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流浪の魔女の娘  作者: 黒城詩音
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魔女の娘、魔力切れを起こす



「う~ん…おなかがすいた」


朝、布団から起き上がってからいつもとは明らかに違う自分の異変に気が付いた。

昨日は母親から魔力の移動について教えてもらってからひたすら練習していた。ペンも三本くらいまでならそれぞれを操れるくらいになった。それ以上はお母様から練習を止められてお話を聞くことだけにした。

昨日のお話の中では、魔力というものは個人で容量が決まっていて、使いすぎたりすると倒れてしまったり、最悪の場合死んでしまうこともあるという。どうやら私はその魔力が通常よりも多いらしいのだが、それでも慣れないことをすると大変だからと昨日は俺から練習をさせてもらえなかった。

もう少し魔力の扱いに慣れたら好きにしていいからといわれたのだが…どうやらこの今の状況が魔力が少ないことと関係があるのだろうか。体が動かせる気がしない…なんでひと眠りした後でどっと疲れがやってきたのだろうかと思ったが、どうやってお母様を呼ぼうかと考える。むしろ、何もしなければ起きてこないと思ったお母様が部屋まで来てくれるかもしれない。


テーブルまで手が届いたので、メモ用紙にお母様あてのメモを書く。念のためにそれをドアのほうまで浮かび上がらせた。ドアの下からそれをくぐらせ、それを見つけてもらおうと思った。ペンより軽い分、うまくいったが、ドアと床のわずかな隙間から紙を通すのがこれほど大変だったとは。やり始めてから後悔した。

もっと体がだるくなってきたので今の自分は魔力が足りなくなってきている状態なのだろうと思った。扉の前まで足音がして、中に入ってきてくれないかと思ったがお母様は中に入ることなくまた足音は遠くなっていった。行っちゃった…そう残念そうにため息をついていればまた足音が近づいてきた。今度はためらうことなく扉を開けて中に入ってきた。


「おはようイレーネ、体がつらいのかい?」


「はい…なんだかだるくて」


「その状態が魔力が足りない状態だよ。さて、これを飲みな」


「お薬?」


「そうさ、最初のうちは変な味だと思うけど…すぐに楽になるよ」


そう言われて渡されたのは試験管。中に入っていつ液体はきれいな透明の青色。これが薬なのかと不思議に思った。

一気に飲み干せばなんとも言えないような不思議な味…まずい、とまでいわないがこれは一体どんな表現を出せばいいのかわからず顔をしかめる。するとそんな私の様子を見てお母様が笑い出した。


「午前中はゆっくり寝ていなさい。あとひと眠りすればよくなるよ」


「はい、お母様ありがとう」


「しかし、よく紙をあの間に通そうなんて思ったね。あれは難しかっただろう?」


「うん…時間かかった」


「お前は私が思っている以上に才能があるのかもしれないねぇ。とはいっても、今はゆっくりお休みよ」


「えへへ…お母様みたいいろいろできるようになる?」


「必ずねぇ…やっぱりお前は学校に行くといい。その方が優秀な魔女になりそうだ」


「うん、お母様みたいな魔女になる!」


「期待しないで待っているよ」


そう言って頭をそっと撫でてからお母様は部屋から出ていった。妙におなかがすいたように感じたあれは、あの薬を飲んでから感じなくなった。魔法を使うことはしないが、それでも魔法に関する本をよみながら…いつの間にか眠ってしまっていた。気が付いたころにはすっかり昼間。

体はすっかりと良くなっていたのか、軽い。とにかく軽い。ベットから飛び起きて寝間着のワンピースのままお母様の姿を探しにリビングに走っていった。


「お母様、おなかがすいた!」


「おやおや、さっそく元気だねぇ。昼食にしようか」


「わーい!」


リビングの棚を整理している様子だったお母様の腰に飛びついた。なんだか甘えたくなったから。

お母様も笑いながら頭をなでてくれ、一緒にキッチンに向かった。今日は魔法はほどほどにして一緒にお昼ご飯をつくって午後にはまた魔法の特訓。私が寝ている間に魔法の関連の本を探してくれていたらしい。数冊、簡単なものから読みなさいと渡された。

今日の特訓はペンではなくてマッチ棒だった。昨日より軽いものだったから簡単…というわけでもないらしい。なんでも軽いと魔力の調節が難しく、逆に吹き飛ばしてしまうらしい。だから今朝紙を飛ばしたことについてかなり驚いていたのだろう。少し練習したらペンと同じように三本動かすことができた。これも四本目はかなり難しく、すべて吹き飛ばしてしまった。しばらく本数に関しては増やすことを考えるなと言われたのであらゆる重さのものを操れるようになることが必要らしい。


一週間ほど特訓を続ければ三つほどまでなら普通に手で持ちきれないような重さのものを浮かび上がらせえることができるようになった。あともう少し魔力を込められるようになれれば自分よりもはるかに大きな岩なんかも浮かび上がらせることができるようになるらしい。

そんなこんないつの間にか修行の日々を過ごしつつ、また村にお使いを頼まれた。一週間に一度は頼まれるお使い…今日もまた牧場までやってきていた。


「最近姿見かけねぇよな、忙しいのか?」


「お母様のお仕事を手伝うことにしたの」


「へぇ…お前も魔法の適合あるのか?」


「そうよ、だからその練習もやらなくちゃなの。筋がいいって褒められたわ」


「いいよなぁ…俺も魔法の適合してねぇかな」


そう言ってなんだかんだ久しぶりにのんびりと話すヤシャ。魔法が大好きな彼に魔法の練習をしているといえばかなりうらやましそうな顔をしていた。

お母様は人間ならば魔法の適合は人それぞれだといっていた。魔女のように全員が使えるようになるというわけではないのだ。


「俺も魔法勉強したいなぁ」


「勉強して何するの?」


「そりゃあ、魔法使いとして有名になりたいんだよ。冒険者として名をはせたいって男なら思うだろ?」


「分からない」


「まぁ、母さんはそんなに命がけの仕事はやめなさいって反対されるんだけどな」


ヤシャの夢…魔法使い。人族で魔術を扱う人たちのこと。残念ながら彼にその才能があるのかはわからないのだが、魔法書に関してはおそらく私よりも読んでいるのだろう。


「なぁ、お前のお母さんに頼んで俺に魔法が使えるようになるのかを見てもらうことってできるのか?」


「聞いてみるけど…魔法が使えるかは人それぞれだって言ってたよ」


「そんなこともちろんわかってる…なぁ、ちょっと頼んでみてくれないか?」


「分かった…帰ったら聞いたみる」


そう言って彼はいつものようについてこないと思ったら、店番を任されているところなのだそう。それは勝手に出かけることができないはずだと思った。


 


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