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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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戦略会議

そして時は暫し戻り、マリアがホワイトの命を受け北のカーレイに向った次の日。ホワイトはアルバート王子や主だった部下を呼び集め、今後の対グレートキングダム戦略を話し合った。因みに彼女は前夜の乱痴気騒ぎが抜けていないのかベッドから出てきていない。


「では私は勇者を連れて各地を回り新兵を集める。その間にアルバート王子と貴様たちは既に集まった兵たちを連れ、ユーデリアン地方のグレートキングダム勢力を叩く。だがこれは敵の目を欺く為の欺瞞だ。我々の本当目的はオルレアンの奪還である。」

ホワイトの言葉にそこにいた者たちは皆一様に頷いた。


オルレアン。その町はグレートキングダム、ガレリアの双方にとって戦略的にも権威的シンボルとしてもとても重要な位置を占めていた。仮にオルレアンが陥落したならば、グレートキングダム側はガレリア全土をその統治下に置いたと国の内外に宣言するであろう。何故なら実際にはその時点でまだ多くの未征服地域が残っていたとしても、最重要拠点であるオルレアンが占領されればその後の趨勢は決まったと皆は思うはずだからである。それ程オルレアンという町は今回の紛争におけるキーポイント足る町なのであった。


さて、ホワイトは奪還と言う言葉を使ったが、実はまだオルレアンはグレートキングダム側に占領されてはいない。いないのだが、町は完全に包囲されていた。そして毎日のように攻撃を受けている。なのでこのまま手をこまねいていてはオルレアンが陥落するのは誰の目にも明らかであった。

しかし、ガレリア側には現在オルレアン周辺に集結しているグレートキングダム勢力を正面から撃破出来るだけの兵力がない。なのでホワイトはその為の兵力の新規募集を勇者である彼女と行い、その間の時間稼ぎとグレートキングダム側の兵力を少しでもオルレアンから引き剥がす為の陽動作戦をアルバート王子たちに託したのだ。


つまりホワイトたちの作戦は、まずは兵力の増強。そして敵兵力の分散化。その後、手薄になったオルレアン包囲軍に対する二重包囲。その後に殲滅という手順であった。

まぁ、こう言うと簡単そうに思うかも知れないが、その為には解決しなければならない事が山ほどあった。なのでそんな大筋が決定した後、ホワイトの部下たちは作戦の細部を詰める為に別室へと移った。

そこに漸くベッドから這い出した彼女が寝ぼけ眼で現れた。そんな彼女をアルバート王子が満面の笑顔で出迎える。


「やぁ、おはよう、未来。その様子だとぐっすり眠れたようだね。どう?ご飯は食べられそう?」

「えっ?あっ、お早うございます、王子。はい、いただきます。」

「あーっと、ごめん。ここでは僕の事は敬称なしで呼んでくれ。でないと折角魔法使いが施してくれた欺瞞魔法が台無しになっちゃうからさ。とは言ってもみんなも中々守ってくれないんだけどね。」

「あっ、はい、そうでしたね。すいませんでした、お・・、えーと、あ・・アルバート・・さん。」

王子の事をファーストネームで呼んだ事により彼女の頬はちょっと赤くなった。だがそんな彼女に王子は尚も追い討ちを掛けてくる。


「うんっ、できれは接尾語もなしで。」

「でも・・。」

王子の申し出に彼女は躊躇する。彼女としては王子の申し出はとても嬉しいものであったが、さすがに昨日今日あったばかりの相手にさん付けもなしで名を呼ぶのは躊躇われたのだろう。いや、これは躊躇いではなく単に恥ずかしかっただけかも知れない。だが、そんな彼女に王子は尚も催促する。


「僕と未来は特別な関係なんだろう?ならお互いを名前で呼び合うのは自然だと思うんだけどな。」

「うっ、ア・・、アル・・バート。」

「オーケー。それではホワイトから君の今後の役割の説明を受けたらご飯にしよう。」

彼女をちょっと弄ってその反応に満足した王子は、彼女の相手をホワイトへと引継ぎ自分は彼女の食事の用意をする為に台所へと向った。そう、実はアルバート王子は料理男子だったのであるっ!う~んっ、意外と言えば以外だが、納得できると言えば納得できてしまう。そうだね、今時の王子は料理くらい出来ないとね。いや、そうか?ちょっとラノベの流行に毒されていないか?

そんな王子から後の説明を引き継いだホワイトは彼女に対して単刀直入に今後の予定を話し始めた。


「さて未来、先にも話したがお前には新兵募集のマスコットになって貰う。」

「あーっ、はい。新兵募集の演説をするんでしたね。」

「そうだ、まっ、演説と言うよりみんなを騙くら化す檄と言った方が近いがやる事は同じだ。そしてこれがお前に読んで貰う原稿だ。地域によって細部は変更するが大筋はそれでゆく。精々民たちを煽ってくれ。」

そう言うとホワイトは原稿の束を彼女の前に差し出す。それを彼女はぱらぱらと少しだけ読んでみた。


「うーっ、これってなんてゆう劇の台本なんですか?これはちょっと恥ずかしいなぁ。」

彼女はホワイトから手渡された原稿を読んでその内容に赤面する。そこには愛国心や虚栄心など様々な人の欲望を刺激する言葉が面々と羅列していたのだ。確かに檄文という性質上そのひとつひとつの言葉は納得できるものだったが、彼女はその内容の裏に潜んでいる民意誘導という罠を知ってしまっている。なのでそんな詐欺まがいの行為に自分が加担するのをちょっと躊躇ったのだった。

だがそんな彼女にホワイトは然程気にする様子もみせずに語りかけた。


「まっ、檄文なんてのはシラフで読むと青臭い小僧の夢想論でしかない。だから演出が必要となる。そこら辺は俺が対応するから未来は時には情に訴え、時には正義をかざして民たちに語りかけてくれればいい。その後は民たちの熱気が冷めない内に俺の配下が釣り上げてゆくから気にするな。まっ、女優にでもなったつもりで演じてくれ。」

「うーっ、私小学校の演劇会でも森の動物Aしかやった事がないのに・・。しかもセリフはなかったわ・・。」

「そうか、なら今回が本当のデビューだな。まっ、この手の役ははまると辞められなくらしい。そして更なる喝采を得る為に演出と内容が過激になるそうだ。俺は兵たちさえ集まれば構わないが、そこら辺は自分でコントロールしてくれよ。人気欲しさに暴走すると後で火消しが大変だぞ。」

「うーっ、ホワイトさんが私の世界の暗黒面を揶揄してる気がする・・。」

「そうか?まぁ、この手の感情操作は多分どこでも一緒なんだろう。それだけ檄とは民衆を奮い立たせるには強力なアイテムなのさ。」

「はぁ・・、さいですか・・。」

ホワイトの説明に彼女は人の世の裏面を見た気がした。そう、人々は自分で考えて行動していると思っていても、実は何かしらかの大きな流れに押し流されているのだ。そんな流れの一部を人は『流行』と呼ぶが、世界にはそれよりももっと大きな流れが存在する。それを一部の人たちは『時代の潮流』と呼ぶが、残念ながらそれらは後から振り返らねばその存在を理解できない。

しかし、それは確かに存在する。そして彼女はこの世界にてそれを作り出すようにホワイトから言われたのだ。『時代の潮流』を意識して作り出す。それこそは、まさに勇者でなければ成しえない偉業であろう。その役目の重大さに彼女は少し身震いをしたのであった。


その後、ご飯の用意が出来たとアルバート王子自らが彼女に報せに来た。なのでホワイトとの打ち合わせもそこで終了となる。細かいところはまだ詰めていないが、そこは新兵募集の為に向う道すがら馬車の中で行なう事となった。そう、実はホワイトたちもまだ完全に準備が整っていた訳ではないのだ。だが準備の整うのを待っていては、時期を失する恐れがある。なので見切り発車ではあるがまずは行動を起こす事をホワイトたちは選択したのである。


その後、彼女は王子が彼女の為に調理した朝食と昼食を兼ねた感じの食事を食堂でとった。既に食事を済ませているホワイトと王子はコーヒーだけだ。

王子が用意した料理はそれ程手の込んだものではなかったが、何故か彼女の味覚にぴったり合致した。まぁ、これは憧れの王子が手ずから彼女の為に作ってくれたというフィルターが掛かっているのだろうが、それを差し引いても王子の腕前はなかなかのものだったのだろう。

うんっ、彼女はハーツからのチート付与で半熟目玉焼きを100%完璧に焼けるようになっていて良かったよね。でないとこの王子の料理の腕前を見せ付けられた時点で絶対落ち込んだはずだ。

世の旦那たちとは家事を全然やらないのは嫌がられるが、出来過ぎるのもむずがられる。全く持って男女の間柄とは難しいものなのである。


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