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流浪の魔女の娘  作者: 黒城詩音
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魔女の娘、魔物退治についていく




「さて、お前も行きたいかい?」


「どこに行くの?」


怪我をしたというヤシャのためにスタミナポーションを届け、牧場を後にした。これから帰るのかと思ったのだが、お母様が向かうのは別の方向。いったいどこに向かうのかと思いながらもついていけば、お母様の足は帰り道とは反対の方角を向いている。


「オークの討伐に行くのさ」


「お母様が?」


「そうさ、冒険者に頼もうにも…オークはあんまり人気のない依頼だからね。来るのを待っていればいつになることやら」


「私も行きたい!」


「それじゃ、魔法での戦い方を教えてあげるよ。私から離れないようにしないといけないよ」


「うん!」


どうやらお母様は魔法を見せてくれるらしい。攻撃魔法は一度も見たことがない…魔物と戦うのはちょっぴり怖いのだが、お母様がいてくれているのならそれでいいだろう。薬も伝説級の品質を作ることができるなら、きっと戦うこともできる…と思いたい。

お母様の邪魔にならない程度…それを保ちながら後ろをついていく。


「学院ではこうした実施訓練もあるからねぇ、よく見ておくんだよ」


「うん、わかった」


「オークはF級の魔物だからそんなに強くはないんだけどね。体が大きいうえに力がある」


「絵本では見たことあるけど…」


「ああ、そうだね。あと知能が低い…これがなきゃ腕っぷしだけだとE級の魔物に認定されてもおかしくないからきをつけることさ」


魔物にはそれぞれ強さに応じて階級にわけられている。最下級のFからE、D、C、B、A、S、SSの順である。それぞれが基準として危険度を表しているようだったが、うのみにしてはだめらしい。オークとスライムを例に挙げれば、同じ階級はF級だが、オークに関しては力の強さはE、個体によってはD級の強さとなるものもいるらしい。


「魔物の特長をとらえることが自分の安全につながる。これを軽視すると命に関わるんだよ」


そう言ってお母様の魔物の話を聞かせてもらいながら、普段は立ち入らない森の奥深くへと歩き続ける。お母様はどこにオークがいるのかわかっているのか足取りに迷いがなく、奥に入っていく。森の奥には少し開けた場所があるらしい。その草原に大きい体つきのオークがのんびりとお昼寝をしていた。お母様は、微笑んで頭をなでてくれた。安心しながらもお母様はそっと、羽織っているローブから小さな杖をとりだした。杖を少し振るとオークが凍った。


「えっ!?」


「今のが最下位の魔法、アイスだよ」


「氷のつぶてって…聞いたけど」


「本当ならそうなんだけどねぇ…創造を変えればああいった使い方ができるんだよ。よく見ておきな」


そう言ってお母様は目覚めたものの、身動きが取れないでじたばたとしているオークにとどめの氷のつららのようなものが突き刺さる。それで大きく一声雄たけびを上げたオークは絶命した。きっともう起き上がってはこないだろう。


「あのオークの魔力を感じることはできるかい?」


「…ううん、できない」


「そうだ、それが正解だよ。必ず確認する癖をつけておくんだよ。知能の高い魔物は死んだふりもするからねぇ」


「そうなの?」


「そうさぁ…探知の呪文は練習しておくといい。それ以外にも生活に必要な魔法に関しては今から練習していくからね」


「はい、お母様!」


そう言ってお母様は討伐されたオークを杖を使ってカバンに詰め込んでまた元来た道を戻っていった。

村に戻れば村中の人たちが慌ただしくしていた。そのうちの村長であるおじいちゃんがお母様の姿を見つけると近づいてきた。


「アンジェリーナ先生、どこに行っておられたんです?探しましたぞ!」


「オークのことかい?」


「そうですとも。今一応冒険者ギルドに連絡しましたが、恐らく…時間がかかるらしいんです」


「必要ないよ、もう仕留めたからね」


「えっ?先生、それは本当ですか?」


「ああ、今から隣町に行って換金してくる。エルダ、娘をたのめるかい?」


「それはもちろん、構わないけど…本当に倒してくれたのかい?」


「ああ、見たいかい?」


村長が慌てていたのはこれからどうやって犠牲者をなくすかを話し合っているところだったのだろう。この村に魔法が使えるのはお母様しかいない。それも、そこそこ強いと知っている村長はすぐに相談したかっただろうと思うが、お母様は先にオークを倒しに出かけて留守。

まぁ、討伐された証明にカバンからオークが出てきたときには悲鳴のような声が聞こえたが、村の人たちの顔は落ち着いていた。これでひとまずは安心だろう、みんなそう思っているのだろう。そもそも魔物が近づいていることがあんまりない。


「イレーネや、町に行ってくるからそれまでエルダのところでヤシャの看病を手伝いなさい」


「…一緒に行ってはいけないの?」


「…冒険者ギルドは少し早いからね。もし容体が落ち着かないなら二等級のポーションを飲ませるんだ」


「はい…」


そう言ってお母様は町の方にそのまま歩いて行ってしまった。歩いていくと早くても朝になるだろうが…きっと、馬を借りていくに違いない。そう思ってエルダさんに差し出された手を取って家の中に入ってった。今までは町にもお買い物だったのでついていったのだが、一人残されて寂しい。


「それじゃ、私は夕ご飯の支度をするからちょっとヤシャの様子を見に行ってくれない?」


「はい、エルダさん」


そう言われて黙って彼の様子を見に行く。彼の部屋は二階…その左奥の扉が彼の部屋。一応ノックをしてみればもう目は覚めているのか返事が帰ってきた。ゆっくりと開けると、彼はもう体を起こして本を読んでいた。


「あれ、先生は?」


「隣の町に行ったの…私はお留守番」


「隣り町?」


そう聞いてきたので彼にオークが無事に倒されたことを伝えた。すると驚いたようにして倒した時の状況を詳しく聞いてきた。ひたすらお母様に感心しつつ、次に会ったら本気で弟子入りしようかといっていた。

そんなことを話しているうちに、夕ご飯の用意ができたらしい。まだ安静のヤシャのためにエルダさんが持ってきてくれて、店を片付けるとすぐまた外に出ていった。きっとなんやかんやの騒ぎで店もそのままなのだろう。


「ったく、食べるか」


「うん、いただきます」


ヤシャの部屋のテーブルで二人のんびりと食べる。エルダさんのシチューは本当においしい…顔をほころばせていると、彼が声をかけてきた。


「なぁ、先生って…なんであんなに魔法が使えるのにここに住んでるんだ?」


「どうして?」


「王都でも行けば薬だってもっと高く売れるだろうし、王宮の魔術師にだってなれたかもしれないだろう?何もこんなに隅っこの村にいなくても…」


「のんびりとした生活がしたかったって聞いたことあるよ」


「のんびり…ね。あ~俺も魔法使いたいなぁ。あ、そういえば先生には話したくれたのか?」


「うん、話した。できないことはないけど、時間はかかるって」


「そうらしいな…お前はどのくらいで魔力を感じられたんだ?」


「えっと?私?」


「当り前だろ」


そう言われてなんて答えればいいのか困ってしまった。実は魔女で一週間ほどで魔力を感じられたと言えればいいのだが。自分一人でどこまで言ったらいいものかが迷うところだった。



 





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