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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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モンシュルの戦い

ホワイトたちの次の目標はトーレルの町から北に30キロ程の距離にあるモンシュルの町である。だがこの町は元々3千人のグレートキングダム駐留軍がいたのだが、トーレルの町陥落の知らせを受けてグレートキングダム側は大幅な増兵を決定し、既に配備を終えていた。その数なんと6千っ!それとは別に4千の予備兵力の投入準備も進められていた。

これはこの付近に展開しているグレートキングダム側の全戦力と言ってよかった。つまりそれ程ジャンヌによるトーレルの町陥落の報はグレートキングダム側に驚愕を持って伝わったのだ。

たが対するホワイトたちガレリア側にはまともに戦える兵士の数は2千と少々しかいなかった。それ程トーレルの町での戦いは激烈を極め倒れ傷ついた者が多かったのである。

しかし、ホワイトはこの戦力差をそれ程気にしてはいないようだった。何故ならホワイトの元にはトーレルの町での勝利を聞きつけた周辺諸侯から参戦したいとの連絡が数多く寄せられていたからだ。それとは別に民たちの自発的な参加も続々と続いていた。なので1週間も待てば戦力的にはグレートキングダム側と同等以上になるとホワイトは踏んでいたのである。

それにグレートキングダム側がモンシュルの町の守りを固めれば固めるほどモンシュルの町を落しさえすれば決戦目標であるオルレアンまでの防備が薄くなる。如何に数で勝るグレートキングダム側とてこれ以上の兵力の分散展開は無理とホワイトは集めた情報から判断していたのだ。

故にモンシュルの町での戦いはホワイトたちにとって決戦とも言えた。グレートキングダム側には最後の切り札としてオルレアンの町があるが、その町へ辿り着く為の最後の障壁がモンシュルの町だったのである。


なのでホワイトは完璧な準備が整うまで動く気はなかった。だが、そんなホワイトに対して不満を言う者がいた。そう、それはジャンヌだった。


「ちょっとホワイトっ!折角私がやる気になったのになんでこんなところで止まっているのよっ!さっさとモンシュルの町へ行ってぱぱっと片付けちゃいましょうっ!」

「あーっ、そうしたいのは山々なんだがな。だがまだ準備が整わない。」

「準備ってなによっ!大砲はあるし兵隊さんたちだっていっぱいいるじゃないっ!」

「ジャンヌ、戦いは数の多い少ないで決まるものではないが、だからと言って寡兵で戦いを挑むのは愚者の戦法だ。モンシュルの町のグレートキングダム側兵力は増強を受けて当初の見込みよりかなり増えていると報告があった。そんなところに何の備えも無く突っ込むのは狂信者だけだよ。俺はごめんだね。」

「むーっ、難しい事を言って誤魔化そうとしてもだめよっ!やる気こそが勝利の必須条件っ!数だけ揃えたやる気の無いグレートなんちゃらなんて今の私たちの敵じゃないわっ!」

「ふぅっ、吹っ切れた途端これだ・・。参ったなぁ。」

やる気満々の彼女に対し、ホワイトは手綱の引き具合をどうしたものかと思案する。確かに彼女の言い分も一理ある。それ程勢いと言うものは馬鹿に出来ないのだ。だが、それでも数の原理は生きている。なのでこのまま戦いを挑んでもまた多大な犠牲を出すのが目に見えていた為、ホワイトは軍を進軍させないのだ。

いや、それでも勝利を手にする事が出来るのなら指揮官としてホワイトは進軍を命じただろう。そして今のガレリア側の士気からすればそれも不可能ではない。だが、ホワイトはその考えを捨てた。何故ならその為にはモンシュルの戦い以上の生贄が必要となるはずだからである。

これはひとえに彼女の為であった。ホワイトは彼女に立て続けに地獄を見せたくなかったのである。確かに彼女は勇者ではあるが戦いの神ではない。ひとりのか弱い女の子なのだ。そんな彼女に如何に勝利の為とは言え準備が整わない状態で戦いの場などに立たせたくないというのがホワイトの本音だったのだろう。


たが、ホワイトのそんな思いとは別にジャンヌは早く戦いを終わらせたかった。故にモンシュルの町に対しても早急な攻撃の開始を望んだ。彼女にとっては戦えば自分たちが勝利するのは確定事項となっており、ならばすぐさま攻撃を開始して一刻でも早く戦いを集結させたかったのである。

何故なら彼女の心の奥には戦いはうんざりだが、戦わねばこの状況が終わらないならとっとと戦って終わらせたいという短絡的な願望が芽生えていたからである。つまり現状の否定だ。

人は恐怖から逃れたいが為に時に整合性を欠く稚拙な行動に出る場合がある。今の彼女がまさにそれだった。彼女は無意識なのだろうが、目の前の汚物を見なくていいようにさっさと水洗トイレのレバーを回したがっていたのである。


だが結局ホワイトはそんな彼女の要求を受け入れる事にした。何故なら早く事を成さねば彼女の心が持たないと判断したからである。上辺だけは吹っ切れたように装っているが、彼女の心の奥に刺さった棘は未だ抜けておらずちょっとした刺激で彼女を痛めつけていた。なのでホワイトとしても荒治療にはなるが目の前の敵を早急に倒す事によって彼女を理不尽に突き刺す痛みから救いたかったのであろう。


その後、彼女の要求にホワイトが折れる形で準備が整わない状態であったがガレリア軍はモンシュルの町を攻撃する事となった。古参の将校たちはこの決定に顔をしかめたが、彼らに向けて彼女が檄を飛ばすと何も言えなくなりしぶしぶとではあったが従う事となった。今の彼女はそれ程、彼らの間では絶対的な存在となっていたのである。


そして今、ホワイトたちはモンシュルの町と川を挟んだ対岸に陣を敷いていた。モンシュルの町は地形を巧みに利用し三方を川とその川から引き込んだ水路を堀代わりとした鉄壁の防御能力を有していた。そんな町がグレートキングダム側の手に落ちたのはただ単に住民の代表者たちがガレリア王国を見限りグレートキングダム側に組したからである。なのでグレートキングダム側はこの町を占領する際に血を流していない。

なのでホワイトたちにとってはモンシュルの町の住民は反逆者としか映っていない。逆にモンシュルの町の住民にとってもホワイトたちは解放軍ではなく、もしも陥落した場合略奪の限りを尽くされかねない恐ろしい殺戮者として代表者から説明されており、それ故にグレートキングダム側への協力を惜しまなかった。


そんなモンシュルの町を前にしてホワイトたちは本陣にて軍議を開いていた。

「以上がグレートキングダム側の兵力と装備の予想値だ。装備はともかく兵力は町の規模から考えても誤差はないと考えている。ただ兵糧等は向こう岸から幾らでも搬入出来るので兵糧攻めは意味がない。川を遡って回り込むにもそんな事をしている間に敵の応援部隊が到着してしまう。そうなると両方から挟撃される危険が高い。兵力差を考えるとそれだけは避けねばなるまい。」

ホワイトの説明に居並ぶ将校や諸侯たちが頷いた。


「だからと言って正面からの力攻めではあの町はまず落せない。それを成すだけの兵力も我々にはないしな。と言う訳で最初の一撃で勝負を決したい。とは言っても正攻法では太刀打ちできないので攻撃方法は奇襲となる。」

ホワイトの説明に諸侯は目でその方法は?と聞いてきた。


「モンシュルの町はその防衛能力の殆どを眼下の川に依存している。故に周壁自体の高さと強度はそれ程でもない。なので川さえ渡河してしまえば周壁を突破するのは今の我々の戦力でも容易かろう。」


「いや、ガルバニア殿。言うのは容易いがそれが出来ぬからあの町は鉄壁の防衛と言われているのですぞ?」

「そうですな。ちと楽観的過ぎませぬか?全くモンシュルのやつらは忌々しい。あの防衛能力を持ってグレートキングダムのやつらと相対してくれたなら如何ほどのダメージをあいつらに与えられたか計り知れぬものを。」

「確かに周壁は我々のウォーグレールを持ってすれば破壊するのは容易いでしょうが、周壁を破壊してもその前の川を渡河できねば意味がない。それに簡易な周壁はそれ故に簡単に補修できてしまう。多分大穴を穿っても夜間の突貫工事で塞がれてしまうでしょう。」

ホワイトの言葉に将校や諸侯が一斉に意義を唱えだした。だが、そんな彼らにホワイトはまたしても隠し玉の存在をほのめかす。


「そうだな、諸君の懸念ももっともだ。なので再度ここで秘密兵器を登場させる。いや、あれは秘密兵器と言うにはちょっとありきたりかな。まっ、取り合えず後で見てくれ。あれを見れば諸君の懸念は払拭されるはずだ。」

「秘密兵器ですとな?」

「ああ、ただウォーグレールと違いがさがでかくてな。ここには持ち込めない。それに姿を見られては敵に対応する時間を与えてしまうのでな。なので今は別の場所に待機させてある。まっ、用途としては渡河用の橋みたいなものと思ってくれ。言葉で説明しても実感出来ぬであろうからとにかく今はそれを使って周壁に兵を送り込めるとだけ頭において作戦を進めよう。」

「橋のようなものですか・・。しかし、あの川幅に橋を架けるのは容易ではありませぬぞ。」

「それを一気にやるから秘密兵器なのさ。まっ、見れば判るよ。さて、それでは各諸侯の攻撃範囲と手順を決めよう。」

ホワイトは諸侯の疑念をよそに攻撃作戦のまとめに入った。確かに川さえ渡れてしまえばモンシュルの町の周壁を乗り越えるのは難しい事ではなかった。それにホワイト側には精密射撃が可能なウォーグレールがある。そうなると次の懸案事項はモンシュルの町内での市街戦をどう戦うかが焦点となる。

この時代、周壁に囲まれた町を攻略する時の要は周壁であり、それを突破した後の市街戦はオマケのようなものだった。そもそも大抵は周壁を突破された時点で町側の兵士は逃げ出すので大規模な市街戦は起こり得なかったのである。

しかし、今回はモンシュルの町の住民たちからの反撃が予想された。彼らにしてみれば町を守りきらねば行くところがないのだからグレートキングダムの兵士より必死なはずなのだ。なのでその点をホワイトは将校たちと諸侯に念を押したのである。

数で劣るホワイトたちは住民たちを捕縛している余裕は無い。しかし、見張っていなくては後ろから襲われる危険があるのだ。故にホワイトはグレートキングダム兵だけでなく住民も捕虜にするなと告げていた。それはつまり見つけ次第殺せという事だった。

その説明にその場にいた者たちはみな口をつぐんだ。先程モンシュルの町の住民を口汚く罵っていた諸侯でさえ、いざ住民を殺せとホワイトに言われて顔が青ざめたほどだ。

だがホワイトにとっては敵に与した者は全て敵であった。故に排除するのが当然だという態度を示した。その冷酷な命令にその場にいた者は、ホワイトが泣くも黙る戦場の悪鬼と味方にすら恐れられていたサザンクロス・ガルバニアである事を思い出したのであった。


そして軍議があった翌朝、それは朝霧が漂う中モンシュルの町の前を流れる川岸に姿を現した。それこそがホワイトが秘密兵器と諸侯に言っていた渡河装置『スライド・ブリッジ』の長大な雄姿であった。

将校たちはその姿を前日に見ていたのだが、初めてその姿を見た兵士たちはそれがどんな用途に使われるのかさえ思いつかないようであった。

実際、スライド・ブリッジの見た目は巨大な荷馬車に角材に何枚もの板が貼られた木材が積み重なっているようにしか見えない。ただそんな荷馬車が数え切れないほど川の縁に集結していたのだ。それらの廻りには工兵とおもしき兵士が近隣から労働力として徴発した男衆相手に指示を出しながら忙しそうに動き回っていた。そして怒鳴り声を上げながら準備作業をしている。


「違うっ!その台車はもっと後だ。順番を間違えると柱が合わなくなるだろうっ!気をつけろっ!」

「すいませんっ!」

「そっちのはもっと隣と離せっ!その角度だと途中で流れにさらわれちまうっ!出だしは川上に向けるんだっ!それでも途中で流されるからなっ!完成形は弓みたいに湾曲するんだ。それを頭の中にイメージしろっ!」

「レールは真っ直ぐに設置するんだ。傾斜角度は3度だからなっ!これは急でも緩くても駄目だぞっ!」

工兵たちは連れてきた男衆にまずは川の護岸に川に対して直角に何やら板を敷いていた。どうやらその板の上に荷馬車を走らすつもりらしい。ただその板には地形を利用して傾斜が付けられている。そんな滑り台のような板が何本も河川敷に作られようとしていた。

そして朝霧が晴れる頃、漸く工兵たちは準備を終えたようだった。そして工兵の隊長がホワイトへ準備が整ったと報告する。


「スライド・ブリッジ12列。全て準備が整いました。川の水量と流速は想定内です。いつでも行けますっ!」

「うむっ、ご苦労であった。それでは始めるとしよう。」

ホワイトの命令に工兵隊長はそれぞれの持ち場で待機していた小隊長に合図を送った。それを受け12箇所で一斉にスライド・ブリッジを載せた荷馬車が傾斜路を滑り出す。とは言っても自重がある為かその動きは鈍い。しかし、一旦動き出した荷馬車は傾斜を利用して徐々に速度を上げ川へと突き進んだ。そしてとうとう最初の一台が川の中へと突っ込む。

その衝撃の為だろうか、荷台に乗っていた組板が前方へと張り出した。その動きに合わせるかのように積んであった太い柱が組板に引っ張られる形で置き上がり組板の両側にそそり立った。その柱は組板には固定されておらず筒状のもので組板と接続されていた。

だがその後が見物でそそり立った柱の一番上で爆発が起こったのだ。その衝撃で柱は川底へと突き刺さる。その突き刺さる衝撃を切っ掛けに2度目の爆発が柱の上で起こり柱は尚も深く川底へと突き刺さった。

爆発によって柱は少し短くなったが、それは計算されていたのだろう。2度の爆発にて川底に固定された荷馬車はあっという間に一台で8メートルもの長さの橋へと変化したのである。

そしてその後からも次々と出来立ての橋を渡って荷馬車は送り込まれた。そしてそれぞれが端の先端で川に突っ込むと8メートルづつ橋を長く伸ばしていった。そう、つまりスライド・ブリッジとは既に組み立てられていた橋のパーツを傾斜を走らせる勢いで先端に運び、火薬の力で橋脚を固定してゆく半自動簡易橋設置装置の事だったのだ。

そしてとうとう工兵たちは12台目で対岸まで届く全長96メートルの弧の字に伸びた橋を完成させてしまった。所要時間はなんとたったの10分である。

ただ、12列あった列の内、4列は途中で馬車がひっくり返ってしまい対岸まで届かなかった。しかし、工兵たちはそれを人力でどかし、予備の荷馬車を投入する事によりなんとか12本の橋を完成させた。

しかも、そのあまりの構築速度に周壁からその様子を見ていたグレートキングダム兵たちは攻撃する事すら忘れて見入っていた。それ故に敵からの攻撃もなく、工兵たちは見事川にスライド・ブリッジを架ける事に成功したのであった。

だがこれはこれから始まる戦いの舞台へ昇る為の足がかりが完成したに過ぎない。なので本当の戦いはこれからだった。

しかし、この迅速な渡河橋の敷設はスライド・ブリッジの事を知らされていなかった味方の兵士たちには驚きの声を持って迎えられた。そして最後の12本目の橋が向こう岸まで達するとどこからとも無く歓声が沸き起こり、やがてその歓声は彼らの天使であるジャンヌを称える声へと変わった。


「シャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌっ!」

「我らへ足場を与えたもうた女神に栄光あれっ!」

沸き起こる興奮を抑えきれないガレリア側に対して、周壁からその様子を見ていたグレートキングダム兵たちは悪夢を見たかのように一様に青ざめている。中には後ずさり逃げ出そうとした兵士もいたが、それらは将校により問答無用で後ろから斬られていた。


「うろたえるなっ!例え渡河出来たからと言って数では我々の方が数倍上だっ!古来より防衛戦は守る側が有利なのは知っておろうっ!それにあれはわざわざ渡河地点を教えてくれたようなものだっ!別の場所に設置したガトリング投射器をこちらへ回せっ!串刺しにしてくれるわっ!」

グレートキングダムの将校の檄により兵士たちはぎこちなくではあるが防衛準備を始める。その中には将校が『ガトリング投射器』と呼んでいたグレートキングダム側の新兵器を数人の兵士がスライド・ブリッジを狙うのに最適な位置へ移動させる姿もあった。


このように両陣営が戦闘に向けて慌しく動き回る中、工兵隊長からスライド・ブリッジの設置完了との報告を受けたホワイトは当初の予定どおり先発隊へ突撃命令を下す。

「突撃隊っ、前進せよっ!弓隊は援護投射を始めろっ!ウォーグレール隊は城塔を重点的に破壊しろっ!」

「おーっ!」

ホワイトの命令により各隊の隊長たちは配下の兵士たちへ戦闘開始の合図を送る。そしてそれぞれの部署で待機していた兵たちは進撃ラッパの音を聞きながら敵が待ち構えるモンシュルの町の周壁へ向けて戦闘を開始したのであった。

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