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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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転移準備

さて、喋る人体模型に驚くことも無く異世界への召喚を承知した彼女だが、いざ跳ぶに当たっては色々問題があった。その中でも一番の問題点は直ぐには異世界へ跳べないというものだった。


「ちょっと、どうゆう事よっ!ハーツっ!なんで異世界へ行くのに2年以上待たなきゃならないのっ!」

彼女は人体模型からその一番の問題点を聞いて怒り出す。因みにハーツとは人体模型の名前だ。正確には人体模型に転移憑依した羊飼いの名である。彼はフルネームをハーツ・ガブリエルと言った。意訳すると『天使の心臓』である。


「いや、そんな事を俺に言われても困るんだが・・。とにかくそうゆうもんだと思ってもらうしかない。でも一応説明すると、魔法使い曰く異世界への実体の転移には時と場所がリンクしなきゃならないんだと。俺の場合は魂だけ送られたからその制約はなかったみたいなんだが、あんたはその体ごと持ってこいって言われてるからな。」

「時間と場所・・。で、その時間と場所の正確な日時はいつなの?」

「えーと、時間は2年後の3月1日。丁度あんたの卒業式の日だな。そして場所はこの備品保管庫だ。時間に関しては結構マージンがあるから何時との指定は無い。ぎりぎり翌日でも何とかなるはずだ。でも前日は駄目だな。なんかイベントをトリガーとするらしいから。つまりあんたの卒業式があんたを王子のいる世界へ跳ばす引き金らしい。」

「私の卒業式がトリガー・・。」

彼女は中学の時の卒業式を思い出す。もしかしたらあの時点で王子からのメッセージを受け取っていたら今頃彼女は王子の元にいたのだろうか?いや、異世界への跳躍には時と場所がリンクしなきゃならないらしいから、仮にもっと早くメッセージを受け取っていても待ち時間が長くなっただけかも知れない。

だが、そんな事を思った彼女を気にするでもなくハーツは説明を続けた。


「まぁ、だからと言ってその日が来ればぽいっと跳べる訳でもない。ちゃんと手続きがあるんだ。その一番重要なのが魔法陣さ。」

「ああっ、もしかしてこれの事?」

彼女は彫刻家から渡されたノートを取り出し、一番最後のページに現れた如何にも中2病発病者が描きそうな文様をハーツに見せる。


「おうっ、それそれ。いや~、そこにあったのかぁ。うんっ、良かったぜっ!俺も一応覚えたんだけどイマイチ自信がなくてな。うんっ、オリジナルがあって良かった。」

「これって本当に魔法陣なんだ・・。なんか如何にもアニメ辺りに出てきそうなありふれた模様なんだけど?」

「そうなのか?まぁ魔法使い業界も色々あるからな。もしかしたらどっかの世界の魔法使いがこっちに来て広めたのかも知れない。でも形だけをなぞっても魔法陣は発動しない。発動させるにもそれ相応の手続きがいるんだ。」

「ふ~ん、結構大変なのね。漫画やアニメでは結構簡単に発動させているみたいだけど。」

「あーっ、そこはほら、大人の事情ってやつがあるんじゃねぇのか?俺は観た事が無いから判らんが。」

「大人の事情ねぇ。子供たちに夢を与える業界がそんなんじゃ夢も覚めちゃうなぁ。」

「まぁ、こっちの世界の業界事情は取り敢えず置いといてくれ。まずは一通り説明をしたいからな。」

「あっ、そうね。うんっ、ごめん。続けて。」


「まず魔法陣の形に関してはその絵の通りに描けばいい。ちょっとくらい線がぶれたって構わない。まぁ、文字なんかは出来るだけ正確に描いて貰いたいが絶対ではない。」

「ふぅ~ん、そうなんだ。」

「結局、魔法陣によって発動するのは魔法だからな。つまり魔法陣はその魔法を発動させる為の魔力収集装置みたいなものらしい。だから重要なのは魔法陣を描いたやつの魔法を発動させたいという思いなんだと。因みにこれは魔法使いからの受け売りだから質問はなしだ。」

「あーっ、そうなんだ。でもやっぱり質問っ!こっちの世界にも魔力なんてあるの?」

「あーっ、そこね。うんまぁ、科学至上主義な考えに染まっているやつには判らんか。でもこっちの世界だってスピチュアルな現象はあるだろう?何でもかんでも科学で説明は出来ていないはずだ。」

「うっ・・、まぁ、そうね。」

ハーツの説明に彼女は口ごもった。確かに現代でも科学で説明できない現象は結構ある。だがそれをもって魔力が存在すると決め付けるのはどうかと思うのだが?


「そもそも、今の俺があんたと喋っている事を科学的に証明できるかい?」

「あーっ、そう言われればそうね。」

「実はこの人体模型には小型カメラとスピーカーが内蔵されていて、俺は遠くからインターネット回線で喋っているだけなんだけどな。胸像だって赤外線センサーで人を探知して内蔵された超音波発信機で脳に直接言葉を送っているってのが種明かしなんだけど。こんなのにころりと騙されるなんて、あんた結構ちょろいねぇ。」


バンっ!

ハーツのからかいに彼女はまたしてもバールでテーブルを叩く。だが、今回はハーツも備えていたのか驚いた様子はない。


「はははっ、怒ったか。まぁ、今のは嘘だ。でも向こうの世界じゃこの手の詐欺は結構あるからな。一応警告を兼ねて騙してみた。」

「あなた、実はひねくれ者なのね。」

「俺がひねているかは別にして、あんたが行く世界はこっちの世界とは常識からしてまるで違うって事を言いたかったんだ。向こうではこっちの常識は通用しない。ましてや、ちょっとここをこうすればいいのでは?おーっ、すげーっ!なんていうテンプレ展開もない。確かに科学的な知識や技術はこちらの世界から見たら発展途上かも知れないが、それを補って余りある魔法が向こうにはある。仮にこっちの世界と向こうの世界がガチで戦争したら8割りくらいの比率で向こうが勝つと断言するぜ。」

「8割?それはまた大きくでたわね。あなたの世界ってまだ鉄砲も発明されていないんでしょう?」

「それがどうした?別にそんなもんを使わなくたって人は殺せるんだぜ?」

「うっ、まぁそうなのかも知れないけど、剣と鉄砲では絶対鉄砲の方が有利だと思うけど?」

彼女は何故かムキになってこっちの世界を援護し始める。まぁ、それは多分帰属意識がそうさせているのだろう。誰しも自分が属している組織が劣っているとは思いたくないのだ。だが、そんな気持ちをハーツは簡単に打破してきた。


「あんた、魔法の事を失念しているよ。相手にそんな兵器があると判った時点で対応策を取るに決まっているじゃんっ!」

「あーっ、魔法かぁーっ。確かに魔法って何でもありって感じだもんねぇ。もしかしてジェット戦闘機なんかもカラスを落とす程度の感覚で撃ち落せちゃうの?」

「楽勝だね。もっともそれにはかなり高位な魔法が必要だろうから、誰でも出来るって訳ではないだろう。でも魔法ってアイテム化出来るからな。そうなれば一介の兵士だって対応できるさ。」

「うっ、まさになんでも有りだわ。ちょっと魔法ってずるくない?と言うか、そんな世界なら兵士なんていても仕方ないんじゃないの?魔法使いがいれば全部片付くでしょう?」

彼女はこちらの世界の感覚では規格外とも言える魔法使いという存在にちょっと嫉妬しハーツに質問した。


「いや、だからそれも度合いによるさ。あんたの国の格言にもあるだろう?最強の矛と最強の盾の話が。」

「矛盾って言葉の語源ね。成程、魔法使いには魔法使いをぶつければいいのか。因みにその格言の元は隣の国よ。私の国のオリジナルじゃないわ。それにしても、あなた本当にこっちの世界の情報に精通しているわね。あっ、これはハーツ自身の知識じゃなくて前任者のインテリさんの情報か。」

彼女はハーツがこちらの世界の情報に詳しい事に改めて驚いたが、直ぐにそのカラクリを思い出し納得した。


「まっ、確かに情報の元の持ち主はそうだが今は俺のものだ。所有権は俺にある。まっ、相続税は払ってないけどな。」

「情報の継承に税金は掛けられていないわよ。いや、その内なるかな?使用権なんかはそれに近いかも?」

「あんたも結構食いつきがいいな。でも話が反れたんで戻すが、勇者として行くあんたを騙そうとするやつはそういないと思うが、逆に騙そうとするやつは相当手の込んだ方法を取ってくるはずだ。だからあんたにはそこら辺の心構えをしっかりして貰いたい。」

「大丈夫っ!私ん家では、変な電話が掛かってきた時は家族間で取り決めておいた符丁を言い合う事にしてあるからっ!」

「・・、いやさすがに向こうの世界にまで詐欺電話を掛けてくるやつはいないと思うが・・。でもまぁ、心構えはそんな感じだ。いいか、向こうには魔法がある事を忘れるなよ。あんたも言っていたが魔法って何でもありだからな。俺や王子に化けるなんて上級魔法使いたちには朝飯前なんだからさ。」

「あなたに化ける?えーっ、向こうにも人体模型があるの?うへっ、それは嫌だな。」

「そんな訳あるかっ!向こうに戻ればちゃんと俺の体があるわいっ!・・、いや、あるよな?王子、ちゃんと保管しておいてくれてるよな?あれ?なんか不安になってきた・・。」

「大事にされ過ぎて何十にも鍵のかかった部屋に置かれていて、でもその鍵を無くしちゃって開けられなくなって干からびたミイラみたいになってたり?」

彼女は今までのお返しとばかりにハーツの不安を煽りだす。


「うっ、有り得そうで怖い・・。いや、待てっ!そうだっ!時間経過に関してはこちらで過ごした時間は考慮されないって魔法使いが言っていたっ!つまり俺はこっちに跳んだ日にまた戻れるはずなんだっ!うわっ、あんまり長くこっちにいたから忘れてたぜっ!ふぅ~、よかった。」

「なんだ、つまんない。でも本当に魔法ってチートね。時間軸まで弄れちゃうんだ。」

「あんた段々性格が崩壊しているな。なんか下手なラノベの暴力ヒロインみたいになってきているぞ?」

「あら、そう?まぁ、バールもあるしね。お望みなら一発かまして差し上げてもいいわよ?」

「勘弁してくれ・・。」

いや、だから人体模型は学校の備品なんだから大切に扱って下さい・・。

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