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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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無一文から一躍お金持ち?

さて、プルターブ子爵の屋敷を何とか脱出した彼女は今、町外れのちょっとした森の中に身を隠していた。そして周りに誰もいない事を確かめると服を脱いで乾かし始める。今回はポチが羊でないからなのか、彼女はポチに目を瞑っていろとは言わなかった。


「う~んっ、びしょびしょになってしまった・・。あーっ、バックの中の着替えもだわ。ちっ、隊長の誘導にまんまと嵌められてしまった・・。でもよくよく考えたら私って凄いな。よくもまぁ、あんな高さから飛び降りて擦り傷程度で済んだもんだ。ねぇ、ポチ。これって、もしかして勇者特典?」

『ピッ、そうですね。勇者はその過酷な使命に立ち向かう為に色々な特典を付与されますから。』

「あーっ、所謂チートってやつね。そう言えば私はどんなやつを貰ってるの?」

『ピッ、取り合えずハーツ様が見繕ったやつですと、目玉焼きを完璧に半熟に焼けるチートとか、イケメンに街角で出会い頭にぶつかった場合、相手を確実にノックダウンするチートとかです。まだまだ沢山ありますけどあまり戦いには役立ちそうなのはありませんね。そもそも肉体強化系は勇者の基本パックに含まれていますからわざわざチートで指定するまでもないですし。』

「ハーツは今度会ったらぶっ叩くっ!」

彼女はポチからの説明を聞いてハーツが選んだチートのあまりの陳腐さに語気を荒げる。だがそんな彼女をポチが宥めた。


『ピッ、いえ、今言ったのはあくまでハーツ様があなたに付与したチートですから、そこまでするのはどうかと。』

「目玉焼きを半熟に焼くチートがなんで勇者に必要なのよっ!」

『ピッ、あれ?もしかしてあなたって半熟目玉焼きをチートなしで焼けるんですか?』

「えっ?・・いや、実は焼けません・・。いや出来ない訳じゃないんだけど成功率は低いです・・。」

ポチに悪気は無かったのだろうが、何故か彼女は自分の女子力の低さを指摘されたような気がしてしゅんとしてしまった。いや、護国寺ごこくじ 未来みらいよ、半熟目玉焼きを完璧に焼くのは結構難しいぞ。だからそんなに落ち込まなくてもいいと思う。そもそも料理における一番のスパイスは愛情だからねっ!

あーっ、自分で言っておいてなんだけど、背中が痒くなってしまった・・。


『ピッ、なら便利なチートじゃないですか。このチートを使えば100%ですよ?』

「う~っ、嬉しいような、それ程でもないような・・。」

『ピッ、半熟目玉焼きはアルバート王子の好物らしいです。なので半熟目玉焼きを上手に焼けるかというのが、王宮で王子が女性に声を掛けた時の定番な話題らしいですよ。でも王宮にいる女性は普通料理を自分でしたりしませんからね。なので王子は大抵がっかりされるようです。』

「あーっ、ハーツっ!いえ、ハーツ様っ!お心遣い感謝しますっ!次にあった時には10回はぶっ叩こうと思っていたけど5回にしておきますっ!」

『ピッ、それでも叩くのは確定なんだ・・。』

ハーツが付与したしょうもないチートが、実は王子に気に入られる為の有効な武器だったと知った彼女の中でハーツの株が急上昇しあっという間にストップ高まで達した。だが元々の株価が地を這うようなものだったので実質的な上げ幅は小さい。何故なら1に幾ら大きな数を掛けてもその数以上にはならないからである。まぁ、元の数字がゼロよりはマシだが・・。ゼロの掛け算って全てを無に還しちゃうからね。

それと、この辺の言い回しはちょっと難しいので小さい子には判らないだろうからお父さんかお母さんに聞いてみてねっ!でも多分返って来る言葉は『判らん』だと思うけどさ。まぁ、その時は自分で調べよう。えっ、忙しいからやらない?あーっ、そうですか。まぁ、ゲームはほどほどにね。


さて、一見しょうもないと思われたポチからの付与チートが王子に対してとても有効なものだと判った彼女は、俄然やる気を出し他のチートも王子へのアピールに使えるのか確かめ始めた。


「ちょっとポチっ!王子の好みって後はどんなのがあるのっ!」

『ピッ、えーと、好みと言われても・・、資料によると戦争が起こる前に熱中していたのはポロと絵ですね。因みに絵は観る方じゃなくて描く方です。』

「ポロ?なにそれ?と言うか、あなた本当に王子関係のプライベート情報を持っているんだ・・。」

彼女は半ば勢いで尋ねた事にポチが真面目に答えた事に少々驚いたようだ。


『ピッ、ポロに関してはグレートキングダム王国の貴族の間で流行っている乗馬と球転がしを併せたような遊びです。あなたの世界にも同じ名前の遊びがあったはずです。それとほぼ同じですね。後、王子の情報に関してはあくまで王室の公式情報です。本当かとうかは定かではありません。』

「王子って自分の公式情報に半熟目玉焼きが好きだなんて載せるんだ・・。凄いな王子。」

『ピッ、自分はお高くとまっていませんよという庶民向けのアピールかも知れませんね。でもハーツ様が敢えてチートを付与したくらいですから半熟目玉焼きの情報は本当でしょう。』

「むーっ、そっかぁ。でもこのチートってどうやって発現させるの?」

『ピッ、普通に焼けば自動で発現しますよ。チートってそうゆうものですから。』

「ふ~んっ、そうなんだ。便利なような、そうでもないような?よしっ、今度どこかで台所を借りて試してみようっ!」

その後、彼女は結局ハーツから付与されたチートを全てポチから聞きだし自分専用のフォルダーに保存させた。当然、各チートが王子とどのように関係するかの注釈付である。


だが濡れた服を乾かしながらポチ相手にそんな事をしていた彼女を森の奥から監視している者がいた。そう、その者こそがアルバート王子が彼女を追跡させる為に放った追跡者だ。


「へぇ~、半熟目玉焼きを完璧に焼けるチートかぁ。いいなぁ、私も欲しいなぁ。それと絵を書くのがお好きだなんてアルバート王子様ってご趣味もやっぱりハイソねぇ。あーっ、私をモデルにしてくださらないかなぁ。王子の為ならヌードだって構わないのに・・。ふふふっ、そしてそんな私に欲情してしまった王子は私に筆でイタズラしちゃうのっ!おや、この胸の辺りにちょっと埃が付いてるな。とか言っちゃってっ!きゃーっ、駄目ですぅ~。王子っ!そんな処を筆でこちょこちょされたらマリアは昇天しちゃいますぅ~っ!」

追跡者は魔法で彼女とポチの会話を盗み聞きし、その情報からアルバート王子の趣味である絵画のモデルに自分がなった妄想を始めてしまった。

だがそんな追跡者も彼女が動き出したのを感知すると名残惜しそうに妄想を中断し彼女たちの後をつけた。


「さて、何とか服も乾いたし後は今夜の宿とご飯をどうするかね。くーっ、プルターブ子爵めっ!可憐で可愛く、且つ素直で奥ゆかしいか弱い女の子である私を無一文で追い返すとは許せんな。王子に会ったら絶対チクってやるっ!」

『ピッ、そうですね。まぁその件は取り合えず忘れましょう。プルターブ子爵も何か考えがあっての事でしょうから。』

ポチは薄々プルターブ子爵の後ろにアルバート王子の影がある事に気付いていたのでプルターブ子爵を援護する様な事を言う。だが、何故か王子の事は彼女には伏せていた。


「う~っ、本当なら今頃プルターブ子爵の屋敷でご馳走を食べていたはずなんだけどなぁ。」

『ピッ、その件に関しては私も配慮が足りませんでした。なので私のポケットマネーを使う事にしましょう。でもプルターブ村にはもう戻れませんので隣の村まで行く必要があります。』

「えっ?ポチってお金を持ってるの?なんで?あなたって魔法プログラムなんでしょ?意味ないじゃん。と言うかプログラムがお金を持っているってなんなのよ?」

『ピッ、まぁポケットマネーと言っても王子から渡された仮払金です。何か金が必要になった時に使うように渡されていたのです。』

「ポチっ、てめぇーっ!だったら最初から出さんかいっ!」

ポチのとんでも発言に彼女は怒りだす。だがポチはしれっと受け流した。


『ピッ、お金って使うと無くなるんですよ?ならば使わなくてもいい方法があるならそちらを選択するのは普通なのでは?』

「くっ、まさかのお母さん発言だ・・。因みにポチはお幾ら万円ほどお持ちなの?」

『ピッ、100万ギールです。』

「100万ギールっ!・・って、円に換算すると幾らなのよ?あっ、ポチって円って単位が判らないんだったっけ?」

『ピッ、ユーザーインターフェイスを変更する前は使用する単語辞書がこちらの世界の物でしたから不明と答えましたけど、今は判りますよ。まぁ、大体1ギール1円と思ってくれていいです。』

「1ギール1円・・、う~んっ、これこそまさにご都合主義なのかしら?はたまた偶然か・・。」

えーと、偶然です。気にしないで下さい。そもそも変にリアルな為替交換値を言っても判らないでしょう?


『ピッ、取り合えず2万ギールをあなたのバックに転送しました。無駄使いしちゃ駄目ですからね。』

「くっ、ポチの言い方が段々お母さんぽくなっているのは気のせいなのかしら・・。うわっ、なんか急にバックが重くなったわ。うはっ、これがギール貨幣かぁ。しかもこんなにいっぱいっ!」

彼女はポチがバックに転送させたギール貨幣を手に取りにんまりとする。因みにポチが転送してきたギール貨幣は端銅貨が14枚と白貨が10枚。それと茶貨が10枚だった。それぞれの硬貨の円換算金額は端銅貨が1千円相当で白貨が500円相当。茶貨は100円相当である。うんっ、判りやすいね。


「ふふふっ、これで私もこちらの世界のお金を手に入れた事になるわ。うんっ、今日は祝宴ねっ!ちょっとポチっ!足んなくなったら直ぐに補充しとくのよっ!」

『ピッ、これだから子供ってやつは・・。あればあるだけ無計画に使うからなぁ。』

「何か言った?」

『ピッ、いえ、何も。それでは隣の村まで行きましょう。あーっ、街道は子爵の手の者が見張っているかも知れませんから裏道で。そうですねぇ、大体5時間もあれば着きますよ。』

「5時間・・、それって歩きっ放しで?」

『ピッ、表の街道を馬車で行けば1時間くらいなんですけどね。でもあなたは子爵のところの衛兵を伸しちゃっていますからねぇ。見つかったらまたひと悶着ですよ?』

「うーっ、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ。いや、あれは自己防衛よっ!私は可憐で可愛く、且つ素直で奥ゆかしいか弱い女の子なんだからっ!私は悪くないっ!」

『ピッ、はいはい、ですが相手はそう思っていないはずです。だから5時間掛けて裏道を行きましょう。さっ、もたもたしていると日が暮れちゃいますよ。』

「ううっ、私、元の世界でも5時間も歩いた事ないわ・・。異世界って過酷なのねぇ~。」

『ピッ、安心して下さい、あなたは勇者特性を有しているんですから体力は超人級です。まっ、だからと言って疲れない訳ではないですけどね。ほら、拗ねてないでさくさく歩いて下さい。楽ばかりしようとしていると駄目人間になっちゃいますよ。』

「くっ、ポチがますますお母さんぽくなっている・・。」

やがて諦めたのか彼女はポチの指示に従って隣村へ向って歩きだした。こうなるとバックに転送して貰ったギール硬貨が俄然重たく感じられる。確かにどうせ使うのは隣村に着いてからなのだから今手元にある必要はない。


まぁ、今回の失敗は経験の無さ故であろう。だが、やがて彼女も色々な事を覚えて要領を得るはずだ。そう、生きるという事は日々勉強なのである。

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