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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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魔法は結構大変

「さて、これからはちょっと真面目な話をするから茶々を入れるなよ。」

「は~い。」

人体模型改めハーツの言葉に彼女はバールを高々と掲げて応える。もう言葉とは裏腹に茶々を入れる気満々だ。それを見てハーツはこれでもかという程念を押してきた。


「本当に真面目な話なんだからなっ!もう時限爆弾の起爆解除方法の説明くらい真面目な話だからなっ!だから絶対黙って聞いていろよっ!あっ、黙っていろって言うのは動くなってのも含むからなっ!絶対動くなよっ!特に腕は一ミリたりとも上げるんじゃねぇっ!」

「いや、そこまで念を押されると逆にやらねばならない気がしてくるんだけどどっちなのよ?」

「あんたはどこぞの漫才グループの一員かっ!」

「う~んっ、突っ込み具合まで定番ね。えーと、ならば私はどう返すんだっけ?」

「漫才じゃねぇっ!」

ハーツは別に狙っていた訳ではないのだろうが、何故かとある漫才グループの定番ネタをやってしまったらしい。なので彼女もハーツが狙っているのか素なのかの判断がつかないようである。


「はぁ、はぁ、はぁ・・、駄目だ。久しぶりなもんだから息があがる・・。と言うか俺って突っ込み担当じゃねぇよ。」

「軟弱ねぇ、そもそもあなた息なんかしているの?見たところ肺は一ミリだって動いていないようだけど?」

「いいから黙って聞いていてくれよぉ。この体って基本動かねぇから突っ込み動作が出来なくてイラつくんだからよぅ。」

「あら、ごめんなさい。ではどうぞ。」

そう言うと彼女はバールをテーブルの上に置く。だが手はバールに添えたままだ。


「いや、そこまで素直に言うならバールはどこかに仕舞って欲しいんだが・・。」

「さっ、ぐすぐずしていると校内退校のベルが鳴っちゃうわ。それでなくても長い話になりそうなんだからとっとと進めて頂戴。」

彼女はハーツの懇願を無視する形で話を進めるよう促がした。それによりハーツも漸く諦めがついたのが魔法陣の説明を始める。


「先にも言ったが魔法陣って描画精度よりも誰がどんな思いで描いたかの方が重要なんだ。」

「ふむふむ。画力は関係ないと。」

「まぁ、だからと言って全くの出鱈目では作動しない。ここら辺は何回か練習して修得して貰うしかないな。」「えっ、練習が必要なの?と言うか練習で異世界へ行けるなら卒業式を待つ必要はないじゃない。」

ハーツの説明に早速彼女が突っ込んだ。だが、彼女の言う事も最もである。なのでハーツもその事を説明し始めた。


「いや、練習は別の魔法陣でやる。これは魔法使い見習いたちも一番最初に練習するレベルのやつだから俺でも教えられるんだ。」

「あら、転移魔法じゃないのか。残念。」

「あんな超高等魔法陣なんか俺に扱える訳ないだろう?あんただって魔法使いが用意したアイテムを使わないと出来ないんだぜ?」

「アイテム?なにそれ?」

「あーっ、それに関しては後でな。あんたにはまずは魔法陣の描画に慣れてもらう。これが出来ないと話が進まないんでな。」

「えーっ、これからやるの?」

「いや、今日は説明だけだ。でも出来れば早い内に練習して貰いたい。さっきも言ったがこれが出来ないと時期が来ても跳べないから。」

「うへっ、段々話が面倒になるなぁ。」

「あんた、如何にも現代の若者的だな。ポイっと能力を貰えるのは物語の中だけだぜ?」

「はいはい、ラノベ脳で悪うございました。では続きをどうぞ。」

「練習で描く魔法陣についてはその時に説明するんで今回は本番の魔法陣の説明だ。ちょっと彫刻家から貰ったノートを見てくれ。」

ハーツに言われて彼女はノートの魔法陣が描かれたページを開いた。


「基本魔法陣は呪文の集合体だ。えーと、こっちの世界で言うところのプログラミンクリストみたいなもんだな。」

「プログラム?それってコンピューターとかを動かすやつ?うへっ、降参だわ。もっと別の事で例えてよ。」

「あーっ、プログラミングが判らないか。う~んっ、これが一番例え易いんだけどなぁ。まっ、仕方ない。そうだな、行動予定表って言えば少しは判るか?」

「何時に何をして、その次に何をするってやつ?」

「そう、それだ。魔法陣にはそれらの情報が書かれていると思っていい。つまり魔法呪文を書いた御札みたいなもんだ。」

「あーっ、成程ね。魔法陣って魔法発動時の飾りじゃないんだ。」

「アニメと現実をごっちゃにしないでくれ。魔法ってやつは結構単純なんだよ。だけど単純ゆえに元となる魔法単体が出来る事は限定される。でもそんな基本魔法を組み合わせればどんな魔法も実現化出来るのが魔法の強みなんだ。」

「それって玩具のブロックで色々な形のモノを作るのに似ている?」

「おっ、その例えは中々いいな。うんっ、小さな最小単位を組み合わせて大きなものを作り出すってところはまさにその通りだ。だが玩具のブロックはどんなに形を似せたとしてもそれは真似ただけだ。真似た物には変化しない。でも魔法は真似た物と同等なものになる。いや、それ以上の付加価値だって付けられるんだ。」

「えーと、ちょっと休憩していい?頭がこんがらがっているんだけど。」

「あっ、すまん。まぁ、これは基礎の基礎だからちょっと念を押しただけだ。あんたにはアイテムを使って跳んでもらうからあまり気にしないでくれ。ただ、これから説明するが、魔法陣ってのは描いた者の思いを反映する。だからあんたにはちょっと精神鍛錬をして貰う事になると思う。」

「精神鍛錬?まさか私に山に籠もって滝に打たれろと?」

「はははっ、あんたがやりたきゃそれでもいいがもっと別の方法だ。えーと、こっちの世界で例えるとVR空間とかかな。」

「VR空間・・、こりゃまたえらくハイテクな言葉を持って来たわね。」

「あくまで例えさ。異文化間での意思の疎通は共通事項を見つけるところから始めるからな。あんただって全く理解できない概念を説明されても嫌だろう?」

「ほほうっ、これはこれは。ハーツったら教えるのに熱心な先生みたいね。」

「あんたは自分が興味を持った事しか熱中しない駄目生徒みたいだよ。」

「ふふふっ、今のは聞かなかった事にしてあげる。さっ、続きをどうぞ。」

彼女は手元にあるバールを握り直してハーツに説明の続きを促がした。それを見たハーツはげんなりした様子で説明を再開する。


「さっきも言ったが魔法ってのは基本魔法の組み合わせだ。そして複雑な魔法になれば成程組み合わせる基本魔法の量は膨大になる。これを一々詠唱していたら日が暮れちまう。ましてや途中で間違ったらやり直しだからな。なので大抵の魔法は予めパッケージ化されていて呪文を短文化してある。えーと、プログラミングで言うところのバッチファイルみたいなもんだ。あっ、すまん。プログラミングでの例えは判らなかったんだな。」

「それって言葉の省略みたいなもの?例えば『あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します』っっていう新年の挨拶を『あけおめ』って言うような。」

「あーっ、似ているけどちょっと違う。その例えだと相手が『あけおめ』の意味を知っている必要があるだろう?でもパッケージ化された魔法ってのは元となる呪文群は別に用意されていて、その用意されている呪文群が書かれているノートのページを指定する感じだ。」

「あーっ、成程。所謂インデックス化なのね。」

「そうだ、だから一度作られパッケージ化された魔法はそれを呼び出すトリガー呪文を覚えるだけで済むんだ。もっとも呼び出すのも魔力が必要だから誰でも出来る訳ではない。最上級の3級魔法なんてチカラのない者が下手に呼び出したりしたら全魔力を吸い取られて死んじまいかねないくらい危険なんだぜ。」

「げーっ、魔法って結構危ないシロモノなのねぇ。」

「そうさ、だからみんな修行するんだよ。もっとも魔法使いって結局は持って産まれた才能がモノを言う業界だからな。才能のない者が修行で到達できる域は限られている。だから魔法使いってやつは血統を重んじるのさ。」

ハーツは彼女に魔法の基礎から教えようとしているのだろうが、段々話が本筋から外れてゆく。なのでそこを彼女に突っ込まれた。


「えーと、教えてくれているのに悪いんだけど、そこら辺の事はパッケージ化してポイっと頭に入れられないの?なんだか話が本筋から離れている気がするんだけど?」

「おっと、すまねぇ。確かにそうだな。いや、俺も魔法は本業じゃねぇからよ。教わった事をそのまま伝えようとするとこんな感じになっちまうんだ。いや~、あの勉強の日々は地獄だったぜ。あの魔法使い、魔法能力は大したものだったが教えるのが下手でよぉ。天才はなんでも感覚で表現するから理解するのが大変だったぜ。」

「へぇ~、ハーツも勉強なんかするんだ。」

「も、とはなんだ、も、とはっ!当たり前だろうッ!知らねぇ事は勉強して覚えるもんなんだよっ!出来ない事は繰り替えし練習して身に付けるもんだっ!神さまからポイっと貰えるのは物語の中だけだちゅうのっ!」

「ふふふっ、そうね。現実は厳しいもんねぇ。でもなんでハーツは魔法なんて勉強しようと思ったの?」

「だからあんたを連れて帰る為さ。一応、彫刻家のおっさんを洗脳してあんたが胸像からメッセージを聞くようにはしていたが、絶対ではない。何か不具合が起こってあんたにメッセージが届かないなんて事も有り得るからな。魔法陣にしたって向こうの世界で何かまずい事が起これば失敗するかも知れないんだ。だからそんな事になった場合、俺があんたを送り出せるように準備しておいたのさ。」

「送り出す?さっきは連れて帰るって言ってなかった?」

ハーツの言葉の変化に彼女は違和感を覚え質問した。だがハーツは誤魔化す。


「あーっ、単なる言い間違えだ。気にすんな。うんっ、日本語って難しいからなぁ。」

「ハーツ、あなた何か私に隠しているわね?」

ハーツの説明に納得できない彼女はバールを少し持ち上げて問い質した。


「くっ、いやだからさ。俺の使命はあんたを向こうの世界へ行かせる事なんだよ。その為に幾重もの方策を準備しているんだ。中にはかなりヤバイ方法もある。でも取り合えず今のところは順調だ。だから気にすんな。」

ハーツは気にするなと言ったが彼女はその言葉にハーツが背負っている使命の重さを感じとった。

幾重もの方策。多分その中にはハーツ自身の魂を差し出して解決させる方法も入っているのだろう。そしてハーツは多分そうしなければならない時が来たら躊躇わずにそれを実行するはずだ。そんなハーツの気概を感じて彼女はそれ以上問い質すのを止めた。

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