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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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戦いの始まり

さて、彼女のいた世界への長期滞在による転移後遺症によりこん睡状態に陥り意識が戻らなかったハーツが彼女によって強制的に目を覚まさせられてから7日後。もしくはブルージュ伯爵の件が3級魔法使いフレイヤ・ヴァンアースと1級魔法使いマリア・ロンギヌスによって解決してから2日後。ホワイトは彼女を連れて新兵の募集をする為に、まだグレートキングダム王国の影響を受けていない地域に向けて出立した。当然ハーツとポチもご同伴している。

そしてアルバート王子も当初の計画通り、前年グレートキングダム王国側に占領されてしまったユーデリアン地方のグレートキングダム勢力を叩く為、手持ちの兵士を引き連れてブルージュの町を出立した。そう、この時を持って本格的なアルバート王子によるグレートキングダム王国への反攻が始まったのである。


さて、そんなホワイトたちがまず初めに向かったのはブルージュの南方80キロにあるシャンパーヌという町であった。ホワイトはこの町を皮切りに逆時計回りに国内を巡る計画を立てたのだ。

その町へ向う馬車の中で彼女はホワイトからシャンパーヌの説明を受ける。


「さて、このシャンパーヌという町はまだグレートキングダム側からの脅威に直接晒されていない為、いまいち危機感に乏しい。また土地柄なのか領主も民もガレリア王国への帰属意識が薄い。というか独立心が強いと言った方が良いかも知れない。だがそれ故に自分の土地は自分たちで守るという気運が高くてな。なので市民兵の数と質は他に比べると格段に高いのだ。なのでこの町での新兵の獲得は兵力の増強に大いに貢献する事となるだろう。なのでそんなシャンパーヌの市民兵が参戦したと聞けば、他の領他の民たちもこぞって参加すると考えている。まっ、この辺はまだ皮算用なのだが何事も最初が肝心だからな。期待しているぞ、ジャンヌ。」

「はぁ、がんばります・・。」

ホワイトに声を掛けられたものの、彼女にはまだこれからやる事に対してピンときていないらしい。なので返事にも熱がこもっていなかった。だが、そんな彼女にホワイトは更に説明を続ける。


「まっ、そうは言っても相手も海千山千の市民兵たちだ。一筋縄ではいかない。なのでちょっとした仕掛けを施す。だから町で市民たちに檄を飛ばす時はこのマントを羽織ってくれ。」

ホワイトはそう言うと足元に置いてあったトランクから純白のマントを取り出した。そのマントの背には大きくガレリア王国シビリアン朝の家紋が刺繍されていた。


「えーと、これってアルバート王子の家紋ですよね?」

「そうだ、正確にはガレリア王国シビリアン朝の家紋だ。それをお前が背負う事によりお前を権威付けする。ただ最初に言っておくが、多分市民たちの反応は薄いはずだ。だがそれも織り込み済みで、本当の狙いはお前のその服にある。」

そう言ってホワイトは彼女が着ているセーラー服を指差した。


「えっ?服ってこの制服ですか?」

「そうだ。その服はお前の世界のデザインなんだろう?なのでこちらの世界ではちょっと珍しい。だからその事を絡めてある演出を計画している。まっ、前段取りは既に済んでいる。お前は民衆の前で彼らを奮い立たせる檄を飛ばしてくれればいい。仕上げは私の部下たちがやる。」

「はぁ、そうですか・・。」

「そしてこれが市民たちの前で話して貰う内容だ。出来れば暗記して貰いたいが、別に手元において読んで貰っても構わない。ただ棒読みだけはするな。自分なりに要点を理解して話に強弱をつけろ。」

「はぁ、判りました・・。」

「なんだったらここで俺たち相手に練習するか?」

「いえ、結構です。絶対ハーツが茶々を入れてきますから。」

彼女は隣に座っているハーツをちらりと見てホワイトの提案を拒否した。その言葉にすかさずハーツが反応する。


「いや、未来。俺は確かに指摘するかも知れないけど、それは俺なりの愛だから。あんたが役割を全うする為に必要と思うからこそ心を鬼にして罵倒するんだから。そこんとこ勘違いしないでくれよ。」

「罵倒するんかいっ!もうっ、それが茶々だって言ってるのよっ!後、私の事はジャンヌと言いなさい。王子の家臣たるあなたがそんなんじゃ駄目じゃない。」

「あーっ、いきなりの逆駄目出しを喰らっちまった。まっ、この中ではあんたとは付き合いが一番長いからな。そうゆて点では俺は不利だなぁ。ぽろっと出てしまったよ。」

彼女の指摘にハーツはちょっと恥ずかしそうに言い訳を口にした。だが、それにより彼女は攻撃の糸口を見つけたようだ。なので早速ハーツが嫌がるであろう事を提案した。


「なんならあなたも改名していいわよ。そうね、キャサリンとかはどう?」

「女名じゃねぇかっ!」

「フランソワってのも考えたんだけど?」

「同じだっつうの!」

「えっ?フランソワは男性名詞でしょう?」

「えっ?あっ、そう言えばそうだ・・。女性名詞はフランシスやフランシーヌだった・・。」

彼女からの的確な突っ込みにハーツは少し焦った。だがそれにより防御が薄くなり、そこを彼女に狙われた。


「んーっ、ならクリストファーは?これって男性名詞なはずよ?」

「こっちの世界にはキリストは存在していねぇーっ!」

「えっ、どゆこと?」

「クリストファーってのはあんたのいた世界での救世主『イエス・キリスト』からきているんだ。だからこっちの世界ではその名は・・、いや、いるな?あーっ、でも由来は全く別だよ。」

傘に掛かってハーツを追い込めようとした彼女の失態をハーツは見逃さなかった。だけどよくそんな事まで知ってるな?どこで覚えたんだ?


「ふーん、そうだったんだ。さすがはハーツね、インテリ幽霊の記憶を引き継いでいるだけの事はあるわ。でもそうなると、クリスティーナもちょっと駄目か。」

「それこそ女性名詞だっ!」

「もうっ、ハーツったら我侭ねぇ。よーしっ、それなら取って置きの名前を付けてあげるっ!あなたの新しい名前は権座衛門よっ!」

「断固、却下するっ!」


その後も彼女とハーツの欧州風名前論争は続いた。その中身は殆ど彼女が名前の例を挙げて、それをハーツが答える形である。そう、彼女の国でも男性名と女性名という区別があるが、遠く離れた欧州にも同じような例が沢山ある事を知って彼女は驚いたようである。

因みに彼女の『未来』という名前は女性名っぽくはあるが男性が名乗ったとしてもおかしくはないだろう。でも確かに権座衛門と言う名は男性用だな。いや、そもそも女性に権座衛門などという名前を付ける親はいないか。


そして日もとっぷりと暮れた頃、漸く三人を乗せた馬車はシャンパーヌの町に到着した。現地では既にホワイトの配下が準備を整えており彼らを出迎えた。


「ごくろう。問題や変更はないな?」

「はっ!全て手はず通りに整いました。後は勇者様からの檄を待つのみです。」

「そうか、それでは今夜は休むとしよう。戦いは明日だ。」

「はっ、それでは宿までご案内致します。こちらへ。」

ホワイトたちを出迎えた男は彼らの先頭に立ち路地裏へと入っていった。ここはガレリア王国側の町とはいえ、用心にこした事はないのだろう。なので手配された宿も宿屋ではなく、商家の二階だった。当然その商家はホワイトたちの息が掛かった者の家だ。


そんな商家の二階でホワイトたちは椅子に腰掛け一息を入れた。テーブルにはこの家の奥方が用意したのであろうお茶とお菓子のセットが置いてある。そんなもてなしの菓子をポリポリ食べながら彼女は明日シャンパーヌの民衆たちへ語りかける原稿を読んでいる。そして意味が判らないところをホワイトに聞いていた。


「ねぇ、ホワイトさん。このフランクス時代より延々と受け継がれし我らの秘宝ってなんなんです?」

「あーっ、それはこの国の歴史さ。フランクスってのは昔ここいらを一番最初に国家としてまとめた集団が名乗った国名だ。そして受け継がれし秘宝ってのは三種の神器の事だ。この辺の事はハーツから聞いていないのか?」

「あっ、どうだろう?」

「俺は説明したぜ?でもあんたは半分寝てたよな。」

彼女がとぼけたのでハーツがすぐさま突っ込んできた。だが彼女も反論する。


「うーっ、だって試験に出ない世界の歴史を延々と語られてもねぇ。」

「でたよ、損得のみで勉強する競争社会の申し子が。本来勉強ってのは知らない事を知る喜びってのがあるはずなのに、あんたたちって本当に先人の成果の上に胡坐をかいているよなぁ。」

「ハーツ子、ひとつの事例を持って全体を語らないで頂戴。私は確かにそうかも知れないけど、頑張っているやつは大勢いるのよ。」

「おっと、正論だ。うんっ、そうだな。今のは俺が浅はかだった・・、って、ハーツ子ってなんだっ!」

「もう廃れてしまったけど、私の国における生まれた女の子の名前に付ける大人気だった識別表現よ。因みに男の子は太郎とか次郎とかの郎ってのがメジャーかな。」

「俺は男だっ!」

「はいはい、ではハーツ郎・・、う~んっ、語呂が悪いわねぇ。やっぱりハーツ座衛門の方がいいかしら?」

「いや、そのネタいつまで引っ張るつもりなんだよ・・。」

「あなたが侘びを入れるまでよ。」

「俺が一体何をしたっていうんだ・・。」

「男の癖に私より可愛いのが許せないのっ!私の世界では人体模型だった癖にっ!」

「無茶苦茶だ・・。」

ふたりは終始こんな調子なので彼女の原稿通読とホワイトへの質問は中々はかどらない。だがホワイトは別に気にする様子もなくふたりの傍でお茶を飲み、たまに彼女からの質問に答えた。


そして夜もとっぷりと暮れた頃、漸く原稿を頭に叩き込んだ彼女は眠りにつく。しかし、夢の中でも彼女はハーツと漫才を繰り広げているらしいのは時々出る寝言から推測できた。うんっ、実はこのふたりってとっても仲がいいのかも知れない・・。


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