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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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異世界諸事情

インキュパテスからの攻撃を撃退した後、彼女は暫くその場に留まった。何故ならかなりの精神的ダメージを受けたからである。たが、どのような攻撃を受けたのかを情報検索コマンドである『ポチ』が知り得ていない事が彼女にはせめてもの救いだった。いや、ポチはプログラムでしかないので知られたとしてもまだ気にならないのだが、今回の事は絶対ハーツにだけは知られてはならなかった。故に彼女はポチにも厳重に釘を刺す。


「あーっ、ポチ。今回の事は忘れなさい。もし記憶の消去が無理ならば少なくともハーツには絶対教えては駄目よ。もしも口を滑らせた時は判っているわね?」

彼女は、手に持ったバールをブンっと一回振り下ろす。実体を持たない魔法プログラムであるポチに物理的な脅しは効果がないように思えるが、何故かポチは震える声で彼女に答えた。


『ピッ、えっ、あーっ、何かありましたっけ?はて、私はあなたが寝ている間は稼動しないので判らないなぁ。だから仮にハーツ様に問い詰められても何も答えられないなぁ。うんっ、まぁ別に興味もないし。あそこで潰れている魔物もぐちゃぐちゃで元がなんだったかも判らないしぃ~。』

「はい、ポチはお利口ね。」

彼女はニコリと微笑んで手にしていたバールを仕舞った。あーっ、成程、セーラー服の背中に隠していたのか。いや、そんな物を背中に入れていたら動きづらくないか?むーっ、彼女のバールって出現原理が判んないね。もしかして彼女のセーラー服は異次元と繋がっているのか?えーと、なんて言ったっけかな。あっ、アイテムボックスだっ!いや、この場合服なんだからアイテムクロウズって言うのか?まっ、どちらにしても便利なものを持ってるね。


その後、漸く落ち着きを取り戻した彼女は2時間ほど掛けてプルターブ村へと辿り着いた。プルターブ村は村と名乗っているがその規模はかなり大きかった。なので彼女はポチにプルターブ村についての情報をスクリーンに表示させる。その情報内容は次のようなものだった。


自治体名:プルターブ村

行政区分:ガレリア王国南部行政区王家直轄地

首長:プルターブ子爵52歳

領民数:凡そ6万人

軍事動員可能人数:最大凡そ6千人 但し通常の動員命令に対する義務人数は2千人

主な産業:発酵酒の製造と原料となる果物の栽培


「ふ~んっ、ここって王家の直轄領なのかぁ。となるとこのプルターブ子爵も王族の関係者なの?」

彼女はスクリーンに表示された内容を読んで疑問に思った事をポチに聞いた。


『ピッ、プルターブ子爵は亡くなられたシビリアン王のお后の系統です。繋がりとしては王妃の従兄弟のお后の従兄弟ですね。』

「なんじゃそりゃ?それってもう他人だよね?」

『ピッ、直接の血縁ではありませんが、婚姻による王家との繋がりは貴族たちにとって強力なコネです。ですから王家にとっては王位継承権などで争う場合がある近しい親戚筋よりコネを求めて近づいてくる者たちの方が御しやすいとも言えます。実際、プルターブ子爵はグレートキングダム王国の軍門に下ったノルサンデー伯爵の血筋に近い方ですが、そちらからの懐柔を跳ね除け王家に忠誠を誓われています。』

「ふう~ん、そうなんだ。貴族も色々大変なんだねぇ。」

ポチの説明に彼女も納得したような返事をした。だが本筋は理解はしていないようだ。そもそも利害関係が複雑に絡み合う王家の事情などを説明されても親戚付き合いが薄くなった現代人には理解出来まい。逆に言えばこちらの世界では過去の実績よりも『血』の繋がりがとても大切なのだという事をポチの説明は言い表していたのである。

だが、そんな『血』の繋がりも時と場合によってあっさりと覆される。それが権力闘争というものだ。昨日の友は今日の敵。その事をポチは彼女に説明した。


『ピッ、まぁ、昔からの領土持ち貴族は別として王家から新たに貴族に格上げして貰った者などにとっては、王家があってこその権威ですからね。えーと、あなたの世界で例えるなら雇われ店長?みたいなものです。』

「おっ、ポチって私の世界の事に詳しいの?その例えは判り易過ぎてちょっとびっくりしたわ。」

『ピッ、以前魔法使いがそちらの世界へ行った時に色々な情報を集めたのです。その情報を我々情報検索コマンドは共用しています。えーと、あなたの世界で例えるならクラウドデータベース?ですか。』

「う~んっ、はてなマークが付くところがちょっと頼りないけど、そうかぁ、こちらの世界って私の世界の事を結構知っているんだねぇ。」

『ピッ、はい、私はあなたの国の大統領の名前から最新のヒットチャートまで有りとあらゆる情報を保有しています。』

「いや、私の国は大統領制じゃないんだけど・・。なんか色々まざっちゃてるなぁ。因みに最新のヒット曲ってなによ?」

『ピッ、溺れたたい焼きくんです。その前は白猫のタンゴでした。でも私は上を向いて泣こうがお気に入りです。』

「ふるっ・・。魔法使いが私の世界に来たのっていつなのよ・・。」

『ピッ、魔法使いの跳躍時期はトップシークレットなので私には情報提供権がありません。ですが、魔法使いが跳んだ時のあなたの世界での年号は昭和です。』

「昭和・・、平成ですらないんかいっ!と言うか時間軸が合わないんじゃないの?」

『ピッ、データベースに平成という単語は見当たりません。』

「うわっ、こいつ実はポンコツだった・・。」

『ピッ、冗談です。ハーツ様からの報告により魔法使いが跳んだ時期以降の情報も我々は保有しています。但し、魔法使いの跳躍時期を特定されないようにする為ボケました。』

「冗談かよっ!と言うかあなた冗談が言えるんかいっ!」

魔法で動作しているとはいえ単なる情報検索コマンドプログラムでしかないポチが冗談を言った事に彼女は驚いた。だがポチは平然と答えた。


『ピッ、当然です。私のインターフェイスは人の思考経路を模している特別製ですから。なので計算に特化した情報検索コマンドと比べると特定の分野ではかなり効率が悪いのですが、その代わり閃きや心情の共感などの人特有の特徴を実現しています。』

「人の思考経路は効率が悪いんだ・・。」

『ピッ、我々汎用情報検索コマンドの間では、スーパーコンピュータ「京」や「富岳」は憧れの的です。ああっ、私も数百京もの計算を一瞬で解いてみたい・・。』

ポチは彼女の世界にある汎用コンピュータの名前を出してくる。だが「京」や「富岳」も昭和の時代にはなかったはずだが?ああっ、ハーツが魔法使いが跳んだ時期以降の情報をこちらの世界へ送っていたと言ってたっけ。

だが彼女の世界にある汎用コンピュータをポチがまるでアイドルを崇めるかのような反応をした事に彼女はいまいちピンとこないようだ。まぁ、スーパーコンピュータの性能うんぬんに関しては、女子高生である彼女にとってあまり興味のない分野だったのだろう。なんといっても彼女の世代には手元にスマホがあれば十分なのだから。だがそのスマホでさえ昭和期のスーパーコンピュータより性能が高かったりするのだから電子計算機の進歩の速さには脱帽モノである。

なので彼女はポチが憧れると言ったスーパーコンピュータ「京」や「富岳」が何なのか判らなかったが多分パソコンの親玉程度なのだろうと当たりをつけてポチに返事を返した。


「そんなのに憧れるだなんて、人の思考経路を模していると言ってもやっぱりあなたはプログラムなのねぇ。」

『ピッ、そうですか?憧れという感情は人の思考特有だと思いますが?それを表現できる私は結構大したものだと思っているんですけど?』

「うんっ、そうかもね。でも普通の人は計算なんかに憧れないわ。いや、中にはいるかもしれないけどさ。でも私は興味ない。」

『ピッ、まぁそうですね。興味の対象は人それぞれでしょうから。ではこの話はこれで終わりとしましょう。』

「そうね、お喋りはこれくらいにして次の行動に移りましょう。」

ポチは彼女がこの話題には興味を示さなかったので敢えて無難な返事でお茶を濁した。だが、仮にこれがマニア相手だったらそれこそ寝食を忘れて語り合ったであろう。いや、ポチは食べたり寝たりはしないからこの例えはちょっと変か?


『ピッ、了解しました。ではさっそく王子が潜伏しているはずの町へ向いましょう。』

「いえ、まずは腹ごしらえよ。あなたと違って私はお腹が空くの。だからどこか美味しい料理を出してくれるお店に連れてって。」

『ピッ、行動ってそっちの事なんですか?』

「当然よ、腹が減っては戦は出来ないのよっ!まぁ、実際にする気はないけど心意気としてはそうなの。さっ、お腹の虫がさっきからぐうぐう言っているんだからとっとと案内して頂戴。」

『ピッ、それは構いませんがあなたはこちらの世界で流通しているギール貨幣を保有していないと思いますが?もしかして食い逃げする気ですか?』

「誰がするかぁーっ!いや、待て。確かに私お金を持ってないや。あれ?もしかして私って今一文無しなの?えっ、だとしたらご飯も食べれないの?」

『ピッ、物乞いをすれば多少は恵んで貰えるかも知れません。』

彼女の問い掛けにポチは何とも惨めな提案をする。いや、こちらの世界では物乞いはそれ程惨めな事ではないのか?そもそも社会福祉がとれくらい充実しているかも判らないのだから片方の世界の常識でもう一方を見ると判断を間違えるのかも知れない。


「ぐっ、物乞いって・・。でも一文無しなんだからそうするしかないのか・・。くっ、プライドが邪魔しそう。いや、待ってっ!私ってこの世界を救う為にわざわざ呼ばれてきたのよね?ならご飯くらいタダで食べさせて貰ってもいいんじゃないの?」

彼女は自分の立場を思い出し、その対価を求める主張をする。だがポチはそれをあっさり否定した。


『ピッ、本来勇者はその行動に対価を求めたりしません。』

「くっ、今すごく魔王にジョブチェンジしたくなったわ・・。」

『ピッ、それは困ります。ではこうしましょう。この村を治めているプルターブ子爵の下を尋ね、事情を説明してお金を借りるのです。王子の名前を出せばプルターブ子爵もあなたを無下には出来ないでしょう。』

「あっ、そうか。その手があったか。うんっ、そうよね、基本転移者って権力者に召喚されるんだから庇護されるんだった。いや~、私の場合通常のテンプレ展開じゃなかったから忘れていたわ。よしっ、そうと決まればさっさと行きま・・、あれ?お金を借りる?えっ、借りるの?貰うんじゃなくて借金?」

彼女は漸くポチの提案がラノベ世界と違い現実世界でのことわりに基づいている事に気付いた。それをポチがあっさりと諭す。


『ピッ、お金とは本来労働の報酬として支払われるものですから当然かと。』

「うーっ、そうなんだろうけどさぁ。むーっ、前払いって事じゃ駄目かな?私、これからかなりハードな事をしなくちゃならないみたいだし・・。」

『ピッ、それは交渉次第と言う事で。』

「はぁ~、お金を得るのってどこの世界でも大変なのねぇ。」

『ピッ、働かざる者喰うべからず。これはあなたの世界のデフォルトスタンダードなのでは?』

「あなた、変な事ばかり知っているのね。」

『ピッ、ベーシックインカムは報酬の先払いでしかありません。ちゃんと後で集金されるんですよ?』

「ベーシックインカム?なにそれ。」

『ピッ、まさかの問い掛け。あなたニュースとか観ないんですか?』

「失礼なっ!ちゃんと天気予報は見るわよっ!」

『ピッ、天気予報はニュースじゃ・・、いやニュースの時間に絡めて伝えられている事が多いか・・。まっ、いいです。取り敢えずプルターブ子爵の下へ行きましょう。借金の返済は王子が肩代わりする事にすればあなたに返済義務はなくなりますから構わないでしょう?』

「あっ、そっか。うんっ、そうよねっ!私は王子に呼ばれたんだからそれくらい当然よねっ!よ~しっ、それじぁ早速行きましょうっ!」

『ピッ、成程。現金と言う言葉はここからきているんだな・・。』

「なんか言った?」

『ピッ、いえ、何も。えーと、プルターブ子爵の館はこの通りを真っ直ぐ行った先です。不動産の距離表示だと徒歩10分です。』

「だとすると実質15分か。むーっ、結構歩くなぁ。」

『ピッ、馬車に乗ると1キロ500ギールです。でもあなた持ってませんよね?』

「はいはい、無一文ですいませんねっ!いーだっ、歩くからいいわよっ!」

ポチの言葉に彼女は少し腹を立てて歩きだした。だが普通徒歩15分くらいの距離は歩くのではないか?そもそもこの村に来るまでの道なき草原と違いここは道路も石畳で整備されているのだ。あまり楽ばかりしていると体重が増える一方だと思うのだが?


「シャラーップっ!またでたなっ、謎の声っ!文句があるならあなたも歩きなさいっ!」

あっ、すいません・・。私は遠慮しておきます。虚弱なんで。だけどあなたはがんばって歩いて下さい。プルターブ子爵の館では私の権限でおいしいご馳走を準備させますから・・。まっ、お腹が空いていると大抵のモノは美味しく感じられるでしょうけどね。

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