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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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トーレルの戦い

さて、そんな秘密兵器であるウォーグレールが到着した事によりガレリア側の士気は否応もなく高まった。そしてその興奮は戦闘開始直後にピークを迎える。何故ならなんとアルフィエールはウォーグレールの第1射目でトーレルの町の城門へ砲弾を命中させるという離れ業を披露したからだ。


「うおぉぉぉっ!」

「すげぇーっ!」

「やっぱり俺たちには天子様がついていて下さっているんだっ!」

その光景を見た兵士たちはそれぞれ感嘆の声を漏らす。もっともこれはかなりの偶然が要素として含まれていた。つまりラッキーだったのである。だが大砲の事をよく知らない者にとっては結果だけが全てであり、そうゆう意味ではホワイトたちはまさに天の加護を受けているとも言っても過言ではなかった。

それに、何と言ってもガレリア側には紫紺の衣をまとった天使がガレリア国シビリアン王朝の旗を手に本陣に立っていた。その姿を目にした兵たちの心には、自分たちは神から祝福されている。ならば自分たちが負ける訳がない。いや、負ける訳にはいかないという気概が込み上げていたのである。

まぁ、その彼らが天使はウォーグレールが放つ轟音にびっくりして声もなく立ち竦んでいたのだが、遠めには轟音にも怯まず前を見据えているように見えたのだから、主観と傍観の差とは各も異なるものなのかを示していた。


その後、アルフィエールたちウォーグレール部隊は周壁に陣取る弓兵を目標に射撃を続けた。だがその命中精度は徐々に落ちてゆく。これは連射による砲の熱膨張がかなり関係してくるのだが詳しくは説明しない。何故ってそんなのを聞いてもつまらないでしょう?

だがそれらの現象は砲兵にとっては当たり前の事なので、彼らはそれ程気にしていないようだった。ただ黙々と目標に向って砲弾を撃ち込み続けた。

そして、予定していた量の砲撃が完了すると、ホワイトは兵士たちに突撃を命じた。その声に待機していた兵士たちが攻城用の梯子を手に走り出す。それを砲撃の被害を免れたグレートキングダム側の弓兵たちが狙い撃つ。しかし、その矢数はまばらだ。


「ぐわっ!いっ、いてぇーっ!」

「喚くなっ!この程度の矢数でびびってるんじゃねぇっ!昔はこんな量じゃすまなかったんだぞっ!」

「げぇ~、これで少ないのかよ・・。あいつらどんだけ弓兵を配備してたんだ・・。」

個人用の小型の盾の隙間から足に矢を喰らった新兵のぼやきに古参兵が喝を入れる。だが新兵たちも口ではぼやきながらもその足が止まる事はなかった。

そして矢が降り注ぐ中、とうとう先陣をきった部隊が周壁に梯子を立てる事に成功する。この梯子はただの梯子ではなく、周壁沿いに掘られた幅3メートルの堀を跨いで建て掛けれるような工夫が施されていた。それはつまり堀の深さ3メートルに合わせて折りたたみ式の足場が付いていたのだ。

その足場は梯子を持ち上げると自動的に展開し堀の下に接地する。これにより周壁に立てかけられた梯子は堀を跨いだ角度でも十分な強度を持つ事ができたのである。

但し、その工夫の分だけ梯子は重くなり持ち運びや持ち上げに労力を必要とした。なので技術者はホワイトの許可の下、梯子の強度を落して軽量化を図った。

これにより梯子を運用する為の人数は工夫前よりは少なくすんだが、一度に梯子を昇れる兵士の数が制限されてしまった。しかし、ホワイトは堀を埋めてから通常の攻撃を仕掛けるより迅速な展開が可能なこの折りたたみ式梯子を採用した。それ程、今回の戦場では時間が勝敗を左右すると踏んだのである。

もたもたしていては、グレートキングダム側の援軍がやって来て二重包囲と言う最悪の事態に陥る。それを防ぐ為の手立てが今回の折りたたみ式梯子だったのである。


グレートキングダム兵はそんな梯子を押し返そうと周壁に梯子が掛かった場所に群がるが、ガレリア側の弓兵がそんな彼らに向って下から矢を射かけた。

それでもグレートキングダム側は最初のふたつまでは梯子を外す事に成功する。だが周壁に向ってくる梯子の数は20を超えていた。そしてグレートキングダム側はその全てには兵士を回せなかった。

何故なら今激戦が行なわれている正面だけでなく、時を合わせてトーレルの町の四方からグレートキングダム側は攻められていたからだ。なのでグレートキングダム側はそちらにも兵力を割かねばならず、正面を守りに配備できた兵士の数は全兵力の半分以下だったのである。

もっとも兵力の分散はガレリア側にも言えるのだが、ホワイトは正面以外の陣には少数の兵しか回さなかった。つまり正面以外は陽動だったのである。だが、グレートキングダム側としては陽動と判っていても対応しなくては町の中へ進入を許してしまう。なので同じ兵力の分散でもグレートキングダム側とガレリア側では比率が違った。

そうは言っても城塞戦では守る方が有利である事には変わりがない。その常識をホワイトはフェイクで覆そうとした。つまり欺瞞だ。

実は最初にグレートキングダム側に外された梯子は外される事を前提とした簡易なものだった。ただ、それを周壁の左右遠い場所に仕掛ける事により、周壁上のグレートキングダム側の兵力を分散させたのだ。そして正式な折りたたみ式梯子は堅牢な足場を持ち、且つ、梯子が緩い角度で壁に掛かる為押し返すのが容易ではない。

その一瞬の隙を突いてガレリア兵は周壁の上へと躍り出る事ができた。もっとも最初に突撃した兵は忽ち待ち構えていたグレートキングダム側の兵に囲まれ袋叩きにあった。しかし、梯子の強度の問題でひとりづつでしかなかったが後続の兵が後から後から昇ってくるに至って、徐々に人数の差は縮まった。

そう、梯子の角度が緩くなった為、逆に登坂速度は早くなったのだ。なのでトータルでみると周壁へ昇りつく兵士の数はほぼ垂直な梯子を直登させた時と大して変わらなかったのだ。


そんな周壁廻りでの戦闘とは別に、城門周りでも激戦が繰り広げられていた。確かにウォーグレールの砲撃により城門は破壊されていたが、それは表側にある第一門だけで、奥にある第二門は無傷のままだったのだ。

なのでガレリア側の兵は邪魔な第一門の残骸をロープをくくり付けて引き剥がすと奥の第二門目掛けて衝角を突撃させる。因みに衝角とは有体に言うと荷馬車に先の尖った丸太を載せたものだ。それを勢いよく門壁にぶつける事により門を破壊する道具である。

なので衝角は重量がある方が突破力は高いのだが、そこは人力で押すので重くするにも限度がある。重過ぎると勢いがつかないので破壊力が逆に減ってしまうのだ。この辺りの匙加減は経験がものをいう。そして今回ガレリア側には絶妙なバランスをもって衝角の重さを選定できた古参がいたのだった。

それでも大抵は城門とは一撃では破れない。それくらい城門とは堅固に造られているのだ。それでも第二門は予備的なものなので第一門に比べれば厚みもない。なのでガレリア側の兵士たちは数回の突撃で打ち破れると踏んでいた。

だが、そこは突破されたら負けが確定する正門の守りである。当然、第一門を破られた後の対処も抜かりはなかった。

グレートキングダム側の兵たちは第二門に突撃してくる衝角に対して上から油を撒き火を着けた。だがこれはガレリア側も予想していたので衝角を押す兵士たちは全員厚い毛皮を頭から被り対応していた。

もっともだからと言って体全体を覆う事は出来ていない。だが兵士たちは腕に火の付いた油が付着しようともその足を止めようとはしなかった。これぞまさに戦場の狂気の成せる技なのだろうか。衝角を押す兵士たちには今、目の前の門を打ち破る事しか頭にないのかも知れない。

そしてそんな衝角の5度目の突撃でとうとう第二門も撃破された。引き戻される衝角の脇を槍を持った突撃兵たちが衝角によって穿かれた穴から場内に飛び込んでゆく。しかしそんな彼らを場内で待ち構えていたグレートキングダム側の弓兵が射抜き片っ端から殲滅してゆく。

だがそんなグレートキングダム側の対応も、衝角の6度目の突撃で大きく扉を壊された門から雪崩れ込んできたガレリア側の兵士たちには弓兵の数が足らず通用しなかった。

なので門の周りは忽ち両軍の兵士たちによる白兵戦が始まった。こうなると弓兵は矢を射る事ができない。相当な近距離からでないと味方にあたる危険があるからだ。なので弓兵も弓を捨て剣を抜いて走り出す。

最初こそは数に勝るグレートキングダム側が優位に見えたが続々と門をくぐって進入してくるガレリア兵たちは仲間の屍を踏み越えて奥へ奥へと突き進んで行った。


その状況を本陣から見ていたホワイトは勝利を確信した。なのでグレートキングダム側の増援に備えていた予備兵力も投入し、一気にカタを付けるべく号令を出した。


「全軍、突撃せよっ!俺に続けっ!」

ホワイトはジャンヌをハーツに任せると自身は馬を駆けさせ残っていた部隊を引き連れて最後の仕上げに向った。そんなホワイトたちをジャンヌは呆然と見送る。既に彼女は戦場の狂気は体験していたのだが、現代人である彼女にとってそれは慣れる事などできぬ異常な体験だった。

それに彼女には、顔は知らねどそこかしこで倒れている兵士たちは自分が鼓舞しここへ連れて来たと言う思いがあった。故にそんな者たちが今はもの言わぬ屍となって地に伏している事に耐えられない思いが湧き上がっていたのだろう。

そんな彼女にハーツが声をかける。


「ジャンヌ、気をしっかり持ってくれ。ホワイト様も言っていたが、これは俺たちの問題なんだ。だからあんたが気に病む必要はない。あんたは俺たちに利用されただけなんだ。その事を忘れないでくれ。」

だが彼女はハーツの言葉に応えない。ただ瞬きもせず眼窩で繰り広げられている殺戮に見入っていたのだった。


そしてとうとうトーレルの町の周壁にガレリアの旗がはためいた。町の中ではまだ戦闘は続いていたが趨勢はほぼ決まったとみて良いだろう。

だが、激しい激戦の末に掴み取った勝利故にその代償は大きかった。崩れた周壁の下には幾多の兵たちの死体が横たわっており、正門の前などはまさに山積みとなっていた。白兵戦が繰り広げられていた街中も状況は同じはずである。

そんな地獄絵のような光景の中をジャンヌは護衛兵に囲まれながら町の中へ入場した。それは当初よりホワイトに言われていた行動だった。

何故ならジャンヌは兵士たちの心の拠り所である。なので兵たちが勝ち取ったものをその目で見て、且つ兵たちに労いの言葉を掛けてくれとお願いされていたのだ。

そんな彼女にガレリアの兵士たちから祝福の言葉が投げられる。


「ジャンヌっ!我らが女神っ!」

「この勝利をあなたへ捧げようっ!」

「我らはあなたと共にあるっ!」

「ジャンヌ、ばんさいっ!」

「ジャンヌっ!ジャンヌっ!ジャンヌっ!」

やがて彼女の周りでは生き残った兵たちのジャンヌコールがこだました。そんな声に彼女は笑顔で手を振り応えた。だが彼女の内心では凄まじい葛藤が渦巻いている。しかし、彼女はそれを表にはださない。何故なら兵士たちの前では絶対に悲しそうな顔をするなと事前にホワイトに釘をさされていたからだ。

そう、彼女は兵士たちにとっては女神なのである。その女神が悲しげな顔をしていては彼らが命がけでもぎ取った勝利に水を差す事になる。故に嘘で構わないから兵たちの前では笑ってくれとホワイトは彼女にお願いしていたのだ。

なので彼女は笑う。必死になって笑顔を保つ。心の中は涙で溢れていたがそんな事はおくびも出さずに兵たちに笑顔で手を振り続けたのだった。

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