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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
40/50

鼓舞演説っ!

そしてとうとう決戦の日の太陽が東の大地から昇ってきた。彼女も初陣と言う事で緊張しているのか、いつものぐだぐたとした寝起きではなく、家主の奥方からの朝食の準備が出来たとの声にちゃんと一発でベッドから起きだした。


「ほうっ、今日は随分と早いな。どうした?もしかして眠れなかったのか?」

「いえ、眠れたのですけどなんか夢見が悪かったみたいで・・。」

彼女はホワイトの問い掛けに眉間に指を沿わせながら答える。まぁ、夢の中でまでハーツと漫才をやっていたら確かに疲れは取れないだろう。しかし、実は相方のハーツも同じだったらしい。うんっ、本当にこいつら仲がいいな。夢の中でまでシンクロしていたのか?それって究極のコンビだよな?


「さて、今日の予定は前にも話したがこの町の民衆に対して対グレートキングダム戦への参加を募る檄を広場で飛ばして貰う。時間としてはお昼過ぎだ。この時間なら結構な人数が集まるはずだからな。それに飯を食って腹が満ちたやつは頭の回転が落ちるらしい。なので徐々に雰囲気を作り出し一気に丸め込む。」

「う~んっ、なんか変な高級羽根布団の押し売り説明会みたいな論法だわ・・。」

ホワイトから前日に受けた説明により彼女は演説会の流れを把握していたが、そのやり方がまさに集団相手の詐欺まがいだったので彼女は乗り気ではなかったのだ。それ故に先ほどの言葉が口をでたらしい。

だが、元々戦場への勧誘などまともな方法では人が集まるはずもない。そもそも、今日広場に集まる人たちは、自分たちの兵役ノルマはちゃんと果しているのだ。なのでそれ以上の生贄を差し出させるにはそれ相応の理由または利益が必要なのだった。

こちらの世界では確かに領主からの命令で出兵するのは民の義務であったが全員ではない。一家にひとり兵士として出陣すればよいというシバリがあった。そしてこの町の人々もそれに従い家族を出兵させている。

だがそうやって集めた現在のガレリア王国の戦力ではグレートキングダム側に対抗できなかった。その兵力差はおよそ3倍。なのでその差を埋めるべく画策されたのが今回の新規兵士募集巡業なのであった。


そしてとうとう時間はお昼過ぎとなる。彼女は広場に設置された壇上の上に立ち周りを見渡した。そこには結構な数の人々が集まっていた。


「あら、びっくり。まさかこんなに人が集まるとは思ってなかったわ。何をやったの?」

彼女は隣に立つホワイトに話し掛けた。それに対しホワイトは少しふざけた内容を返してきた。


「なに、異国の劇団がやって来たのでお披露目を兼ねて主役の可愛い女の子が挨拶すると触れ回っただけさ。だから来たのは殆ど若い男たちだけだろう?」

「うっ・・、なんか始まったら物を投げつけられそうな釣りだわ・・。」

「そんな事はさせないさ。さて、みんなも待ちくたびれているようだ。開幕するとしようっ!」

「うーっ、緊張するなぁ。うんっ、未来。ここは畑。彼らはかぼちゃよ。私は畑でかぼちゃ相手に練習するだけ。まぁ、そうは言っても口のあるかぼちゃだからヤジが飛んでくるのは覚悟しなくちゃね。うんっ、やるわよっ!」

そう言うと、彼女は壇上から民衆に向けて第一声を発した。


「みなさんっ!私はジャンヌ・オルレアンと申します。私は今日ここで皆さんにお願いしたい事があって集まって頂きました。でもその前に今この国が直面している問題をお話したいと思います。それは既に皆さんにも影響を及ぼしているであろう隣国グレートキングダム王国からの侵略です。彼の国は古来より我がガレリア王国の良き隣人として王室同士の繋がりも深く、互いを尊重しあいながら今日までやってきました。だが、グレートキングダム王国の現国王カシム・キングダムは先人たちが積み重ねてきたこれまでの友好関係を反故にし、前王朝との血縁関係を盾にあろう事かシビリアン王朝の正当性を愚弄し、自分こそがガレリア王国の後継者であると宣言して我が国に侵攻して来たのですっ!」

彼女はそこまで一気に喋ると一拍の間を置いて民衆を見渡した。そんな彼らの反応は概ね予想通りで関心は薄かった。中には期待はずれだったと言う感じでその場を離れて行く者の姿もちらほらと見える。なので直ぐに彼女は次の話題へと話を進める。


「みなさんっ!そんな大儀を伴わない不当な侵略に対し、皆さんの家族は古来からの慣わしにより狼藉を働く敵をこの国から追い出す為に戦っていますっ!ですが周到な準備の下に今までにない兵力にて侵攻して来た敵に対し、我々の兵士たちは数の力によって押され続けています。これは個人の武勇の問題ではなく、只単に数の差故の撤退です。そう、敵は卑しくもそれまでの慣習を強権によって破壊し、適齢期の若者たち全てを強制的に徴兵しているのですっ!確かにそんな理由で無理やり兵士とされたグレートキングダム側の士気は低い、ですがそんな士気の低さを補って余るだけの兵力がグレートキングダム側にはあるのです。」

彼女の言葉に一旦はその場を離れようとした者たちも立ち止まって彼女の言葉に耳を傾け始めた。その理由はやはり誰もが家族をひとり従軍させている故に、その者たちが戦場で苦戦していると聞いた事からだろう。国と国との諍いにはそれ程関心が無くても、それに身内が兵士として関わっているとなれば彼女の話を無視出来るものではない。

なので次に、彼女はそんな彼らにその状況を打破する対応策を提案した。


「みなさんっ!数には数で対抗しなければなりませんっ!その為には皆さんの出兵が不可欠なのですっ!同じ数の兵士同士なら古来より最強の名を欲しいままにして来た我がガレリア王国が負ける訳がありませんっ!さぁ、みなさんっ!あなた方のご家族を、卑劣な方法で数だけ掻き集めた敵に苦戦を強いられている戦場から救いだしに行こうではありませんかっ!正義は我らの側にあるっ!ですが古来からの習慣に縛られていては卑劣な敵の数と言う名の波に飲み込まれるでしょう。その後には奪略や無慈悲な暴力がこの国を覆いつくします。そうなってからでは遅いのですっ!」

彼女の檄は戦いに負けてしまってはそもそも慣習など意味がなくなると告げていた。そして戦いに負けた側がどのような目にあうかを民衆に思い出させたのである。

彼女は壇上からそんな民衆の心の変化を感じ取っていた。なので最後の仕上げとばかりに更にシャンパーヌの町専用の檄を飛ばす。


「みなさんっ!今こそ立ち上がる時ですっ!皆さんの祖先は常にその時を間違える事はなかったはずです。故に皆さんはこの国でも独特な立場を維持してきました。だが、今回の悪意ある侵攻はこの国全体を飲み込もうとしています。そうなってから抵抗しても多勢に無勢、皆さんが勝ち取ってきたこれまでの権益は全て無に帰すでしょう。確かにこの町はまだグレートキングダム側から直接の侵攻を受けていません。ですがこのままでは彼らの旗があの丘の上に並ぶのは時間の問題なのです。ですからその前に撃退しなくてはなりません。さぁ、皆さんっ!我々と一緒に戦いましょうっ!あなたのご家族も戦場であなた方が駆けつけて来てくれるのを今か今かと待っているのですっ!」

彼女の檄にその場にいた民衆の多くは感化されていった。このままなら相当な数の人々が志願してくるはずである。だがその時、その流れを絶つようなヤジが民衆の一角から彼女に向って発せられた。


「みんな騙されるなっ!こいつは悪魔だっ!我々は自分たちの義務はちゃんと果しているんだっ!それ以上の労役を課すなどこいつは王室が送り込んできた悪魔に違いないっ!ガレリア王室は悪魔と契約したんだっ!あいつらは神に背き異端となったんだっ!」

その男が発したヤジは瞬く間にその場にいた民衆の動揺を誘った。確かに男の言っている事はまともだった。自分たちは国民としての義務は果している。それ以上を課してくるのは認められない。それは今までがそうであったし、これからもそうであるべきだという思いが根っこの方にあるからであり、男のヤジは彼らにその慣習を破る王家は悪だという気持ちを植えつけていったのだった。

だが、そんなヤジに対し彼女は即座に切り返す。


「この中に私たちガレリア王国に仇成す裏切り者がいます。その者は皆さんにガレリア王国への悪意ある風評を流し誤った判断をさせようとしています。しかし、アルバート王子により召喚された私を悪魔呼ばわりするは天にツバするにも等しい狼藉。なので天に代わって私がこの場でお仕置きしてあげましょうっ!」

「ざけんなっ!悪魔めっ!我々は自分たちの義務は果しているんだっ!王族たちがそれ以上の労役を課すと言うのなら、我々はガレリア王国になど未練はないっ!そもそも我々は昔からガレリア王国の傘下に組しているなど思っていないっ!我々は自由なんだっ!」

「おーっ、そうだそうだっ!出て行けっ、王家の犬めっ!この町は王家の横暴には絶対屈しないぞっ!」

一人の男が発したヤジに他の民衆たちが呼応する。だがそんなヤジなど聞こえないかのように彼女は壇上にて呪文を唱えた。


「テクニク、テクニカ、しゃらんら~、ガレリア王国に仇成す裏切り者は猿になって進化をやり直しなさいっ!」

彼女は呪文と共に魔法のステッキを民衆に向け一振りする。するとステッキからは星形の光が飛び出して広場に集まった人たちに降り掛かった。

その時である。彼女の話を聞いてヤジを飛ばしていた民衆のひとりが星形の光を浴びた途端頭を押さえて苦しみ出した。いや、苦しみ出したのはひとりではなかった。広場のあちこちで少なくとも五人の男がもがき始めたのである。

男の周りにいた民衆はそれが今彼女が施した呪文によるものだと瞬時に理解した。つまりこの頭を抱えて苦しんでいる男は裏切り者、もしくはグレートキングダム側のスパイなのだ。なので苦しむ男を中心にして民衆は後ずさる。なので壇上の上に立つ彼女からは広場に五つのサークルが出現したのが見て取れた。

だが、そんな男たちも苦しみも1分ほどで収まった。だが、苦しまなくなった男たちの表情は激減していた。目は虚ろとなり、言葉もまともではなくなっている。仕草に至ってはまさに猿のようだった。


「ゴホっ、ウホウホっ、ウキーッ!」

「うわーっ、こいつ猿になっちまったっ!てっ、天罰だっ!こいつはきっとグレートキングダム側のスパイだったんだっ!」

表情と仕草が一変した男の姿を見て周りにいた男たちが泡を食ったように騒ぎ出す。中には一変した男に物を投げつける者まで現れた。だが、そこへホワイトの一喝が跳ぶ。


「その者たちを捕らえよっ!」

ホワイトが部下へ向って命令すると、どこにいたのか屈強な男たちが猿のようになってしまった男たちを忽ち拘束してどこかへ連れ去った。

だがそんな突然の捕り物に民衆たちの興奮は益々増していった。なのでちょっと咳をしただけで周りから疑われ、こいつもスパイなんじゃないかという疑惑の目が向けられる始末である。だが、殆どの民衆の関心は呪文一発でスパイをいぶり出し、それどころか猿に退化させてしまった壇上の彼女へと向けられた。


そんな民衆の目線が彼女に集中したその時、一陣の風が彼女の周りを巡り彼女が身に付けていた純白のマントを天高く羽ばたかせた。そしてその場にいた民衆はそこに伝説の天使の姿を見たのであるっ!


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