伝説のギフトサイト
ある日、友人から伝説のギフトサイトとやらを紹介された。
なんでも、一番欲しいものが手に入るのだという。
仕事でひどく疲弊していて、元気づけようとしてくれたのだろう。
しかし私の最も欲しい物は、通販なんかでは絶対に手に入るはずもないものだった。
その通販サイトは一つしか商品がない上にレビュー等の評価欄も見当たらず、詳細が掴めない。怪しいが、絶大な信頼を置く友人の直樹が強く勧めるので注文した。
届いたのは年季の入ったオルゴール。白い埃まで積もっていて、なんだコレ、と心の中でぼやく。
とりあえず、固いゼンマイを回してみた。
何十年ものなのか、ホラー番組で取り上げられそうな不況和音を奏でている。こんなものを送りつけてくるサイトのどこが伝説なのか。
音は諦めて観察してみたが、N&Kと文字が刻まれている以外に特別な仕掛けもないようだった。
最初から全く期待はしていなかったが、対価を払っていてこの結果は納得いかない。そもそも奴はなぜこれを勧めてきたのか。おい、直樹。絶大な信頼が失われつつあるぞ。
翌日、直樹に報告をした。
「ねぇ見て、このオルゴール。教えてくれたあの伝説サイト使ったんだけど、こんなの送られてきて意味がわからなかったよ。説明書もないの。せっかく教えてくれて申し訳ないけど、がっかりしちゃった。」
「わざわざ持ってきたのか。鳴らしてみた?」
「うん。でも、有名な曲とかじゃないみたい。」
「じゃあ僕が今、この曲に歌詞をつけてあげようか。」
「ふぅん、やってみてよ。」
「よし。ねじ巻いて。」
この流れで、なぜ歌詞をつける気になったんだろうこの人は。
出会ったのは最近だし変わった人だけど、なぜか信頼できる人だと確信している自分がいる。
そんなことを考えながら、埃を払ってネジを巻き、オルゴールを鳴らす。
合わせて直樹が歌い出す。
すると、私の頭の中で、友人の歌う声が次々と玉のようなオルゴールの音に変換されていく。
同時に、鮮明に脳裏に蘇る一場面。それは私を抱きしめて歌う女性とオルゴールに触れる私の小さな手、隣にいる幼な子が私を「かな、かな」と呼ぶ声だった。
「その歌、お母さんの……。」
そう呟いた瞬間に、目の前の友人が微笑んで優しく呟く。
「香ー奈。」
まさか、まさか、信じられない。
「な……ほんとうに……? 」
「オルゴールは気に入りましたか? 」
「うん。お兄ちゃん。 」
それは確かに私が最も欲しかった、たった一つのギフトだった。
ギフトサイトそのものさえ、直樹が香奈のために作ったものでした。