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皇后であった頃の悪女は、権力を濫用し、自らは輝石にて飾り立てる 中

 そして、あの敗戦から1年半が過ぎ、常海チャンハーより、外交使節団が、快速蒸気船に乗り込み、ヌーサ共和国へ向け出港した。彌皇后、卓外務を先頭に、新たに設立された対外部署より、亜萬イーワン長官と、亜蓮アーリン、そして、外交部の多くの者たち。

 また、2年間という限定はありながら、ヌーサ共和国の教育機関で学ぶことを許された10歳から18歳までの男女が、30名いた。その中には、亜紗アーシャの幼馴染であるリャンの姿もあった。


 


 快速蒸気船は、2週間の間、穏やかな海上をひた走り、やがて、ヌーサ共和国の港へ入港した。この航海の間、大きな出来事はなかったものの、船に不慣れであった彌皇后が、入港前日に書いた日記に全てが書かれている。


『明日、ようやくにして大地を踏みしめることができると思うと感無量である。乗り始めてから1週間ほどは、酷い船酔いに悩まされ、その後も、ただ広く広がる海を甲板より見続けるしか時間をつぶすすべを持たなかった。

 

 ただ、一流の船乗りたちの能力とは素晴らしいもので、暗い海の上に、まるで目印があるように、恐れなく進んで行く。


 いつしか、親しくなった船員に航海中に怖いものはないのかと聞いてみたことがある。


 私のつたないヌーサ語に、その船員は少し考えて、「俺が怖いのは、海賊と霧だ」と答えた。


 船が背負う危機の多くに前兆あるが、海賊は考えていても防ぎようがなく、また、陸地の近くを通る際には、河から海に流れ出す霧により、目印物が消えてしまうことがあると言っていた。


 何にしろ、その2つに出会わなかった今回の航海は、成功だったと言えるのだろう。


 帰りも同じ思いをしないといけないと思うと、少し億劫ではあるが、明日からの外遊に備えることにしよう』




 ジン皇国使節団は、ヌーサ共和国の港にて、手厚い歓迎を受けた。


 そして、その夜のことだった。


 ヌーサ共和国の公邸において、ようやくに落ち着いていた彌皇后の元を、ボナパルドが訪ねた。


 不信を感じながらも、その話を聞くと、彌皇后、亜紗アーシャとの面会を望んでいる人がいるとのことだった。亜紗アーシャとその人物は、偶然にも同じ公邸に宿泊をしていた。


 その人物が何者だったのかは、記録には残っていない。ただ、同時期にブリム大帝国の外交団が、ヌーサ共和国を訪問していたことは外交記録からよく知られている。



 翌日は、汽車により、一気にヌーサ共和国の首都へとジン皇国使節団は向かった。初めて乗る汽車の速さに驚いた彌皇后は、その事を日記にただ、一行で記している。


『我、野を行く馬が、汽車の後ろに流るを見る』


 首都の駅にて、再び、大きく歓待を受けたジン皇国使節団は、首都にて、2週間にわたり、滞在を行った。その間、彌皇后は、非常に精力的に外交、視察を繰り返したと言われている。


 視察先としては、共和国貴族議会、共和国民主議会。首都兵廠工場。革命広場。などの、最新の施設やヌーサ共和国の歴史に触れられる箇所を訪れたとされている。


 ただ、外交については、目立った効果を上げることはできなかったと言われている。予定されていた、ヌーサ共和国首相との公式会談は、副首相との会談に格下げされた。他にも、ジン皇国とヌーサ共和国の軍事同盟などについては、一旦は保留とされた。


 彌皇后は、使節団の学徒たちの入学を見届け、首都を後にし、亜萬イーワン長官と、亜蓮アーリンと共に、ヌーサ共和国の地方視察に出たとされている。卓外務は、その後も、ヌーサ共和国に留まり、外交のパイプ作りに邁進した。


 彌皇后が、ヌーサ共和国の地方視察から戻ったのは、ちょうど、1か月後であった。




「彌皇后、ようやくにお戻りになりましたか」


「卓外務。ヌーサの言葉が板についてきたわね。」


「はは、毎日聞いていれば、日常会話くらいはできるようになります。では、こちらの活動報告になりますお目通しください」


 彌皇后は、卓外務より書類を受け取り、一つ一つを確認し始めた。交易の確保や技術者の派遣など、重要事項が記載されていた。静かに、彌皇后は、それを読み進め、一つのページで手が止まった。


「……卓外務。この件について教えてください。」


「はい。軍部よりの提案だったのですが」


 卓外務は、彌皇后に、説明を始めた。その話に、彌皇后は、少し困った表情を浮かべた。


「良い提案が、最善とはなりえない……このことを、如何に取り扱うかは、重要な案件になります」


 卓外務は、彌皇后の言葉に、頷いた。重要な案件で、今回の外交の一つの大目的ではあったが、それ自体が、劇薬と言える大きな問題を背負ったものだった。


 彌皇后は、テーブルにその資料をおいた。


 そこには、半年ほど前に依頼した新造の軍船4隻に関する売買に案件に関する提案書があった。ただ、ブリム大帝国を刺激する可能性の高いその案件は、この時は一時保留とされ、今後は常海チャンハーのヌーサ共和国大使館を通じ、話し合いを継続することとした。


「ところで、どこを視察されたのですか?」


「ええと、北部と港町、後軍港を少しね。やはり、進んでいるわね」


 明らかに何かを隠している彌皇后の言葉に卓外務は、訝し気な表情を浮かべたが、それ以上、主を問いただすことはしなかった。



 ヌーサ共和国での日程が完了したため、ジン皇国の使節団は、再び快速蒸気船に乗船し、ジン皇国へ帰国した。

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