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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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王子奪還

そして今、ホワイトと彼女はブルージュン町の北に位置するこの町の領主の館の前にいた。だが、周りにはホワイトたちの護衛が数を増やして物陰で待機している。その数凡そ50。ブルージュ伯爵側に何人の衛士がいるのかは不明だが、少なくとも数ではホワイト側が劣勢に立たされる事はないであろう。

そしてホワイトは門番に対して通常通りの手順で屋敷の主への面会を申し込む。だが、ブルージュ伯爵側はこの訪問を既にサンドロスからの報告で察知しており緊張していた。なので姿こそ見えないが敷地内のあちらこちらからホワイトたちに向って警戒する気配が漏れ出ている。


「申し訳ございません、ホワイト様。主はただ今留守にしておりましてご面会はかないませぬ。」

ホワイトからの申し出に門番は丁寧ではあるが頑とした態度で面会を拒否する。だがホワイトにとってはそれは想定内であった。


「そうか・・、いや、構わぬ。戻られるまで待たせて貰う。」

「しかし・・。」

ホワイトの言葉に門番は食い下がる、だがホワイトの次の言葉で門番も引き下がるしかゆかなくなった。


「今回の訪問は王家からブルージュ卿への伝言を携えている。急な訪問ではあったが今私は王家の正式な使者だ。その事を執事へ伝えよ。」

「はっ、申し訳ございませんでしたっ!それでは屋敷の中にてお待ち下さい。」

門番はホワイトに天下の宝刀を抜かれて抜き差しならない状態におかれた。それ故、これ以上は自分の領分ではないと判断し取り合えずホワイトを招き入れ、後の事は上司に委ねる事とした。


その後、客間へ通されたホワイトたちは暫し待たされる事となる。ホワイトたちには窺い知れぬ事だが、今屋敷の奥ではブルージュ伯爵たちがとのように対応するかでてんやわんやしている事だろう。

そんな中、時間稼ぎなのだろうかこの屋敷の執事がホワイトたちのところへやってきた。


「申し訳ありませんでした、ホワイト様。ただ今漸く主にも連絡がとれ、急ぎこちらに向っております。今暫くお待ち下さい。」

「そうか、だが気にするな。急な訪問だった故、非はこちらにある。」

「はっ、申し訳ありません。それでは暫しお待ち下さい。」

執事は形通りの返事をするとそのまま部屋を出て行った。その後姿を見送ると彼女はホワイトへ話し掛けた。


「なんか急展開だったけど、相手が留守とは気抜けしちゃいますね。」

「はははっ、そんな訳があるまい。ブルージュ伯爵はちゃんとこの屋敷にいるよ。ただ俺たちは招かれざる客だからな。どう対応するか奥で話し合っているのだろう。」

「えっ、どうするかって・・、それって。」

「ああ、シラを切り通すか、はたまた一気にるかだな。」

「えーと、やるってのはつまり・・。」

「ははは、安心しろ。どのような方法で来るかは判らんがお前は必ず俺が守るよ。いや、勇者に対して守るだなどと言うのは不遜か。」

「うーっ、まぁ私の知っている勇者たちって基本無敵ですけど、それってあくまで物語の中の話だしなぁ。」

ホワイトに連れられるままブルージュ伯爵の屋敷まで来た彼女であったが、ここで突然身の危険を実感し始める。そう、今彼女は何時命を失くしてもおかしくない状況にいるのだ。

それはここに来る前に経験した戦いとは全然違う規模の圧力にて彼女を攻撃してくるはずである。その事に彼女は突然不安を覚えた。

だがそんな彼女の手をホワイトが握ってくる。


「大丈夫だ、未来。俺を信じてくれ。お前は俺が必ず守る。必ずだ。」

そんなホワイトの言葉と握られた手から伝わってくる温もりが、彼女の心を包み込んでいたどす暗い不安を忽ち払拭した。

それはホワイトの持つ剣の技量からくる安心感ではなかった。ひとりの男の固い決意が彼女に伝わり根拠のない安堵感を彼女にもたらしたのである。


ああっ、今私は守られている。この人は全身全霊で私を守ろうとしているのだ。ならば信じなくては。


そんな思いが今彼女の中に湧き出してきた。自分は守られている。その安心感は如何程のものであろうか。仮にそう告げた者の技量がどれ程拙いものだとしても、その決意には如何程の曇りもないはずである。故にその上で死を被ったとしても多分自分は納得して死んでゆける。そんな気持ちが彼女を落ち着かせた。


だが事態はホワイトたちが予想していた最悪の事態とはならなかった。そう、暫くするとこの屋敷の主であるアルディ・ブルージュ伯爵が衛士も連れずに二人の前に現れたのである。


「これはこれはホワイト殿。急な訪問とは如何なされたのかな?何でも王家からの伝言があるとか。いやはや、知らせを受けて、出先からとるものも知り合えず馬車を走らせてしまいましたよ。」

ブルージュ伯爵は門番の話に合わせる様に部屋に入るなり作り事の言い訳を始めた。だが、ホワイトはそんな戯言に付き合う気はないようだった。


「ブルージュ卿、前置きは抜きにしよう。あなたは今まで王家に忠誠を誓っていたはずだが、何やら宗旨替えをなされたようだ。」

「なんとっ!いきなりですなっ!誰がそんな事を言ったのですっ!私は今まで王家に忠実に従えていたのですぞっ!如何にホワイト殿といえどもそのような言い掛かりは不躾であろうっ!」

ホワイトの先制攻撃にブルージュ伯爵はうろたえて語気を強めた。その気配を察知したのか隣の部屋からも尋常ならざる緊張した気配が漏れ伝わってきた。多分そこにはブルージュ伯爵が配置した衛士たちが詰めているのだろう。

だがホワイトはそんなブルージュ伯爵に構わず話を進める。


「ブルージュ卿、我が王国は今、隣国グレートキングダムと王位継承に関するいざこざで争いをしている。そんな状況では昨日の臣は今日の裏切り者となるのもやぶさかではない。」

「ぐっ、こっ、この私が王家を裏切ったと申すのかっ!そのような証拠がどこにあるっ!」

「ブルージュ卿、証拠など作ろうと思えば幾らでも捏造できるのだよ。それは貴公もよく知っているであろう?だから本当に確かめるべきは証拠などではなく真意だ。幸いアルバート王子はまだその身をグレートキングダム側に取り押さえられていない。だが、あいつらは馬鹿だからな。私が準備した影武者を喜んで拘束したらしいという情報が入った。いやはや、まさかこんなに簡単に罠にかかるとは本当にあいつらは馬鹿だとしか思えん。そんな馬鹿相手に苦戦していると思うと私も恥ずかしいよ。」

「なっ、影武者だと・・。しかも罠を仕掛けたというのか・・。」

ホワイトの言葉にブルージュ伯爵は言葉を失う。これは全くホワイトの嘘であったが、アルバート王子を拘束したものの、その真偽を謀りかねていたブルージュ伯爵には効いたようである。それ程、魔法使いがアルバート王子にかけた偽装は完璧であり、それを裏づけるだけの権威がホワイトにはあったのだ。

そう、今この国ではホワイトこそが実質的な実権を握っているのである。なので王家などはホワイトの前では飾りにしか過ぎなかったのだ。

但しこれは外からガレリア王国を見た場合の考えであり、ホワイトの王家に対する忠誠とは関係ない。だがホワイトの今のガレリア王国に対する実質的な権力掌握を見知っているブルージュ伯爵にとっては、自分たちが集めた情報よりホワイトが語る情報の方が正解に思えてしまった。

つまりブルージュ伯爵はまんまとホワイトの嘘に嵌まったのだ、だがそれはホワイトのガレリア王国に対する実質的な権力掌握という事実があればこそ信じ込ませる事ができた嘘であった。

そしてブルージュ伯爵に迷いが生じたと踏んだホワイトは、ここから一気に畳み掛けた。


「まっ、実はアルバート王子は私と違って貴公を疑っていない。私に言わせればそこら辺があいつの駄目なところなのだが、それでもあいつを説き伏せるには確かな証拠が必要だった。それ故の今回の罠だったのだが、それでもあいつは貴公を信じるというのだよ。よしんば貴公が裏切ったとしても抜き差しならぬ事情があったばずだなどと言う始末だ。全くあいつのアホさ加減には私も手を焼いてしまう。だが、あれでもあいつは王家だからな。なので私も無下には出来ない。さて、そこで貴公に問いたい。確かに貴公のこれまでの王家に対する忠誠は偽りないものであった。それに関しては私も同意する。だが、私の張った罠に貴公が掛かったのもまた事実である。」

ホワイトはそこまで一気にまくして漸く区切りを入れる。ホワイトの言葉を黙って聞いていたブルージュ伯爵は顔面蒼白だ。もしもこれ以上追い詰めたりしたらヤケを起こして衛士たちをなだれ込ませるかも知れない。それ故の間をおく一拍であった。

だがホワイトはブルージュ伯爵に考える隙を与えないように新たな推測をもって攻撃を仕掛けた。


「そこで私は考えたのだよ。貴公の王家に対する忠誠は本物だ。そんな貴公が王家を裏切るとしたらどのような事が起こったのか。そして私は思いついた。貴公の后は最近グレートキングダム勢力に占領されてしまったランシスの出目だ。そしてそのお后は運悪く今そこのご実家に帰られていたはず。しかも3ケ月前に生まれたばかりの孫をつれてな。このことから・・。」

「そうだっ!私はあいつらに妻と息子の嫁と孫を人質に取られたのだっ!」

淡々と話すホワイトの言葉を遮って突然ブルージュ伯爵がテーブルを叩いて叫んだ。


ビンゴっ!


ホワイトは心中で探りが当たった事に安堵する。だがそれは相手の事情の上辺を若干掌握したに過ぎない。実際の交渉はこれからだった。


「成程、そうであったが。確かにそのような事になっていたのなら貴公がグレートキングダム側に組するのも致し方ないかも知れぬな。だが、貴公にとっては后たちは掛けがえのない方々であろうが、立場の違う私には同意出来るものではない。だがな、それでもあのアホ王子はなんとかしろと俺に言うんだよ。」

「アルバート殿下が・・。」

「全くあいつはお子ちゃまだ。どうしても駄目となれば自分が代わりになると言い出す始末でな。」

「そのような事を殿下が・・。」

これはホワイトの全くの捏造であったが、元々王家に寄り添ってきたブルージュ伯爵には効いたらしい。なので自分がした事を恥じるかのようにうつむいてしまった。


「まっ、さすがにあいつを代わりに差し出す訳にはいかないが、后たちは私が何とかしよう。約束は出来ないがランシスから脱出させる手筈は既に手配した。だがその為には貴公を監視しているであろうグレートキングダム側の人間を拘束する必要がある。我々の動きが相手に漏れては脱出計画が難しくなるからな。」

「なんと、既にそこまで動かれているのか・・。」

いや、もう一度言うがこれは全てホワイトの嘘である。だがホワイトの目的はブルージュ伯爵に拘束されてしまったアルバート王子の奪還だ。なのでその為にホワイトはあらゆる言葉を使ってブルージュ伯爵が安心できる話を投げ掛け信じ込ませようとしたのである。

もっともブルージュ伯爵が裏切った理由が判った今ではホワイトにとって相手を懐柔する言葉など湯水のように湧き出すものなのであろう。人はそれを欺瞞と罵るかも知れないが、相手が望む言葉で相手を懐柔する。それもまたホワイトが培ってきた交渉術であった。


「脱出計画に関しては私の手の者の中でこの手の事に慣れた者たちが既に動いている。ランシスの近くにも私の子飼いは大勢いる。なので後は知らせ待つだけだ。」

「おおっ、ホワイト殿っ!私は・・、私は殿下に対してなんと詫びればよいのかっ!」

ブルージュ伯爵はホワイトの嘘を鵜呑みにしてしまった。なので希望の光が差し込んだが故に今度は自戒の念が湧き上がって来たのだろう。そんなブルージュ伯爵の反応を見てホワイトは更に懐柔の言葉を畳み掛けた。


「そうだな、まぁ孫でも連れて挨拶に行けばいいだろう。あいつはアホだから改まって謝られても逆に機嫌を損ねるぞ。」

「くっ、殿下・・。私は・・、私は・・。」

「ブルージュ卿、王室側である私がこんな事を言うのもおかしな事だが、情と忠義では情が勝らねば人の世は成り立たない。ただ悪はそんな人の情すら時に利用し付け込んでくる。そして今はまさにその様な事が暗躍している時期だ。これは正常な事ではない。アルバートはそんな異常な世の中を正常に戻す為のキーマンだ。やつがグレートキングダム側に囚われるという事はその希望が断ち切られるに等しい。なので貴公にはこれからもアルバートを助けて貰いたい。」

「ホワイト殿・・、一旦王家に刃を向けた私を許すと言うのか・・。」

「私が許すのではない。アルバートにもそんな権利はないであろう。そもそも貴公の后たちがグレートキングダム側に拉致された原因は殆どあいつにあるようなものだからな。だから私はあいつの失態を尻拭いしたに過ぎぬ。なので貴公に感謝されるいわれなどないな。」

「されど・・、されど・・。」

ブルージュ伯爵はこれまで王家への忠義と肉親の情のどちらを取るかで苦悩していたが、それがホワイトの登場で一気に解決する望みを見出した事に涙する。もっともホワイトがブルージュ伯爵に話した事は全て嘘っぱちなのでブルージュ伯爵が抱えている問題はなにひとつ解決していないのだが、今のブルージュ伯爵にそれを確かめる術はなかった。

人は窮地に立たされると思考が硬直する。平時であればこのようにとんとん拍子に問題が解決の方向に向う事を逆に疑うであろう優秀な為政者であるブルージュ伯爵も、巧みなホワイトの誘導により今はただの肉親大事なじじいと化していた。

なのでホワイトはここに来た最大の目的をここぞとばかりにブルージュ伯爵に提案する。


「さて、そういう事なので私が送り込んだ偽者を返してもらえるかな?あれはアルバートに似て本当のアホなんだが、それ故に影武者としては優秀だ。なので失うのはちょっと痛い。まっ、手足の一本くらい無くなっていても文句は言わんよ。あいつにはいい薬だっただろう。」

「いや、そこまでの尋問はまだしていないのだが・・。いや、判りました。スチュワードっ!アルバート王子の偽者をここへ連れて来いっ!」

ホワイトの提案にブルージュ伯爵は廊下で控えていた執事を呼びつけ王子を連れて来るように言いつける。そして暫くすると執事と衛士に連れられたアルバート王子が現れた。だが王子は部屋の中にホワイトがいるのを見ると忽ち嫌そうな顔になる。


「うわっ、ホワイト自らやって来たのか。いや、別に僕はなにもしていないよ?ただブルージュ伯爵が勘違いしただけなんだ。うんっ、僕は悪くない。」

「アーチャー、少しは反省したらどうなんだ?今回は王子の影武者としてまだ使い道があるから連れ戻しに来たが、こんな事が続くようでは捨てるぞっ!」

「いや、だから僕は何もしていないってっ!」

ホワイトの恫喝にアーチャーと偽名で呼ばれたアルバート王子はあくまで反省する様子を見せない。だがそんな子供っぽい言い訳をする王子を目を点にして見つめる存在がいた。そう、彼女である。

彼女の中ではアルバート王子は国を救う為に尽力している清廉潔白な快男児であった。それはハーツやポチなどから聞いていた王子の置かれている状況や、ハーツなどが命を懸けて尽くしていた事などから彼女が勝手に創り上げていた偶像ではあったが、実際の王子は見た目はともかく、中身は何ともお子ちゃま然とした男だったのである。

なので、そのギャップに彼女は言葉を失っていた。そしてただただ無言でホワイトの影から王子を見ていた。だが、そんな彼女を王子が目ざとく見つける。そして嬉しそうに彼女に話しかけてきた。


「未来じゃないかっ!そうか、見つけてくれたんだね。ありがとうホワイトっ!さすがだな。やっぱり君は頼りになるよっ!」

そう言って彼女に近づこうとした王子をホワイトが遮る。


「アーチャー、王子の真似事は部屋に戻ってからやれ。今はブルージュ伯爵と繋がりを持っていたグレートキングダム側の人間を排除するのが優先事項だ。なのでブルージュ卿よ、我々はこれにて失礼する。後の事は私の部下が連絡係として常駐するので全てはそいつと打ち合わせをしてくれ。今後はランシスの件も踏まえて時間との競争になるはずだ。なので時間稼ぎも含めて卿には取り合えず今まで通りに動いてもらう。よろしいな?」

「ああ、判った。ホワイト殿、どうか・・、どうか后と孫たちを助けてくれ・・。」

「絶対の約束はできない。だが失敗するつもりもない。それだけの人員と適任者を配置している。だから後は連絡を待て。」

「すまない・・、本当にすまない・・。」

そう言うとブルージュ伯爵はその場に膝待ついて泣き崩れた。そんな主を執事がそっと寄り添い言葉を掛ける。それに対し、ブルージュ伯爵は「大丈夫だ、ホワイト殿が全て対処してくれだ。なので后たちは戻ってくる。戻って来るのだ。」と呟いた。


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