

 冷めた料理を温め直すレンジ。


「(ここの家主ってネイヴ先生だったよね。何、医者って魔道具の発明家でもあるの?! この屋敷の維持費やら何やらは、そこから捻出してるの!!?)」


 魔道具や将来価値のある商品。

 マネー家で知識を(つちか)われていなければ、

 二人のように凄いで感想は終わっていた。


 無駄に知識があるだけに厄介だ。

 完成品があるという事実は驚き以上に、

 それに付き纏う利権や価値が恐ろしい。


「んじゃ次だ次」


「次って……まだ何かあるんですか?」


 思わず吐露する本音。

 そんなこととはいざ知らず、

 二人は元気一杯の子供のようだ。


「最初に言ったっしョ? 次は洗面所。といってもここみたいな派手さは無いけどねー」


「派手さは無いけどよ、俺はだいぶ楽させてもらってるゼ? ゴミを吸い取る棒に洗い物を勝手にやってくれるずんぐりむっくりな箱だろ」


「えぇ何それ……」


 掃除機と洗濯機である。

 因みに乾燥機もある。


「百聞は一見! ドンドン行っちゃおー!」


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