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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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解読と夏休み

さて、降って湧いたようなハプニングにより彼女の高校生活は一変した。そう、彼女には目標が出来たのである。それは不思議な文章の内容を解読し、彼女の事をシャンヌと呼ぶ胸像のモデルとなったであろう男性に会いに行くというものだ。


そして今彼女は学校の図書館にいる。季節はすでに夏真っ盛りだ。なので当然学校は夏季休校中である。だがそれでも校内は生徒たちで溢れていた。その殆どは部活動に来た生徒たちだが、一部の生徒はクーラーの無い自分の部屋から夏の暑さを避ける為、学習室や図書館にて自習をしに来た生徒だ。学校側もそんな生徒の為に結構な額になるであろう電気代に目をつぶりクーラーを作動させ程よい温度に室温を保っている。

そんな生徒たちに紛れて彼女も図書館で調べものをしていたのである。


「駄目だわ、どんなに探してもこの文字を使っていた文明が見つからない。むーっ、なんとなくアルファベットに似ているからヨーロッパ系だと思っていたんだけどハズレかぁ。」

彼女は図書館の蔵書の中にあった『忘れられし言葉と文字たち』という本を閉じ、図書館の天井を仰ぎ見た。

今、彼女は胸像の製作者から譲り受けたノートに現れた見たことの無い文字の事を調べている。文字自体は何故か彼女は読めた。だがその中に読めるのだが意味の判らない単語が幾つかあった。なので彼女はその単語の意味を知る為にその見たことの無い文字が、いつどこで使われていたものなのかを調べていたのだ。

しかし、調査は全て徒労に終わる。似たような文字は幾つかあったのだが彼女には読めなかったのである。彼女が読めないという事はその文字はノートに現れた文字とは系列が違うという事だ。何故なら彼女はノートに現れた『文字』と『単語』を読めたからである。ただ、もう一度言うが全部ではなかった。肝心な箇所の単語の意味が判らなかったのである。


「くーっ、文章なら前後の関係から何を言っているのか推測できなくも無いけど、固有名詞はお手上げだわ。はぁ~、翻訳家って大変なのねぇ。」

彼女はそれまでに調べた各種古代文字を現代の言葉に置き換えた翻訳家たちの苦労を偲んだ。


「と言うか一番肝心なところが解読できないって生殺しもいいとこよね。ただでさえ回りくどい言い回しなのに頭にきちゃうっ!後、この魔法陣みたいな文様ってなんなのよっ!取説くらい書いておけっつうの!」

彼女はノートの最後に書き込まれていた画を両手で高々と掲げ文句を言う。たが彼女は小声で言ったつもりだったが、もともと静かな図書室ではそれでもその声は周りに届いた。故に何人かの生徒が顔をあげ彼女の方を見た。中にはあからさまに渋い表情を隠さない者もいる。


「あっ、すいません・・。」

彼女は周囲からの無言の圧力に小声で謝った。まぁ、大声で喋った訳ではないのだが、そこは図書室という場所におけるエチケットであろう。だがモラルも行き過ぎると注意ではなく攻撃となる。その辺の匙加減は難しいのだが、皆こうしたちょっとした事で学んでゆくのだろう。そして学ばなかった者が将来KYと呼ばれたり仲間はずれとなってゆくのかも知れない。

だが、このアクシデントが彼女に吉報をもたらした。


「やっほーっ!おひさ。未来ちゃんも来てたんだ。何?古典の宿題?」

「えっ、あー、結衣ちゃんかぁ。うんまぁ、そんなとこ。」

彼女に話かけてきたのは同じクラスの堀川ほりかわ 結衣ゆいであった。彼女と堀川はクラス内では別々のグループに属しているのでそれ程親しい訳ではなかったが、だからと言って疎遠な訳でもない。というか彼女のクラスではグループという概念がそれ程強くなかった。ただ単に席が近いとか、中学が同じだったとかの理由で何となく複数のグループに分かれているだけで、その分布は時と場合によってゆるく変化している。


「しかし、毎日暑いわねぇ。私の部屋ってクーラーが無いから最悪なの。お母さんも気にしてくれてはいるんだけど、電気代を考えると私でも躊躇しちゃうわー。」

どうやら堀川も連日の熱波退避組のようだった。まぁ、そこでどこか涼しい場所へ遊びに行かず学校の図書室へ来るところが堀川の家の経済状態を物語っているのかも知れない。なので彼女は敢えてその事には触れず話題を変えた。


「結衣ちゃんは休みの間、何してたの?あっ、健太郎くんとデートか。くーっ、あつあつだねぇ。うんっ、この熱波は結衣ちゃんたちのせいか。このこのぉ、地球環境に優しくないぞぉ。」

「へへへっ、いやぁ~、それ程でも。と言うか健太郎って野球馬鹿だから夏休み中は駄目なのよ。殆ど練習だもん。全くとっとと予選を負けて欲しいわ。ウチの野球部って中途半端に強いから貴重な夏休みが減っちゃうもの。」

「はははっ、そうきたか。まぁ、健太郎君の前では言わない事ね。嫌われちゃうぞぉ。」

「判ってる。未来ちゃんだから言っただけ。」

「おやおや、持ち上げたって宿題は見せないぞ。というか私だってまだ全然手を付けてないんだから。」

「えっ、そうなの?なら、何を大声で嘆いていたの?」

「うっ、そんなに声大きかった?」

「ここの基準ではね。ほら、ここって3年生もいるからさ。結構ぴりぴりしているよ。」

「あーっ、失敗した。はい、それでは小声でひそひそと。」

「はい、ひそひそね。でもあんまりひそひでもつまらないからちょっと外で休憩しない?」

「おーっ、グッドアイデアっ!そうだね、休憩しようっ!」

「しーっ!」

休憩を提案されて思わず声が大きくなった彼女を堀川が咄嗟に窘める。だが時既に遅し。コホンという咳払いが図書委員席の方から聞こえてきた。

なのでふたりはへこへこと周りに頭を下げながら図書室を退散する。


「くーっ、緊張したねぇ。はぁ、受験生は大変だ。」

彼女は照りつける太陽の下、大きくバンザイをして緊張をほぐす。適温に設定されていたとはいえ、図書室の室温は外に比べて格段に低い。なので彼女は逆に燦々と降り注ぐ日射を暖かく感じた。まぁ、それも一時だけなのだが。


「がはっ、図書室で冷やされた体が5分と持たない・・。結衣ちゃん、どこに行こうか?」

「そうねぇ、この場合ジュースよりはアイスかな。しかもソフトクリーム系じゃなくて氷系の。」

「よしっ、なら一緒に追い出させてしまった謝罪も込めて私がおごっちゃう。」

「おっ、未来ちゃん、お大尽だねぇ。よっ、旦那、あっちのコンビニにいい子がいますぜぃ。」

「ふふふっ、越後屋。お主も可愛いのぉ。」

「あははははっ、そこはワルよのぉじゃないの?」

「あれ?そうだっけ?あははははっ。」

ふたりは冗談をいいながら学校から一番近いコンビニへと向う。このコンビニは学校の近くという立地条件から客層を学生に絞っており、低価格でボリュームのあるものを取り揃えていて学生たちにも好評だった。特に地元の製菓工場と提携して開発した夏限定のカキ氷は3回買いに行っても1回買えればラッキーなほど馬鹿売れ状態である。

だが今はまだ午前中の早い時間帯だ。なのでふたりはまんまとそのカキ氷をゲットしたのであった。


「うひょ~、結衣ちゃん私これ食べるの今回で2回目だよ。何時行っても売れきれだったからなぁ。」

「そうよね、昼休みは激戦だものね。私も放課後に何回かダッシュでチャレンジしたんだけどまず残っていなかったよ。」

彼女と堀川は店の前に設置されたベンチで早速戦利品のカキ氷を頬張る。そして味の品評を始めた。


「うんっ、イチゴ味とどっちにするか悩んだけど金時にして正解だったわ。この練乳の濃さがたまらなーいっ!」

「あーっ、いいなぁ。でも私は新発売だったピーチ味に挑戦です。あっ、おいしい~。ほら、これすごく美味しいよ。未来ちゃんも食べてみてっ!」

「どれどれ。うはっ、うま。う~ん甘み自体は上品なんだけど濃さが違うね。しかも上に乗っているクリームとの相性が抜群だよ。」

「これは絶対売り切れ確実だね。うんっ、今日食べれて良かった。ごちそうさま。未来ちゃん。」

「うむっ、苦しゅうない。心ゆくまで堪能するがよい。」

堀川からのお礼の言葉に対し彼女は少しコミカルに返す。なのでその一拍後、ふたりはお互いを見て大笑いとなった。

「はーっ、あー苦しい。未来ちゃん時々時代かかった言い回しをするよねぇ。」

「えーっ、そうかなぁ。まぁ使い方は合っていると思うんだけど。」

「苦しゅうないなんて、私は小さい時におじいちゃんと時代劇を見てたから判ったけど、他の人なら絶対ぼか~んだよ。」

「ううっ、実は結衣ちゃんだけに話すけど私って実は時間跳躍者なの。本当は私、徳川御三家のひとつ、水戸家のお姫様なのよ。」

「はははっ、そこで尾張家と言わないところが渋いわね。いや、普通は本家の名前を出すか。」

「御三卿でもいいかなと思ったんだけど、結衣ちゃんが判らないとボケにもならないからね。」

「ひどい、未来ちゃん。私だって御三卿くらい知ってるわよっ!えーと、確か一ツ橋家と・・、あれ?後ふたつは何だったっけ?」

「うんっ、ひとつ出ただけでも大したもんだ。社会科の清水先生が聞いたら泣いて喜ぶよ。」

「あっ、清水家っ!そう、清水家だ。残りは・・。」

「ぶっぶぅ、時間切りです。答えは田安家でしたぁ。」

「あーっ、今ここまで出掛かっていたのにぃ~。」

堀川はそう言ってお腹の辺りを両手の平で押さえる仕草をする。


「結衣ちゃん、その場合は喉元辺りを押さえなきゃ。お腹じゃお産を控えた妊婦さんか、はたまた便秘に苦しむお姉さんだよ。」

「あーっ、そうか。そうだね。失敗、しっぱい。」

その後も、ふたりはそんな馬鹿話をしながらカキ氷を頬張る。だがカップいっぱいに盛られた氷も夏の暑さには敵わない。なのでふたりは最初こそちびちび食べていたのだが、最後は完全に氷が溶けてしまい、ただの味付き水となったシロップを一気に飲み干す。


夏の日差しとカキ氷と女子高生。このみっつのワードで一番有名なのは多分高校野球の応援席ではないだろうか?だがそんなテレビ画面で見なくとも、ちょっと回りを探せばこの季節、どこでも見つける事ができるであろう。そんな彼女たちは多分みんな幸せな笑顔をしているはずである。

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