魔女の娘、打ち明ける
「どうしたんだ?」
ヤシャの部屋…魔力をどのくらいで感じることができたのかをきかれて、思わず言葉が詰まってしまった。ヤシャはそんな難しい質問をしたかなぁと首をかしげている。
「一週間…なの」
「一週間…さすがに早すぎねぇか?」
「うん…ヤシャ、誰にも言わないって約束してくれる?」
「…訳アリか。分かった、話せよ」
そう言われてヤシャに全部話してみると決め、言葉を選んだ。助けてくれるお母様はここにはいない…
「私…魔女らしいの」
「魔女?おまえが?」
「うん…お母様はそれで魔力を感じやすいんじゃないかって」
「ってことは…先生も?」
「うん…魔女」
「そういうことだったのか。道理でオーク相手にもひるまないし、薬も尋常じゃない量売りにくるのか」
「そうなの?」
「医師のクラークさんいつも驚いてる。こんなに品質の安定したものをあれだけの量持ってくる人はなかなかいないってな」
どうやら、お母様も気を付けていた様子だったが村の人からしたらからりすごいことをやらかしていたそうだ。ただ、お母様は王都の薬師ギルドの偉い人だった経歴があることから、誰もが王都で活躍していた人はそうなんだろうなぁと思って納得していたらしい。
「なるほどね…まぁ、先生が俺らに隠してたのも分かるけど」
「魔女って知られたら最悪引越しだからって…それで黙ってたみたい」
「もしかして、学術院へ行く気で勉強してるのか?」
「うん…お母様と同じところに行きたくて。でも、人間の子供として卒業はさせてあげられないから私にも打ち明けてくれたみたい」
「そうだったのか。確かに普通なら隠し通すよな」
「うん、お母様はヤシャの家族なら言ってもいいけど…最悪の事態を想定しなさいって」
「そうか…まぁ、俺はそんなに驚かないけど。いまさらだからな」
「本当?私たち、人間じゃないんだよ?」
「見た目はいっしょだろ?それに、ただ種族が違うってだけじゃねぇか。俺らをどうにかしたいとかじゃないだろうし」
「それは、もちろんそうだけど。それでね、お母様はヤシャさえよければ時間かかるけど面倒見てくれるって」
「本当か?!いよっしゃ~そっちの方がラッキーだ!」
そう言ってまだまだ病み上がりなのに嬉しそうに両手を上へ上げていた。よっぽど魔法使いになれる道があることがうれしいらしい。
「ヤシャは人族だから確実に魔力があるかはわからないって言ってたけど…それでもよければ」
「もちろんだよ!なくても学術院に入りたいって思ってるくらいなんだ」
「なかったら何を学ぶの?」
「知らないか?薬草学ってマイナーだけど魔力を基本的に必要としない分野があるんだ。いろいろ魔法がいらない分野もあるそうだしな。ただ、問題は学術院って入学金が高いってことなんだよな」
「そうなの?」
「そうだぞ、普通院でもそこそこ取られるんだから…まぁ、後から返済とか何とかいろいろあるらしいけど」
ヤシャの一言に初めて気が付いた。当然のように生活を営むにはお金がいる。週に一回医師のところに薬をお下ろすくらいで生活費は賄えているのだろうかと。その点、学術院では基本的に貴族の子供が通うことを想定して作られているので学費というものもかかる。しかも、六年間という子供が働ける年になってもまだ学問に集中するというかなり恵まれた環境であることは間違いない。
そんな大金を工面することができようかと思いつつ、まあ帰ったら聞いてみようと思った。
「とりあえず、先生が帰ってきたら気にしないから魔法を教えてくれって伝えてくれよ」
「分かった。ありがとう、ヤシャ」
「いや、こちらこそだ。話してくれるのにだいぶ勇気のいる話題だったろ。話してくれてうれしかった」
「ううん、こちらこそありがとう。学術院、一緒に通えるといいね」
「ああ、そうだな。俺は絶対魔法に関わる仕事がしたいんだ。そのためなら努力も惜しまないさ」
「好きなんだね、魔法」
「ああ、魔法使いになるためだ。先生に弟子入りの日も近いかもな」
「ふふっ、そうだね」
そう言ってシチューを食べながら笑いあった。言おうか言うまいか悩んでいたが、かなりあっさりと受け入れてくれた彼に感謝しつつ、残りのおいしい夕ご飯を食べ進めた。その日は来客用の部屋に泊まってからヤシャの看病ついでにお母様がしてくれた話を聞かせた。魔力の操作が一番重要だという話。そして魔物と戦う時の魔物の階級に関する話なんかは彼は非常に喜んでくれた。将来冒険者になりたいという彼には必要な情報なのだろうと気をよくして話始める。次の日には夕方ごろから動き始め、一緒に牧場の仕事を手伝うくらいまでには元気になった。
いまだに熱がちょっと高かったりするらしいが、これはお母様が最初に言っていた通りに怪我に対する体の修復という反応らしい。ヤシャは少しフラフラになりながらも頑張って手伝っていた。それを手伝いながら、一緒に魔法の本を読みつつ、お母様が帰ってくるまでを一緒に過ごした。
「おやまぁ、すっかり仲良しさんだねぇ二人とも」
「お母様!?もう帰ってきたの?」
「もうって、一週間はあれからたってるぞ?」
「えっ、本当?」
「その様子だと、きちんと言えたようだね」
「うん、お母様!」
のんびりと牛を追っかけていればお母様の声が聞こえる。あまりの嬉しさにお母様のスカートに飛びつく。さすがに怒られるかと思えば、そうでもなかった。こんなに離れたのは今までなかったような気がする。
それでいてなのか、やさしくうけとめてくれたお母様にヤシャにきちんと話せたことを見抜かれる。見ているだけで気が付かれたらしい。あれからエルダさんにも打ち明けたが、驚いてはいたが何も変わりはなかった。ずっと昔からの付き合いだというが、ヤシャもお母様を尊敬していて、助けてもらったことも今回が初めてではなかったらしい。そんなことで魔女だからと隠すことにも賛成してくれ、今まで通りの扱いに本当にうれしく思った。