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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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手掛かり

その後も胸像は彼女が前に立つ度あのメッセージを彼女に伝えた。但し一回伝えるとその後は沈黙する。だが日を改めるとまた彼女に語りかけるのだ。

そんな事を彼女は何回繰り返しただろう。そして季節は既に初夏となっていた。

その間、彼女は手掛かりを求めて胸像について色々と調べた。製作者の彫刻家の事や、この胸像がこの高校へ寄贈された経緯などから始めて、更には彫刻家へ直接手紙を書いたりもした。

まぁ、内容は胸像に興味を持ったので詳細を知りたいといった当たり障りのないものにしてある。まさか胸像が話しかけてきたなどと書いては逆に彫刻家から煙たがられると彼女も思ったのだろう。

なので彫刻家からも当たり障りのない、しかし大変喜んでいる事が文面からも判る返事が来た。そんな彫刻家からの返事は次のようなものだった。


私の作品に興味を持たれたとの事、大変嬉しく思いました。さて、ご質問のあったモデルの事ですが、あれは別に誰をモデルにしたと言うものではありません。しいて言うならば私の妄想の産物です。まぁ、かなり古代ローマ彫刻の影響が反映されているかと思いますがモデルはいません。

ただあの作品を創った経緯は、別作品を構想していた私に何かが語り掛けてきた事によりインスピレーションが湧き上がり、それこそ寝食を忘れて短期間で創り上げたのを覚えております。

完成後、私としては作品の質はかなり高い方と自負しておりましたが、何故か完成した途端熱が冷め展覧会などへの出品はしませんでした。ですが折角創ったのだからと家内に相談したところ、なら私の母校へ寄贈しなさいと言われ、あなたの高校へ話をしたら当時の校長先生に大変喜ばれ今に至っています。そう、私の家内はあなたの高校の卒業生なのですよ。

まぁ、その後の胸像の経緯はちらりとは聞いております。ですがそれもまた時代の流れでしょう。ですからあなたからあの胸像に興味を持ったと手紙を貰った時は驚きました。

さて、アトリエを探したら当時の製作デッサンや創作メモが見つかりました。なのでそれらもこの手紙と一緒に送ります。これらがあなたの創作活動の助力になれば私としても大変喜ばしい事です。それではがんばって下さい。学生時代は無限の可能性を秘めています。ですが時間は有限だ。その有限な時間をあなたが有意義に過ごされる事を願ってここに筆をおく事とします。


どうやら手紙の内容から彫刻家は彼女が美術部員だと勘違いしているようだった。実際には彼女は部員ではなかったが敢えてその事は訂正する事もないだろうと彼女は思った。それよりも彼女の関心事は一緒に送られてきた胸像の製作デッサンや創作メモである。

デッサンは今の胸像とは違った案が幾つもあった。それらは素人の彼女から見てもどれも素晴らしいものだと思えたが、しかしやはり最終案が一番輝いて見えた。

そしてその最終案には色々と書き込みがされていた。なんと彫刻には関係ないと思われる髪の色まで書かれていたのだ。他にも胸像のプロフィールまで書いてある。

このモデルはどこぞの国の王子だとか、隣国に攻め込まれて防衛の指揮を執っているとか、実父である王は既に敵の刃に倒れ、皇太子である兄は敵の言いなりとなっているなど、まるで小説のキャラクター設定と見まがうほどである。

だが彫刻のちょの字も知らない彼女は彫刻を彫るにはそこまで設定するものなのかと、ただただ感心したのであった。


そして次に彼女は創作メモを手にとった。それはメモとは言っても紙の束ではない。A3サイズの大きなノートだ。そこには彫刻を彫るにあたって必要な準備の一覧や材料の選定、殴り書きに近いデッサンも書かれていた。

それとやはり設定集。これは多分製作デッサンに書き込んだものを整理して新たにこちらに書き込んだようだ。なので整然と箇条書きで書かれている。後はスケジュールやどのコンクールを目標とするかなどが書かれており、これらの情報がノートの半分ほどのページを占めていた。

ただ、ノートの真ん中あたりのページが破り取られており、そこから後ろの部分は白紙だった。

だが彼女はその白紙部分に違和感を覚えた。何に違和感があるのか彼女には判らなかったが何かが書かれていなければならないと彼女は思った。ただそれが何なのかが判らず彼女を苛立たせる。


「何かしら?別に何も書かれていないのに何か足りない気がする・・。消しゴムで消された跡もないのだから何も書かれたはずがないのに・・。」

そう言いつつ彼女はノートの白紙のページをそっと撫でた。その時であるっ!

彼女が触れたノートが突然輝き出したのだっ!そして見たこともない文字が白紙のページに浮かび上がった。いや、文字だけではない。何やら複雑な模様の絵まで描かれているではないかっ!


「なにこれ・・、何故こんな文字が?」

彼女は目の前で起こった現象にただただ困惑する。だがノートから輝きが消えても文字や絵はそこに残っていた。しかも何故か彼女はその文字が読めたのである。


「えっ、なんで?なんで私はこの文字を読めるの?」

困惑しつつも彼女はそこに書かれた文章を読み始める。そこには次のような言葉が一番初めに記されていた。


「ジャンヌ、君に会いたい。僕はここにいるよ。」

驚いた事に彼女はそこでまた『ジャンヌ』という言葉と出会う。そしてその『ジャンヌ』という名は別人ではなく、自分を指していると強く感じたのだった。

「ジャンヌ・・、ジャンヌ・・。私をジャンヌと呼ぶあなたは誰?」

彼女はノートに現れた文字に向って問い掛ける。だがその文字も胸像と同じで彼女の問い掛けに答えてはくれなかった。


なので彼女は先を読み進める事にする。そこ書かれていた内容はどこかへ行く為の方法らしかった。

彼女はノートの白紙部分に現れた見た事もない文字を何故か読めたのだが、その文字のつづりが表している『単語』の意味までは判らない。いや、殆どの単語は理解できたのだが幾箇所かの単語は多分専門用語なのだろう。発音は出来るのだがその『言葉』の意味が判らなかったのだ。

なので彼女は推理探偵の如く文章を解読してゆく。


「この文章をそのまま読むと、なんか預言書みたいね。言い回しもちょっと古いなぁ。と言うか頭が痛くなりそう・・。私歴史は好きだけど古文は苦手なのよねぇ。」

なので彼女はノートに現れた文章を日本語に訳して別のノートへと書き出した。その内容は次のようなものだった。

■□■□■□

ジャンヌ、君に会いたい。僕はここにいるよ。

遠くに去ってしまった君を僕はここで待つ。いつまでも待つ。だが君はここへ来る方法を知らないだろう。なのでその方法を記しバルモア(意味不明。原文の読みのまま)へと託す。


若葉が日の光を浴び成長してゆく。そしてコマンダム(意味不明。原文の読みのまま)の月日が過ぎゆきし頃、期は満ちる。成長した若木は旅立ちの時を迎えるのだ。

その為の儀式が執り行われし時、しるべとなりし羊飼いと共に汝はこの世界へと舞い降りる。

されど旅たちには試練が課される。その試練を乗り越えし者だけが願いを叶えるであろう。

世界は因果律に支配されている。それは何人たりともあらがえるものではない。しかし、未来は変えられる。それは浜辺の砂の中から一粒のエレメン(意味不明。原文の読みのまま)を見つけるに等しい程の苦難を伴うであろうが諦めなければ手にする事が出来るであろう。

汝よ、故に力を蓄え時を待て。全ては一時(もしくは一瞬かも知れない)で決まる。汝の進む道は険しく容赦のないものである。だがそれは神が汝に課した試練だ。そしてその丘の向こうに汝が求めしものがある。


跳躍の時はバインダム(意味不明。原文の読みのまま)。所はカトレムニ(意味不明。原文の読みのまま)。魔法陣へのにえは羊飼い。されば汝は紫紺の衣をまといて現るであろう。神に愛されし者よ、ハーツ・ガブリエル(意味不明。原文の読みのまま。固有名詞か?)に導かれ汝が信じる者の為、躊躇わずに跳べっ!


ジャンヌ、君に会いたい。僕はここにいるよ。

■□■□■□


彼女は書き写した内容とノートに現れた原本とを見比べ齟齬のない事を確認する。一番最後のページに書かれていた魔法陣と思しき図形も苦労しつつも書き写した。

「うんっ、一応書き間違いや意味の取り違えはないと思う・・。だけどやっぱり内容があやふや過ぎて何を言っているのかさっぱりだわ。」

彼女は書き写した紙から顔を上げ自分の部屋の天井を見上げた。そして更に愚痴る。

「と言うか、最初は口語体なのになんで肝心なところが記述体なの?これじゃまるで出来損ないのRPGゲームだわ。」

彼女は記述体で書かれた文章をRPGゲームでよくあるオープニングの時代設定説明と揶揄する。確かにRPGゲームでは雰囲気を出す為なのかこのような難解且つ意味不明な説明がオープニングに流れる事がある。でも大抵のプレイヤーはそんなところはスキップしてさっさとゲームを始めるはずだ。

だが彼女はスキップできない。この文章を解読しなくてはゲームの初期画面にすら達する事が出来ないのだから。


なので、それからの彼女はこの怪文章の意味を紐解く事が日課となったのだった。

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