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皇后であった頃の悪女は、権力を濫用し、自らは輝石にて飾り立てる 上

 その夜、彌皇后は、皇宮に残った有力な人材を集め、ささやかな宴をもよおした。


 その場には、ヌーサ共和国の使節団並びに、三賊の内、河賊と馬賊の二賊も同席していた。最初こそ、眉を顰めたり、遠目に物珍し気に見ていた皇国の面々であったが、四務が話すのを見て挨拶を交わし、話をするうちに、その立ち振る舞いの教養の高さ並びに、その知見の深さに圧倒された。


 宴が、盛り上がる中、彌皇后が、壇上に立った。場に一時沈黙が降りた。静まり返った

場の中で、彌皇后は、一人話し始めた。


「みなが、ここに残り、ここで皇国の存続を願ってくれていることを嬉しく思う」


 彌皇后は、そう切り出し、一旦言葉を切った。そこにいる全員と、今も働いているであろう人々全てを見るように、視線を送った。


「私が、今、宮下でなんと言われているか知っている者も、多いと思う。」


「今日、私は、自分の不明を悟った。皇国に足り得ぬものを悟った。……今の皇国は足り足りぬものに満ち満ちている」


「宮下にて、私は、皇国の伝統を損ない、蒙皇王を軟禁し、自らの放蕩に力を注ぐ悪女と言われているという……私は、あえて、そうなろうと思う。四務にはすでに話したが、私は、本物の悪女となる。皇国の威に泥を塗り、厳を削いだ者として、歴史に名を遺す」


「だが、ここにいる、皇国に忠を誓う諸君らは、恥じ入ることはない。悪名は私が持っていく。先を行く諸国に学び、今まで、卑賊と侮る者たちと交わり、皇国の伝統を傷つけてもよい。明日の皇国があるために、皇宮があるために。

 私の名はいくら汚れてもかまわない。諸君らの力を貸してほしい。」


 頭を下げた彌皇后の姿に、あっけにとられていた臣下たちだったが、一人の嗚咽が、その静寂を打ち破った。


「……宝軍務」


「彌皇后。そのように言わないでください。ここに残っている者は、全て貴方様の味方です。貴女様一人が、背負い込むことではありません」


 宝軍務は続けた。


「我々は確かにあの時負けて、今も負け続けていますが、勝ちましょう。彌皇后の下に、ジン皇国の勝利をもたらしましょう。我々は、貴女様の献身に応える用意がある。他三務も、同じ気持ちです」


「今日、昨日までのジン皇国は、終わりました。明日からは、蒙皇王の地位こそそのままですが、新しい体制を作っていきます」


 武財務が、そう述べて、強く頷いた。


「明日より、外国の人々と、今まで、私たちが、卑賊と呼んできたものたち、そして、市井にある者たちが、皇宮に入り、皇国で働くこととなる。

 これに異を唱えるものは、去るが良い」


 徐内務の声が、部屋に響いた。彌皇后は、静かにただ、目を閉じ、扉が開く音を聞いていた。


 再び目を開いた彌皇后は、思わず安堵の声を漏らしたという。


 その場にいたすべてのものが、彌皇后に忠を取る所作を取っていた。




 その日から、全てが変わった。彌皇后は、卓外務に命じ、ヌーサ共和国との交渉のために、外遊を行うことを決定した。その話は、ボナパルドを通じ、ヌーサ共和国に届けられ、外交日程が組まれた。


 徐内務は、三賊との交渉に望み、国内の秩序安定を図った。それは瞬く間に功を奏し、国内交易路が安定するとと同時に、低下していた税収も、回復の一途を辿った。また、国内の有力者と交渉を行い広く、有能な人材を、皇宮に招き入れることに尽力した。


 宝軍務は、軍の規律の再生並びに、軍備の近代化を推し進めることにした。宝軍務は、ボナパルドの提案を受け、今まで全軍の統括としていた自らの役割を見直し、新たに陸軍を総括する陸督、水軍を総括する水督を設立し、その陸督には、丘賊のリョ、そして水督には、河賊のヤンを任命した。

 この時、軍への希望者を、市井から募ったところ、予想を超える数の希望者が、出たと言われている。


 その間、彌皇后は、非常に忙しくも、充実した日を過ごしていた。皇都だけにとどまらず、様々な場所に、徐内務とともに赴き、民の声に耳を傾けた。その積極的な姿勢に心を打たれ、皇宮に元勤めていた者たちの中には、再度皇宮へ戻るものもあられた。彌皇后は、それを赦し、武財務に命じ、適材適所への振り分けを行った。


 これらのことには、最初こそ戸惑いと疑いの声が高かったものの、効果を発揮していくにつれ、その声は、低くなっていった。それには、彌皇后が対話を重んじ、反論意見にもよく耳を傾け、取り入れるべきところは取り入れていったからという部分も大きい。




 この1年は、比較的平穏であった。しかし、決して何事もなかったというわけではなく、大なり小なりと案件は生じた。特に大きな出来事として挙がるのが、扶奈国との小競り合いである。



 扶奈国は、常海チャンハーに外国の大使館が置かれたことに対し、彌皇后を排するべきだと、怒りの声が上がっていた。扶奈国の軍部の一部が独自の判断で、約3000(他輸送隊500)もの兵力を、皇宮へと差し向けた。


 対して、新たに命じられたリョ陸督は、宝軍務の指示の上で、1000の新規に増設された機甲師団を率い、相手を迎い討った。


 700の兵を平地においたリョ陸督の軍を、扶奈国の軍は、3000の兵力全てを投入し、前方から鶴翼に構え、襲い掛かった。


 最初こそ拮抗していたが、数に押され、リョ陸督は、後退を指示。馬隊並びに軽装歩兵隊を基軸に組まれた、起動力に優れた部隊は、即座に後退を開始し、それを、扶奈国の軍が追った。



 これを手柄と急いだ、扶奈国の軍は、1町半(6キロ)ほど追撃していたが、いつしか、小高い丘のそびえる平地に誘いこまれ、遼陸督たちの部隊を見失った。すでに時刻は、夕暮れに差し掛かっていたたが、追撃を急ぐために、松明に灯をともした。その瞬間だった。


 辺りの丘から、号砲が響き渡ったかと思うと、榴弾と、丘に埋伏していた皇国軍が、扶奈国の軍へ襲い掛かった。


 罠と気が付いたときにはもうすでに遅く、退路を断たれ、その戦闘に居合わせたもので生きて帰ったものはいなかった。それは、実に戦力の半分以上にあたった。時を同じくして、見失ったはずのリョ陸督の部隊は、扶奈国の輸送隊に襲い掛かっていた。補給物資は、略奪され、兵糧を運搬していた荷車には油が巻かれ火が放たれた。


 その追撃は緩むことなく、扶奈国の国境を超え、帰国の途につけたのはることができたのは、わずか20人にも満たなかったと言われている。ただ、この大失態は、蒙皇王の耳に入ることなく、扶奈国の一部の将の暴走とされ敗戦の責任を取り、何人かの将が処罰を受けたとされている。



 戦勝ではあったものの、内戦と言っても過言ではないこの事態に、彌皇后は、深く悲しんだと言われていて、戦闘の1週間後、激戦の地に赴き、両軍の鎮魂の義を執り行い、捕虜の一人と言葉を交わしたと言われている。捕虜の多くは、元皇国の民が多かったため、扶奈国への帰国を断り、皇国軍への編入され、ジン皇国への帰順を申し出たと言われている。



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