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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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マリア・ロンギヌスの幸せ

その後、トーレルの町陥落の知らせは早馬にてアルバート王子の下にも届けられた。その報せは忽ち王子が率いる兵士たちにも伝わり歓声を持って迎えられた。そしてやはり陣のあちこちでジャンヌコールが湧き上がる。

逆にその歓声を遠く聞いたグレートキングダム側は何が起こったのだと訝ったが、ジャンヌの名前を聞いた途端、またガレリアの魔女がどこかでグレートキングダム側の占領地区を打ち破った事を理解し意気消沈したのであった。

そんな双方相反する空気の中、アルバート王子は自軍の兵士たちにこれで最後にすると言い放って再度攻撃命令を下す。

この時代、確かに数の原理は大きな勝利要因ではあったが、それだけが勝利の鍵ではなかった。そう、兵士の士気こそが最終的に戦いの趨勢を自分の方へ引き寄せる見えざる大きなチカラとなるのである。

今や王子が率いるガレリア軍の士気はトーレルの町陥落の知らせによりピークに達しようとしていた。何よりそれを成したのが救国の天使たるジャンヌだと彼らは思っていたので、その庇護は当然自分たちにも及ぶはずだと考えたのだ。

なのでガレリア側は、それまであれ程攻めあぐねていた敵を多大な損害は出したもの今回の戦闘での一気に攻め落としてしまった。これぞ勢いと言うものの怖さであろう。


そしてアルバート王子はその勢いを緩める事なく、次の目的地へと軍を進めようとしていた。

だが、そんな勢いに乗るガレリア側であったが、戦いの天王山となるであろう最終攻略目的地を攻略するのは容易いことではない。なので王子は事前にホワイトと練っていた計画を実行した。


戦いの戦後処理に追われながらも勝利の興奮が冷めないガレリア側の兵士たちが配給された酒で盛り上がっていた時、アルバート王子は接収した領主の館の一室でひとり誰かを待っていた。そんな王子の下にひとりの女性が訪ねてくる。その女性とはマリア・ロンギヌスであった。


「お呼びでしょうか、アルバート王子。」

マリアは王子の前で跪くと頭を垂れてかしこまった。そんなマリアにアルバート王子はいつものように軽い感じで話し始めた。

「うん、ジャンヌのおかげで兵たちの士気はすこぶる高くなった。なので計画を早めて僕らはオルレアンへ向おうと思う。そこで君にお願いしたい。先にオルレアンへ侵入し敵を霍乱して欲しい。」

「仰せのままに。」

王子のお願いにマリアは即答で応えた。だがそんなマリアに王子は言い訳のような言葉をかける。


「これは非常に危険な任務だ。何と言っても周りに味方はいないのだからね。だけどグレートキングダム側との兵力差を考えるとどうしても必要な作戦なんだ。そしてそれを任せられるのは君しかいないと思っている。」

「お任せ下さい。必ずややり遂げてご覧にいれます。」

マリアの返事に何故か王子は暗い表情となる。


「ごめんね、マリア。もしかしたら君は生きて帰れないかも知れない。」

「心得ております、王子。されど我が身は王子に捧げたもの。如何様にもお使いください。」

「・・、ありがとう。」

王子はマリアの返事に一言感謝の言葉をかけた。本来ならもっと何かを言うべきなのかも知れないが、お願いの体をとっていても実質は命令である自分の依頼になんの要求もなく応えてくれたマリアに対して王子はかける言葉を見出せなかったのだ。

そんな王子の心情を察したのかマリアが王子にお願いをしてきた。


「されば王子、ひとつだけお願いがございます。どうか、王子の御髪をひと房頂戴しとうございます。」

マリアの言葉に王子は暫し黙り込んだ。これは別に髪の毛をやるのが嫌だという訳ではない。それどころか王子はこのマリアのお願いの奥底にある意味をちゃんと理解していた。それ故の無言であった。

王子にとって女性から思いを告げられる事など以前は日常茶飯事であった。まぁ、それは王子の容姿と明るい性格を持ってすれば当然なものであろう。つまり王子はモテモテだったのだ。

しかも誰に対しても気さくな態度で接してくる王子は、女の子たちにとっては思いを告げる敷居がとても低かった。なので王子の周りにはべる事ができた女の子たちは挨拶代わりのように王子に告白してきたのだ。

だが、そんな女の子たちからの告白と、今マリアから告げられた思いには雲泥の差があった。それが判るから王子はすぐには答えられなかったのであろう。

今の王子が置かれた状況ではマリアの心の奥底にある思いに応える事は到底出来ない。それはマリアにも判っていた。それ故のお願いだったのだ。


これは所謂プラトニックな想いであろう。マリアとしては墓場まで隠し持って行くつもりだった想いだ。だが、死地へ赴くにあたり、その想いが零れ落ちてしまった。

なのでマリアは自分が口にした言葉に自身で驚いていた。だが後悔はしていない。それどころか最後に思いを告げられた事に喜びさえ感じていた。なので王子にお願いを拒絶されたとしてもマリアに悔いはなかった。

しかし王子はそんなマリアに声を掛けるでもなく、手元にあった短剣にて前髪を一掴み断ち切った。それをハンカチに包むとマリアに差しだした。

その光景を目を見開いて見ていたマリアは震える手でハンカチへ手を伸ばす。そんなマリアの手を王子は優しく掴んで告げた。


「マリア、これでぼくらはいつまでも一緒だね。」

「!!。」

王子の言葉にマリアは体に電撃が走る思いがした。王子はマリアの思いを受け入れてくれたのだ。それはもしかしたら非常な命令を課した自分を偽る為の言葉だったのかも知れない。だが王子の本心がどこにあろうともマリアにはその言葉だけが真実であった。


「・・勿体無いお言葉です。それではこれにて。」

王子からの予想外の言葉にマリアは逆に居た堪れなくなりその場を離れようとした。でなくては更なる思いを王子にぶつけてしまいそうだったからである。だがそんなマリアに王子か声を掛けた。


「待って、マリア。どうか僕にもマリアの髪をくれないか。」

「!!。」

王子の言葉にマリアは思考することすら終いかねない程の衝撃を受けた。この状況において互いの髪を交換するなどまるで恋人のような所業である。だがマリアがその様な立場になる事はあり得ない。なんと言っても相手は一国の王子なのだ。軽々しく恋愛などできる立場ではないのである。

だが、今ここには二人しかいなかった。なのでこの事を知るのはふたりだけだ。そんな思いがマリアの脳裏を走った。

これは私たちだけの秘密。ならば許されるはずだ。

そんな思いに駆られたマリアは王子から短剣を受け取ると自身の髪を断ち切り王子へと差しだした。


「ど・・、どうぞ。」

マリアは震える手で自身の髪を王子に差しだす。それを王子は受け取り鼻先へ持っていった。

「うんっ、マリアの香りだ。」

「お恥ずかしい限りです・・。突然の呼び出しに手入れもせずに馳せ参じたものですから・・。」

王子の行為にマリアは思わず言い訳をしてしまった。しかし気持ちとしては天にも昇る思いである。そんなマリアに王子は更に声を掛けた。


「マリア、もうひとつお願いしてもいいかな?どうか今夜は僕と一緒にいてくれ。」

王子の言葉に、もはやマリアは反応できない。ただ黙って王子を見つめて差しだされた王子の手を掴むのが精一杯だった。そして、掴まれた手に引き寄せられるままマリアはアルバート王子の胸の中に飛び込んだのであった。


翌日、マリアはアルバート王子の下を離れ、王子からの命令を成すべくオルレアンの町へと向った。その後、アルバート王子が率いる軍もオルレアンに向けて進軍を始める。だがその為には前に立ち塞がる防衛砦を幾つか攻略する必要があった。

そう、事態はアルバート王子側に優位に推移しているといっても全体ではまだグレートキングダム側が優勢なのには変わりがなかったのである。

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