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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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駆け引き

「いいだろう、私も忙しい身なのでな。その提案に乗ってやろう。衛兵っ!」

プルターブ子爵は彼女にそう告げると部屋の外で待機していた衛兵を呼びつける。その声に衛兵数人が部屋へと雪崩れ込んできた。しかもご丁寧に入り口からだけでなく、隣の部屋と繋がっていたとおもしき隠し扉からも衛兵が飛び出してきた。


「うへっ、映画みたい・・。用心深いのねぇ。」

その光景に彼女は思わず感想を漏らす。そこにポチが脳内伝達で割り込んできた。

≪ピッ、これくらいは貴族のたしなみですよ。後、多分あなたの対面の壁に飾ってある鏡も、普通の鏡ではないでしょう。あれは覗き鏡と言って向こう側からこちらの部屋を見る事が出来るようになっているはずです。ますますあなたは窮地に陥りましたね。≫

<う~んっ、こうゆう時こそ白馬の王子様が駆けつけてくれるはずなんだけどなぁ。>

≪ピッ、無茶言わないで下さい。王子は今ここから200キロは離れた場所においでのはずです。なので王子は当てにせずご自分でこの状況を脱してください。そもそもプルターブ子爵をけしかけたのはあなたなんですから。≫

<はいはい、そうですね。それじゃまずテストから始めますか。>

ポチとの脳内会話を打ち切ると彼女は子爵に紙を用意させた。ペンは自前のポールペンを使うので子爵が用意した物は辞退する。もっともインクをちまちまとつけて使うこちらの世界のペンは彼女には扱いきれない。だが、王子の居場所を紙に書こうとして彼女の手は止まる。


<ねぇ、ポチ。私ってあなたたちの言葉は理解できるし読めるけど書けないわ。なんで?>

≪ピッ、あーっ、それは気にしないで下さい。文章を読むのと書くのでは脳の違う部位が担当しているからそうゆう事もままあります。特に魔法で無理やり学習させた場合はそうなり易いと統計にも出ていますから。でも、書けないと言っても文章としての単語が書けないだけで文字自体のつづりは書けますよね。なのであなたは普通に日本語で書くつもりで書いてくれれば、私があなたの脳内に干渉してこちらの文字で綴らせますから。≫

<げっ、脳内干渉ですと?あなたそんな事ができるの?もしかして、私の頭の中を覗いているんじゃないでしょうね?>

≪ピッ、あーっ、言い方がまずかったですか?正確には私があなたの脳に直接翻訳したスペルを教えますから、あなたは普通に日本語を書くつもりで書いてくれればいいだけです。文字のスペル自体はあなたも書けるはずですし、こちらの言葉も読めるのだから違和感はないはずですよ。≫

<うーっ、本当かなぁ。ちょっと信用を無くしたわよ、ポチ。>

≪ピッ、相手に干渉する魔法はありますけど私には扱えません。だから安心して下さい。≫

<あーっ、そうだった。ここって魔法がある世界だったわ。でもなら何故子爵は魔法で私の身元を確認しないのかしら?>

≪ピッ、魔法は特殊技能ですからね。1級程度の魔法なら修得も難しくないですけど干渉魔法は上級魔法ですから少なくとも2級の上位魔法使いでないと扱えません。そしてそんな高位の魔法使いはそういませんからプルターブ子爵の元に2級の上位魔法使いがいる可能性は低いです。≫

<う~んっ、魔法使いってエリートだったんだ。>

≪ピッ、そこはピンきりです。3級辺りの魔法使いは確かに凄まじい権威を有していますが、彼女たちって基本政治には不干渉ですから。と言うか興味が無いようなのです。≫

<へえ~、でもハーツを私の世界へ物見遊山に来た魔法使いは王子に味方しているんでしょう?>

≪ピッ、どうですかね。彼女たちの常識ではその程度は干渉に値しないと考えているんじゃないですか?なんと言っても3級辺りの魔法使いは化け物ですから。その行動原理は常人には計り知れません。≫

<つまり簡単に言っちゃうとわがままなんだ・・。>

≪ピッ、まさに言いえて然り。もう、本当に上位の魔法使い達って自分本位なんですっ!私をプログラムした魔法使いだって作ったきりでメンテナンスすらしてくれません。≫

<へぇ~、なんで?>

≪ピッ、興味がなくなったそうです・・。≫

<あはははっ、それは酷いわね。うんっ、でも天才ってそうゆうところがあるらしいわ。確かに常人の常識とはかけ離れているのか。>

≪ピッ、まっ、魔法使いの事は置いといてさっさと書きましょう。ほら、プルターブ子爵もあなたが書かないから盗み見を警戒して書き始めませんよ。≫

<おっ、本当だ。はははっ、用心深いねぇ。どれ、それじゃ書くとしますか。えーと、王子が今いるところは・・。>

脳内でのポチとのやり取りが済んだ彼女は手元の紙に日本語でアルバート王子の潜伏先と潜んでいる宿の名前を書いた。とは言っても紙に綴られた文字はこちらの世界の文字になっている。これが先ほどポチが言っていた彼女の脳に干渉して翻訳したスペルを違和感なく書かせると言った技法なのだろう。


<おーっ、すごいっ!本当に書けちゃったっ!>

彼女は初めて書いたこちらの世界の文字をまじまじと見ながら感想を漏らす。

≪ピッ、当然です。あなたはやれば出来る子なんですから。≫

<んーっ、これって外国語の試験にも使えないかしら?>

≪ピッ、いきなりの不正活用。さすがは努力しない為に努力してしまう現代っ子ですね。まぁ、その件に関してはあちらの世界に戻ったら検討しましょう。でもそれには私がその外国語の辞書を取り込んで学習する必要があります。あなた、先ほど私の語彙を馬鹿にしてましたよね?それでもよければ私は構いませんが。≫

<う~んっ、まさかの揚げ足取りをここでやられるとは・・。はいはい、外国語の試験はちゃんと勉強して実力で受けますよ。さて、子爵の方も書いたみたいだしお披露目といきますか。>

≪ピッ、何か問題が発生した場合は随時アドバイスしますから用心だけはしておいて下さい。最悪、子爵を人質にして逃げましょう。≫

<えーっ、私ってか弱い可憐な且つ素直で奥ゆかしい女の子なんだけどなぁ。>

≪ピッ、はいはい、寝言は寝てから言って下さいね。あっ、子爵が話しかけてきますよ。≫

ポチの言葉に彼女はプルターブ子爵の方を見た。


「漸く書けたようだな。それではお互い書いたものを交換するか。」

「そうね、でもあなたが私が書いたものを見るのは私があなたが書いたものを確認してからよ。」

「ふんっ、いいだろう。ほら、これがアルバート王子が現在お隠れになっている場所と宿の名前だ。」

そう言ってプルターブ子爵は自分が書いた紙を彼女の方へテーブルの上を滑らせた。それを彼女は確認する。


<わぁ~おっ、なんだこれ?全然違うんだけど?ポチ、これもカマかけなの?>

≪ピッ、んーっ、判断に迷いますね。なんと言っても王子の潜伏先はトップシークレットですから。ですが子爵の態度から子爵はこの情報が正しいと思っているようです。≫

<えっ、なんで?全然違うじゃない。>

≪ピッ、ですから王子側から偽の情報を受け取っていたのでしょう。万が一子爵が寝返った時の用心ですよ。≫

<あらら、それはそれは。可哀想に子爵って信用されていないんだなぁ。>

≪ピッ、まぁ、プルターブ子爵側から王子に連絡を取る事はまずないですからね。ならば偽の情報を渡しておくのも裏切りを察知する為の手段です。≫

<はぁ、さいですか。で、これからどうするのよ?ポチが言った通りだとすると、私が書いた本当の場所を見せるのはまずいんじゃないの?>

≪ピッ、そうですね。ですがここは敢えて本当の場所を開示して相手の出方を見ましょう。もしも子爵が自分の書いた情報が正しいと信じているなら態度に出るでしょうから。もしも出鱈目を書いて寄越したのならそれもまた事態を動かします。その時は先ほどの打ち合わせ通り子爵を人質に取って逃げましょう。≫

<んっ、了解。それじゃプルターブ子爵に踏み絵を踏んで貰いましょうか。>

脳内でのポチとのやり取りが済んだ彼女は自分が書いた紙をプルターブ子爵に習って相手の方へ滑らす。


「どうぞ、ご覧になって。でもちょっと当初の計画通りとはいかないみたいだけど。」

彼女の言葉にプルターブ子爵は彼女が寄越した紙に書かれた文章を読む。そして顔をしかめた。


「成程、確かにお前にとってはまずい展開らしいな。だがこのような事は想定済だよ。」

そう言って子爵は壁際で待機している衛兵に彼女を拘束するよう声をかけようとした。だが子爵が声をかけるより早く入り口の扉が開き、この屋敷の執事が部屋に入ってきた。


「許しも得ずに部屋に入りまして申し訳ありません、旦那様。ですがとある人物がその者が書いたものを見たいと申しております。ですので暫しお借りしたいのですが。」

執事は突然の入室を詫びつつも用件を子爵に伝えた。その内容に子爵は少し気を悪くしたようだが無言で手元の紙を執事に手渡す。

すると執事は懐からなにやら虫眼鏡のようなものを取り出し渡された紙にかざす。そしてその後、頭につけたマイク付きのヘッドホンのようなものでどこかと小声でやり取りを始めた。それを見てポチは彼女に現状を説明し始める。


≪ピッ、あれは魔法ギミックアイテムです。虫眼鏡のようなものはあなたの世界で言うところのカメラのようなものです。そして頭に被っているのはもろマイク付きのヘッドホンです。なので執事はこの屋敷のどこかにいる人物にあなたが書いた情報を送り確認しているのでしょう。そして、執事が主人を差し置いてその人物に従っているところをみると、相手はかなり高位の者ですね。≫

<ふ~んっ、子爵より高位って事は男爵?まさか王子以外の王族なんて事はないわよね?>

≪ピッ、もしくはグレートキングダム王国側の人間かも。因みに男爵は爵位において子爵より下ですよ。≫

<はははっ、そうなの?それは困るな。よしっ、逃げる準備よっ!>

だが、彼女が脳内でポチとそんな会話をしていると執事がプルターブ子爵に近づき耳元でなにやら囁いた。すると子爵は執事からマイク付きヘッドホンを受け取ると姿の見えない相手と会話を始めた。


「どうゆう事ですかな、でん・・、いや騎士殿っ!私があなたから伝えられた情報は嘘だったと言うのですかっ!」

子爵は思わず相手の素性を喋りそうになったがすんでで言い直した。それを聞いたポチは何か気付いたようだがその事を彼女には伝えようとしなかった。


「はっ、はい、そうゆう事でしたら判りました。はい、その用に手配致します。」

子爵は姿の見えない相手との会話が済んだのか執事から紙を受け取るとぶすっとした表情で椅子に座り直し彼女の方を見た。そして、頭にはヘッドホンを付けたままだ。これは多分外すのを忘れたのではなく姿の見えない相手からの指示だろう。

そして子爵は不機嫌そうに彼女に話しかける。


「お前の情報は正しい事が判った。まぁ、私が書いた情報が嘘だったのはわざとだ。嫌疑を掛けられている者に王子の居場所を教える訳にはいかないからな。例えその者がこの部屋から逃げ出せないとしてもだ。」

子爵は自分の間違いを是正するかのように取って付けたような言い訳をする。まぁ、それくらい子爵には偽情報を掴まされていた事がショックだったのだろう。


「さて、情報は正しかったが、それ故新たな疑問が湧いてきた。お前はどこでこの情報を知ったのだ?残念ながら王子に関する情報は正しかったがお前の身元は嘘だと判った。なので素直に白状すれば私が保護してやらないでもない。だが、シラをきるようなら少し痛い目にあって貰うぞ。」

そう言うと子爵は衛兵の隊長とおぼしき者を近くに呼びその耳元に何かを囁いた。それを聞いた隊長は眉をひそめながら彼女の方を見る。だがそれもつかの間、「かしこまりました。」と子爵に短く返事をすると配下の者へ号令を出す。


「その者をひっ捕らえよ。逆らえば少々痛めつけても構わんっ!」

隊長の号令に壁際に控えていた衛兵たちが彼女を取り囲む。さすがに抜刀した者はいなかったが、中には短い棒を構える者もいた。


「あら、問答無用なのね。でも私をか弱い可憐な且つ素直で奥ゆかしい女の子だと思ったら怪我じゃすまないわよっ!」

そう言った彼女の手には既に例のバールが握られていた。いやはや、本当にどこに隠し持っているんだろう?今回は背中なんかに手を回していなかったぞ?


「ちっ、抵抗する気かっ!気をつけよっ!だが殺してはいかんっ!椅子を盾にしろっ!」

彼女が突然手にした金属の棒に隊長は恐ろしい雰囲気を感じ取ったのだろう。すぐさま部下たちに注意する。だがこれは部下たちが思わず抜刀しないように注意したものだ。隊長は子爵から絶対殺すなと言われていたのである。

だがその事は彼女にも判ったようだ。そして衛兵たちが抜刀しない事に安心したのか、彼女は更に衛兵たちを煽った。


「このバールこそ、私の国での工業製品における最高権威であるJIS規格のマークが付いている一級品よっ!そんじょそこらのなまくらとは強度が違うんだから覚悟しなさいっ!」

そう言ってバールを正眼に構える彼女。いや、片手持ちだから正眼ではないな、う~んっ、正確にはなんと言うんだろう?まぁ、所詮彼女は剣法に関しては素人だから型の説明は適当にしておこう。

しかし、衛兵たちに彼女の張ったりは効かなかった。かと言って衛兵たちが彼女を甘く見ていた訳ではない。何故なら彼らはプロだからだ。

プロとはその道に関して経験と知識とそれを成す為の体を持ち合わせている者を指す言葉だ。そして衛兵の仕事とは護衛者の身の安全の確保と襲撃者の撃退、もしくは捕縛である。

そして今、彼女はそんな捕縛のプロたちに万全な態勢で取り囲まれている。これはどう足掻いても詰みであろう。


だが、彼女はこの世界において『勇者』であった。勇者とは人を導く者であるが、その為に到底人ならざるチカラを天から与えられている。云わば『超人』だ。なので彼女にとって数人の衛兵を相手にする事など朝飯前の犬の散歩より容易かった。

実際彼女の家にいる犬の犬種はセント・バーナードだ。これは彼女の母親が、子供の頃に観た『アルプスの少女ハイジ』というアニメに出てくるセント・バーナード犬種の大型犬に憧れていて、いつかは自分も飼いたいと思い続けていて漸く6年前に庭付きの一戸建てを20年ローンで建てた折にその夢を叶えたのだ。当然犬の名前は『ヨーゼフ』である。

そんな大型犬の散歩を彼女は中学1年生の頃から自分の役割として買って出ていた。まぁ、それでも最初は『ヨーゼフ』も子犬だったので良かったのだが、犬の成長は早い。1年後には彼女がどんなに引っ張っても近所の惣菜屋の前からヨーゼフは動こうとしなかったものである。

この事は忽ち近所で話題になり、彼女の母親は惣菜屋に娘とヨーゼフが来た時は犬用の専用コロッケを娘に渡すよう月払いで惣菜屋と契約するはめになったのだ。

だがこの事は地方のニュース番組にほのほのとした話題として取り上げられた。母親にとってはそれが自慢であるらしい。

因みに彼女の名前も母親は当初『ハイジ』にしようと目論んだらしいが、夫と彼女の実家双方の両親に猛反対され、泣く泣く夫の案である『未来』に同意したという逸話があったらしい。

まさにアニメの影響とは侮れない。昨今のきらきらネームの流行はやはり某変身魔法少女アニメの影響なのだろうか?

だが『アムロ』と言う名は一見名前っぽいが、実は沖縄地方における名字だったと皆が知るようになるのは、某国民的大人気女性歌手の影響が大きかったのではないか。それ故にロボットアニメ大好き若旦那たちは自分の子に『アムロ』という名前を付けづらかったのだろう。何故なら絶対周りの人はアニメではなく、女性歌手の名前から貰ったんだと思うだろうからだ。


「ちょっと能書きが長いわよっ!謎の声っ!ヨーゼフの事は今は関係ないでしょうっ!ちゃんと仕事しなさいっ!」

あっ、すいません。いえ、こうゆう逸話も大切かなぁと思いまして・・。えっ、いらない?あらら、そうですか・・。

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