第20話 間話と書いて特に読む必要のない話と振る
十余年前、僭王トランと呼ばれた男が死んだ。
史籍は言う。彼は余人の知らぬ兵法をあまた知悉する異才の将であり、同時に民すべてが平等であれと望む慈悲深い君主であったと。
しかし、王権が神授のものであることを認めず、神と王、王と民との契約の意味を軽視した、と。
ああ、願わくばかの者の魂に救済と安らぎのあらんことを。
この時起こった崩壊によって南の大陸の北端には消えぬ傷跡が残り、国基を維持できなくなったネーゲは5地方に分裂。そのそれぞれの領主は恭順を条件に近隣国に救済を求めた。
アラゴー、クウェンダレ、キの三国はそれぞれ主なき土と国民の領有権を主張し、ここに戦端が開かれることとなる。後に赤土戦争と呼ばれる争いであった。
争いは5年続き、沢山のものを喰らっていった。
戦争は周辺の国にも歪みを残した。
内海を挟んだ二国、西端のパレダとヴァリウサでは戦時特需による商人層の発言権の増大と有力地を支配する一部領主の権益の増加、それによる貴族内での抗争を。
半島で南の大陸とつながるヤロークでは契約をその身に持たぬ逃散兵と難民の増加による治安の悪化を。
そして、それら全てに崩壊の余波と戦乱ゆえの魔獣と悪霊が振りまかれ、無法者と荒事師が活気づく。
時化の時は終われども、ここに長い波の時代が訪れた。
その只中でヴァリウサの端、大いなる内海に浮かぶ魔術師たちの箱庭、閉じたる蓮の島々たる塔の諸島のみが、ただ彼らの手中で凪いでいた。
千の尖塔をいただく神秘の子らの揺籃のみが、彼らの権能に寄って未だ微睡むことを許されている。
ああ、ただびとよ畏れ敬うがいい。蜜と花に満ちた楽土、うるわしき内海の真珠こそが奇跡を担いし万色を帯びた最も古き血筋の子らの版図なれば!
※ とまあいろいろ書いたけれど、本編には今は直接何も関係しない。関係しないのだ。