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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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さすがですっ!ヴァンアース様っ!

さて、ホワイトは彼女が王子に感じた違和感を払拭し終えると、すぐさま次の案件の処理に取り掛かった。


「おいっ、誰かマリアを呼んでくれっ!」

ホワイトは扉越しに廊下に向って声を掛ける。その声に呼応するように廊下の方からドタドタとした足音が聞こえてきた。そして数分後、ホワイトたちがいる部屋をノックする音がした。

「入れっ!」

「お呼びでしょうか、ホワイト様。」

ホワイトの許可により部屋へ入ってきたのは魔法使いのマリア・ロンギヌスであった。そう、彼女も今はこの共同住宅に戻っており、別の一室にて待機していたのである。

因みに部屋はアルバート王子の隣だ。人によってはその事に作為を覚えるかも知れないがたまたまである。まぁ一応そうゆう事にしておいて下さい。彼女もその部屋の元々の住人と部屋を交換する為に結構な額のお金を使ったのですから。


そんなマリアに対してホワイトは残酷な指令を出す。

「戻って早々で悪いがフレイヤ・ヴァンアースにつなぎを取ってくれ。用件はランシスにてグレートキングダム側勢力に捕まっているブルージュ伯爵のご家族の奪還だ。いや、ついでだからその一帯のグレートキングダム勢力の掃討も依頼する。報酬は金貨100枚と魔石アイテムを10個。それで足りないと言われた時は、任務終了後に話し合うと伝えてくれ。因みに人手がいると言われたらお前が対応してくれ。」

久しぶりにアルバート王子と一つ屋根の下にいられると、王子の隣室で壁に耳を当てて悶えていたマリアはホワイトからの突然の出張命令に眉をひそめる。だがマリアにとってホワイトからの命令は絶対であった。しかし交渉する相手があのスウェン王国出身の魔法使いフレイヤ・ヴァンアースとあっては、気が重くなったのは致し方のない事であろう。

なのでマリアは無理だと判っているのだがホワイトへ反論した。


「ホワイト様。フレイヤ・ヴァンアースは現在北のカーレイにてグレートキングダム側の魔女モリガン・ケルティアと遊んでいるはずです。申し訳ありませんがそんな3級同士の戦いに1級でしかない私が割って入るのは無理な話です。」

「まっ、そうだな。たからこれを使え。」

マリアの全うな反論にホワイトは横の机の引き出しから何やら取り出してテーブルの上に置いた。それを見てマリアはまたしても嫌そうな顔をする。そう、ホワイトがテーブルの上に置いたのはステッキだったのだ。だがそのステッキは単なるステッキではない。それは時の権力者たちが魔法使いたちを無理やり使役する時に使用する魔法のステッキだったのである。

その威力は絶大で、殆どの魔法使いたちは抗う事が出来なかった。魔法使いたちには魔法で対抗する。まさにその事を具現化したアイテムがホワイトが取り出した魔法ステッキであった。


そんな凄まじい強制力を持った魔法ステッキだが、形だけなら未来がこちらの世界へ跳躍する時に使った玩具の魔法ステッキに酷似していた。だがあれは所詮パッチもんである。今マリアの目の前に置かれたステッキは正真正銘の、こちらの世界において魔法使いを使用者が強制使役出来るようにする魔法を発動させる本物である。

もっとも3級魔法使いたちにそのアイテムが正規の効力を発揮できるかと問われれば首を傾げるのだが、そこはこちらは本気なんだぞと魔法使いたちに知らしめる為の印籠とでも思って貰えば判りやすいだろう。いや、判りやすいか?う~んっ、逆に判らなくなるか・・。


だが確かにこのステッキを使えば1級魔法使いのマリアでも3級魔法使いであるフレイヤ・ヴァンアースを一時的かも知れぬが使役できるかも知れなかった。まぁ、だからと言って無造作に使用したら後からのしっぺ返しが恐ろしいものになるのは魔法使いであるマリアは重々承知していた。なので多分マリアはこのステッキを使えない。だから張ったりとして相手に見せるのが精々である。

そんな使えないシロモノを与えられてもマリアには迷惑以外の何ものでもなかった。だが、ホワイトは切り札としてそれを持ち出してきた。なのでマリアはこれ以上抵抗する事が出来なかった。

1級魔法使いのマリアが3級魔法使いであるフレイヤ・ヴァンアースを説得し仕事をさせる。これはまさに無理ゲーである。だが、ホワイトから命じられた以上マリアには拒否権はなかった。なので彼女は諦めてステッキを受け取ると無言で部屋を出ようとする。そんな彼女にホワイトが声を掛けた。


「あーっ、そうだ。ヴァンアースに会ったら俺が勇者を確保したと伝えてくれ。そう伝えればあいつはしぶしぶだろうが仕事をするはずだ。その後の事は俺が対応するからそんなに悲観するな。それに今回の仕事はアルバートの発案だからな。帰ったら絶対あいつから労いがあるぞ。」

「えっ、アルバート様から?もうっ、ホワイト様っ!そうゆう事は最初に言って下さいっ!それではマリア・ロンギヌス、行って参りますっ!」

先程までは死地に赴くかのように暗い顔をしていたマリアだが、今回の件は王子が関与しているとのホワイトの言葉に忽ち満面の笑顔となり、こうしてはいられないとばかりに部屋を飛び出していった。その様子を傍から見ていた彼女は、マリアに対して些かジェラシーを感じたようだ。なのでホワイトに対して湾曲に文句をいう。


「ホワイトさん、王子を餌に人を動かすのはどうかと思います。」

「はははっ、そうか?だが俺は嘘は言ってないぞ。まっ、確かにちょっとマリアの感情に訴えかける事は言ったが嘘ではない。と言うか、マリアはどんな事でも嫌そうにやるからなぁ。あの性格はもう直らんだろう。おかげで俺も餌で釣る事を覚えてしまったのさ。」

「それは、ホワイトさんのお願いが難しい事ばかりだからじゃないのですか?」

「そうか?だが俺は出来ない事は命じないぞ。一か八かなどという博打のような命令も出さない。ただ結果として命じた者が失敗する事はあるが、それはその者が劣っていたからではなく、殆どは時の運が大勢を占めている。だがこればっかりは仕方ない事だ。しかし経験を積めばそんな運すら味方に付けられるようになる。そして経験は現場と場数を踏む事により、より一層精度を増す。まっ、その途中で野に伏す事も多いが生き残った者はより一層高みへと近づけた事になるんだ。だがマリアは天才系でな。人が100倍努力して成し得た事を、鼻歌交じりでさらりとやってしまうんだ。おかげであいつは周りからよく思われていない。なのでいつもぽっちなんだよ。だけどアルバートはそんなマリアに対しても他と分け隔てなく接するんでな。だからマリアはアルバートにべったりなのさ。」

「うーっ、それってもしかして王子はタラシ系って事?」

「まぁ、無自覚なところはあるかも知れん。」

アルバート王子の新たな側面を知り、彼女はまたしても気持ちが沈む。無自覚なタラシ系は悪く言えば八方美人だ。だがそれ故に多分女の子たちからはウケが良いはずである。あんなに嫌がっていたのに、王子からの依頼と聞いた途端飛び出して行ったマリアなどいい例だろう。

だが、その事は彼女にとっては懸案事項が増えた事を意味する。つまり王子の周りは彼女のライバルがひしめいている事になるからだ。

もっとも王子という肩書きと、王子自体の見た目によりライバルは多いはずと踏んでいた彼女ではあるが、そこに更にタラシ属性まで備えていたとなるとライバルたちの王子への信奉は偶像崇拝以上のものがあるはずである。

確かに彼女は王子に請われてやって来たという強みはあるが、無自覚系はとにかく一人だけを大切にするという事を是としない。だからそんなやつに惚れたりするとキヤモキする案件ばかりとなるのだ。

彼女はそんな王子の周りで繰り広げられるであろう、はっきり白黒のつかないライバル同士の鞘当を予測しげんなりした。

だが、逆に競争はモチベーションのアップにも繋がる。結局最後に王子をゲットした者が勝者なのだ。しかし、彼女は王子争奪戦に関しては新参者である。よって熾烈な戦いを勝ち抜くにはもっと情報が必要である。なので彼女はその情報源をホワイトに求めた。


「先程の話の中で出てきた経験ですけど、それって王子にも当てはまるんですよね・・。」

「そうだな・・、だが多分あいつは報われないだろう。何故ならあいつは自身の功績より周りの幸せを願う者だからだ。しかし、普通の者がそんな勇者の如き願いを達成できる事はまずない。だけどあいつは諦めないんだ。だから未来。どうかあいつを助けてやってくれ。お前ならそれが出来るはずだ。」

王子の情報を得ようとホワイトに質問した彼女だったが、返ってきた返事は彼女が予想していた以上のものだった。

そう、彼女はこちらの世界では勇者なのである。だからその役を成す事が結局は王子との関係を深める事になるのだ。これは他のライバルに対して大きなアドバンテージだ。何故なら勇者とはなろうとしてなれる者ではないからである。

だが、なれぬまでも、勇者と同じ事を成そうとする者はいる。その一人が王子だった。王子は勇者でないにも関わらず、勇者が成すべき事と同等の事をやろうとしている。だが勇者の成そうとする事は勇者ですら中々ままならない事だ。それを普通の者が成すのはまず無理であろう。

だが、多分王子は諦めない。だから王子は彼女を請うた。そう、王子は成すべき事を成そうとしてはいるが自分の手に負えぬ事を意地になって突き進んだりはしない。ちゃんと適材適所をわきまえているのだ。

そして、それにより結果が出れば王子の願いは叶うのである。そう、全ては目標を達成する事に意味がある。それを誰が成し得たかなどは、王子にとってはどうでも良い事なのだろう。


そんなホワイトからよいしょのような言葉を掛けられ彼女のHPは忽ち回復した。なのでもうひとつ気になっていた事をホワイトへ質問した。


「因みに魔法使いの1級とか3級とかってなんなんです?魔法使いにも階級があるんですか?」

「なんだ、そこら辺の事はサーチから聞いてないのか?」

『ピッ、申し訳ありません、ホワイト様。事前に説明しても理解して貰えないと思い話していませんでした。』

ホワイトの問い掛けに対し、突然ポチが答えた。


「あらポチ、久しぶりね。いたの?」

『ピッ、そりゃいますよ。だって私はあなたにくっ付いているんですから。』

「えっ、そうなの?げっ、とこについてるのよ。変なところに引っ付いていたらただじゃおかないわよっ!」

そう言って彼女は制服のあちこちをぱたぱたと探り出す。


『ピッ、いえ、物理的にではなく、精神的なリンクとして繋がっていると言ったのです。私の本体は位相魔力空間にありますからそんなに服を叩いても取れませんよ。』

「ポチ、難しい事を言って誤魔化そうとしても駄目よ。さぁ、どこにいるの?今なら許してあげるわ。白状しなさい。」

『ピッ、えーと、実はあなたのパンツの中です。』


ばんっ!


ポチの言葉に突然彼女のバールがテーブルを叩いた。だが、そんな状況にも関わらずホワイトは面白い余興が始まったとばかりにくつろいだ姿勢で彼女を見ていた。


『ピッ、冗談ですってば。そもそもパンツなんかについたら乗り移るのが面倒じゃないですか。』

「えっ、なんで?」

『ピッ、だって着替えるでしょ?』

「あっ、そっか。そう言われれば確かにそうね。しかも洗われちゃうし。」

『ピッ、はい、冗談はそれくらいにして魔法使いの説明をさせて下さい。』

「冗談だったんかい・・。まぁいいわ。魔法使いについて教えて頂戴。」

彼女は久しぶりにポチとの漫才を堪能した事により気分が落ち着いたのか、それ以上突っ込まずに本題を促がした。


『ピッ、魔法使いに限らずこちらの世界では様々な能力にランクがあります。これはあなたの世界のラノベなどでよく見聞きするランクと似ています。ただあなたの世界のラノベではランク表示がアルファベットが標準らしいですが、こちらでは数字で表示するのです。因みに数字は数が大きくなるほど上位です。』

「あっ、そうなの?私の認識だと段形式ならともかく、級表示は1級が最上位なんだけどな。」

『ピッ、まっ、そこら辺は文化の違いという事で。そして級表示は3級が最上位です。これ以上の数字は使われていません。』

「えっ、だとすると1級と2級と3級の3つしか区分けがないんだ。んーっ、ちょっと少なくない?」

『ピッ、そうですか?まぁ確かに同じ等級でも下位とか上位なんていう区分けは使われていますが、級としては同一として扱われてます。』

「つまり、こちらの世界ではランクは細かく区分けしていなくて、同一ランクでも幅があるという事なのね。」

『ピッ、そうです。しかも級と級の間の実力差には、とても高い壁があります。1級の上位と2級の下位は言葉の上では実力が近いと思うかも知れませんが、倍近い実力差があると思って下さい。』

「げろげろ、そんなに違うんだ・・。」

『ピッ、因みに1級の前は初級なんて表現も使われていますが公式ではありません。それらは正式には見習いと表現されます。』

「あーっ、見習いね。つまりこちらの世界ではFランクからじゃなくて見習いから始めるという訳ね。」

『ピッ、そうなります。』

「でもそうなると、さっきマリアさんも言ってたけど、ホワイトさんが彼女にした命令って酷じゃないの?彼女って1級なんでしょ?対して相手の・・、えーとなんて言ったっけ?」

『ピッ、フレイヤ・ヴァンアースです。確かに彼女は3級魔法使いですからランク上の実力では雲泥の差がある事になります。ただ、それはあくまで肩書きだけで比較した場合です。』

「どうゆう事よ?」

「それに関しては俺が説明しよう。」

それまで彼女とポチの会話を面白そうに聞いていたホワイトが二人の会話に割って入ってきた。


「さっきも言ったがマリアはやる気にムラがあってな。なので昔ちょっとした失敗をやらかして降格を喰らったんだ。だからマリアは形式上は1級だが実力的には2級の上位だよ。それどころか、あの怠け癖さえなければ3級になる事だって夢ではないだろう。だが当人がその事を気にしていないからな。まぁ、下手に3級なんて称号を手に入れても好からぬやつらが寄って来るだけだ。だから1級辺りでのほほんとやるのがマリアには向いているのだろう。」

「はぁ、そうだったんですか・・。みんながみんな、上を目指している訳じゃないんですね。」

「そうだな、まぁ今言った級に関してはあくまで肩書きみたいなもんだからな。でも魔法使い業界は師弟関係で成り立っている。だから上位の者に下位が師事するんだ。でもマリアは昔、師匠を亡くしていてな。所謂一匹狼なんだ。だから肩書きのしがらみが薄いとも言える。そもそもあいつが人に何かを教えられるとは思えんからなぁ。あれはあれでいいのかもしれん。」

「はぁ、そうなんですか。なんか皆さん色々あるんですね。」

ホワイトの説明に彼女は世の軋轢のようなものを感じとった。競争社会は確かに個々の向上心を刺激し全体の能力を底上げするが、そこから零れ落ちた者には生き辛いものとなる。だが人には個性と言うモノがあり既存の枠ではくくりきれない事があるのも事実だ。

しかし、そのような者たちは全体からしたら少数なので大抵は黙殺される。だが中にはマリアのように十分な能力を持った者もいるのだろう。そんな、人より秀でた能力を持ちながらも世の枠組みに馴染めない者たちはやがて全体を敵とし反発する。そのような者たちをこちらの世間ではアウトローと呼んでいた。


『ピッ、因みに勇者にもランクはあるんですよ。でも、あなたの場合はまだ実力を披露していないので見習い (仮)です。』

「あっそ。別にいいわ。気にしない。」

『ピッ、えっ、そこはもっと悔しがって貰わないと話が盛り上がらないんですけど?』

「あら、ごめんなさい。でも興味ないわ。」

『ピッ、えーっ、もっと遊びましょうよ。なんでわざわざ王子に請われてやって来た自分が見習いなのよっ!冗談じゃないわっ!こんな世界ぶっ壊してやるっ!とか言って下さい。そうすると次回からはタイトルが『魔王覚醒~魔に落ちた勇者の物語~』になって、お子ちゃまたちが大喜びする事間違いなしなんですから。』

えーと、それはどうかなぁ。確かにタイトルは読者を引き付ける大切なポイントだけど、今は色々乱立しているからねぇ。どちらかと言うと『私と王子のらぶらぶスローライフ~邪魔するやつらはちゅんちゅん丸でお仕置きよっ!~』の方がウケると思うんだけど?


「うるさいっ!私は忙しいのっ!はい、説明ご苦労様。もう消えていいわよ。」

『ピッ、うっ、未来が私に冷たい・・。久しぶりの登場だったのに・・。』

「はははっ、まっ、未来は今アルバートの事で頭がいっぱいだろうからな。だが、考えでばかりでは袋小路にはまりかねん。なので飯でも喰おう。腹が満ちれば気分も落ち着く。そうすれば幸運も向こうの方からやってくるさ。」

ふたりの掛け合いがちょっとヒートアップしてきたのでホワイトが仲を取り持つかのように違う話題を持ち出してきた。それに彼女が喰いついて来る。


「えっ、ご飯?うーっ、それって王子も一緒に?」

「あーっ、それはなぁ。一応謹慎していろって言ってしまったからなぁ。まっ、勇者からのたっての願いと言われては拒否できないな。いいだろう、あいつも呼ぶとしよう。」

そう言うとホワイトは部下にアルバート王子を呼びに行かせた。それを見てまたしても彼女は身だしなみを気にし始める。


「ちょっとポチっ!後ろの方を見て頂戴っ!変なことない?」

『ピッ、あなたってそこら辺に関してはブレがありませんね。はいはい、大丈夫ですよ。』

ポチは呆れたようにつぶやくが、ホワイトはそんな彼女を微笑ましく思ったのか優しい目で見つめていた。


その後は、アルバート王子も含め三人で初めての食事となった。もっともそんな中でホワイトから酒をすすめられた彼女は顔を真っ赤にして断る。まぁ、確かに彼女としては憧れの王子の前で女王さまを演じる訳にはいかないのだろう。

しかし、最初こそぎこちなさがあった彼女ではあるが、近くでアルバート王子と接した事により本当の王子の姿が見えた気がした。なので彼女は心の中で再度決心する。


うんっ、この人の為に私は私が成すべき事をやろう。だって、それがこの人の願いなのだから。そして多分・・、いえ、きっとそれはみんなの願い・・。


そして彼女のそんな決意は言葉に出さなくても二人に伝わったようだ。なので三人とも一様に黙り込む。だがその沈黙に気まずい雰囲気はない。そう、彼らの間では既に長年仲間として連れ添ったかのような信頼が芽生えていたのだった。


その後三人が食事を取り終えると、自然と食堂は共同住宅に詰めていた者全員を巻き込んだ大宴会へと様相を変化させた。なんと言っても王子は無事に戻り、しかも勇者までやって来たのだ。みんなの心の中ではこれを祝わずに何とするという思いがあったのだろう。故に宴会は徐々に無礼講となりその規模を拡大してゆく。終いには近隣住民まで巻き込んだ乱痴気騒ぎへと発展する。そんな宴会が真夜中まで続いたのであった。


そんなどんちゃん騒ぎの中、空にはいつもと変わらず満天の星々が輝いていた。だがそんな星々でさえ永い時間をかけて観察するとお互いの位置を変化させている。そう、この世界は全てが変化しているのだ。ただその変化のスピードはそれぞれによって違う。

そんな中で人の営みは時に急変する。この世界では勇者である彼女の登場はその急変する流れのトリガーとなるであろう。そう、今時代は動き出した。そして、その動きはもはや誰にも止めることが出来ない。何故ならそれが人の営みと言うものだからである。


そしてマリア・ロンギヌスがホワイトの命を受けて北のカーレイに出向いてから5日後。一羽のフクロウがホワイトの元に舞い降りる。その脚にはマリアからの報告書が結び付けられていた。

それを読んだホワイトは部下をブルージュ伯爵の元へと走らせた。そして、その知らせを受けブルージュ伯爵は使者の前である事も忘れ感涙に咽び、ホワイトへの感謝の言葉を呟き続けたのであった。


かくしてランシスにてグレートキングダム側勢力に捕まっていたブルージュ伯爵のご家族は、3級魔法使いフレイヤ・ヴァンアースと1級魔法使いマリア・ロンギヌスによって無事救出された。その報告を受け、ブルージュ伯爵は自身を脅迫してきた親グレートキングダム王国派とその関係者たちの討伐を開始する。

だがそれらは事を荒立たせないように、表面上では国庫の無断使用や職権の乱用などという、誰もが納得しそうな冤罪を擦り付けての処罰であった。


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