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異世界に医者はいらない  作者: 技兎
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いい湯だな


 今回はお風呂回。

 しばらくは平穏な日々が続きます♪


 メイド長に病衣を脱がされる。

 包帯を解き、素っ裸のまま抱き抱えられ、

 風呂場用の車椅子へと移し替えられる。


「ここが女性用の浴場です」


 風呂場の扉が開かれた。

 湯気の壁が身体に当たる。


 心地良い。


 湯船に入ってすらいないが、

 ローズは確かな安らぎを感じ取っていた。

 身体が暖かい湯水を求めている。

 こんな気持ちは久々だった。


 だが


「(身体……縫い糸だらけ。肌も私のじゃない)」



 今、ローズは素っ裸だ。

 素っ裸のありのままの姿を晒している。

 そして改めて思う。


 四肢の3/4がない身体。

 縫い糸が巡られた身体。

 肌の色がめちゃめちゃな身体。

 そして焼け跡の残った顔。


 見るに()えない。

 とても他人様に見せていい身体じゃ無い。



「(更に汚れた身体。もう本当に、誰にも会えな)っ」


 マイナスの気持ちに陥りかけた。

 顔は下を向き、目には涙も溜まっていた。


 そんな時、

 メイド長に頭から湯をぶっかけられた。


「な、何をするんですか!!?」


「? しみったれた顔をしていたので」


 さも当然のような顔をして答える。

 気付けば前面の壁には鏡が貼られ、その下には何かの容器が幾つも置かれた、いわゆる大浴場の洗い場に来ていた。


「しみったれたって……」


「最初は皆そうです。懐疑的になるんです、どうしても。特に私や執事長が手伝いをしているとその……比較、しちゃうでしょ」


 一歩間違えれば、ひどく差別的に聞こえる発言。

 だが彼女の声のトーンは悲しげだった。

 申し訳なさそうに聞こえる。


 彼女も辛いのだ。

 擁護という意味ではない。

 彼女もここの住人なのだ。


 彼女の身体は一見、無事のように見える。

 健康体で肌艶もいい。

 とても自分の身体とは比べ物にならない。


 そう考えるているだろうと察しがつく。

 彼女もそうだったから。


 察しがつくからこそ、

 健康体でないと心の内で否定する。

 否定すれば、否定する理由を思い浮かべる。

 思い浮かべるには、自分で自分の記憶の奥底にある暗い過去に自ら触れざるを得なくなる。


 精神的な自傷行為に等しい。



 【メイド長】 死因:未開示 本名:伏せ

 左目に大きな傷を持つ碧眼(へきがん)のメイド。

 この屋敷で働く使用人の中で二番目に古参。


 新雪の如き白い美肌。

 故に一層映える黒い長髪。

 美しいを体現した様な女性である。


 タオル越しで分かる肉体美。

 細身(スレンダー)というよりはガッチリとした肉付き。

 隆々(りゅうりゅう)とした手足は運動好きの域を超している。

 水に濡れたタオルが吸い付き映し出される割れた腹筋。


 ここまでは彼女の健康体を示していた。

 だが彼女がここにいる理由(ワケ)はココからだった。


 映し出された見事な腹筋。

 だが腹部の辺りの肌の色が違う。

 ローズのような別人の肌というわけではなく、

 傷口が塞がった事を示す薄桃色の肌が広がっている。


 三箇所三種の首に付けた装飾(ネックレスベルト)を外していない。

 水に濡れようとお構いなし。

 仕切りに装飾のズレを確認している。


 『腹部』 『首』

 それが彼女の触れられたくない部分。

 死へと至った過去に直結する原因であった。


 担当は『二階関連』『食事』『付き添い』『その他』



「……スミマセン」


「謝らないでください。謝ったら、一層惨めになりますよ」


 まるで貴族のような扱い。

 綺麗な女性に体を隅々まで洗われる。

 高級な花蜜の練り込まれた香り高い石鹸で。


「肌は強く擦りさえしなければ、拭いても問題はないと先生が」


 体を隅々まで拭かれた。

 これでは貴族ではなく赤ん坊。

 しかしローズは身を委ねるしかない。

 身体をひねると、未だに痛みが走る。



「さ、湯船に浸かりましょう」


「わ、チョット!!?」


 身体の泡を洗い流すと、

 メイド長はローズを再度抱き抱え

 湯船へと直行した。


 多少強引なところを垣間見せる。

 だが浸かせる時は丁寧だ。


 熱を肌が感じ取る。

 ビリビリと鳥肌がはしる。


 四肢の末端に感じる水の感覚。

 これは何とも言えない。

 あえていうなら、物足りなさを感じた。


 だがそれでも

 心地いい事に変わりない。



「っア〜」



 思わず出てしまう恍惚(こうこつ)の『ア〜』

 今までの暗い気持ちが嘘のように、

 頭の中に至福の一文字が溢れる。



「ふふ、ようやくいい顔になったわね」


「メイド長……」


「この後は食事会だけど、準備にはまだまだ時間がかかるわ」



 風呂場には針で示す時計はない。

 入り口にいくつかの砂時計が常備されていて、

 時間を知りたい場合は、各々でそれを用いる。



「砂時計が落ちるまで、もう少シ! ゆっっくりしましょう……」


 メイド長が大きく伸びをする。

 その姿はあまりにグラマラスで、

 同性でありながらも見入ってしまう。


「? どうかした?」


「い、いえ何も!!」


 ローズは顔を半分沈める。

 息を吐くとブクブクと泡立つ。


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― 新着の感想 ―
[一言] お風呂はその人が丸裸になりますよね。痛みも、汚れも、人に見られたくないところも。それを乗り越えるはしみったれた表情をしない…確かにそうかもしれませんね…。少し前を向いて歩いてみようかと思いま…
2022/06/30 19:44 退会済み
管理
[一言] メイド長の過去、気になりますねΣ(-᷅_-᷄๑)
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