表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
15/50

異世界は危険がいっぱい

爆発するスライムに遭遇後、慎重になった彼女は情報検索コマンド『ポチ』に魔物を最優先にサーチさせる。そしたらでるわ、でるわ。うじゃうじゃという感じでスクリーン上に魔物が表示されたのである。もう、彼女の周りは魔物だらけと言って良いほどだ。


「ちょっとポチっ!あなた壊れているんじゃないのっ!なんなのよ、この魔物の数はっ!」

『ピッ、自己プログラムの不具合の調査を開始します。ピッ、調査を終了しました。破損、または改編された箇所はありません。私は至ってまともです。以上。』

彼女の指示?により情報検索コマンドである『ポチ』は自分の魔法プログラムを調査し不具合がない事を報告してきた。だが、彼女が聞きたかったのはそっちではなく魔物の数の方である。なのでポチは彼女に叱られる。


「違うっ!そっちじゃなくて私は魔物の数の方を言ってるのっ!」

『ピッ、魔物の数に関してはBレベル調査精度にて探査したものです。もっと正確な数を知りたいのなら検索精度を上げてください。それにより微粒子レベルまでの魔物も検索できるようになります。以上。』

「微粒子レベル・・。えーと、それって危険なの?」

『ピッ、微粒子レベルの魔物は人間に対して危険と判断される事はほぼありません。以上。』

ポチの返事に漸く彼女は理解した。つまり先ほどの魔物の数はポチの言うところのBレベル精度という範囲内で魔物と判断されているモノの数であり、その中にはかなりの割合で人には無害なものも含まれていたのだ。これを彼女の世界で例えるなら猛獣だけではなく昆虫までカウントしたようなものであろう。

なので彼女は調査精度をこちらの世界における人に害をなす魔物に絞らせ再度調査させた。


『ピッ、半径500メートル以内にFランク以上の魔物の存在を確認出来ませんでした。以上。』

「500メートル?あーっ、範囲をもっと広げて頂戴。あっ、全域が無理ならあっちの方向だけでもいいわ。後、調べる魔物のレベルは、えーと、Dランク以上にして。」

ポチの報告に彼女はこれから向うプルターブ村がある方向を指差し再調査を命じた。


『ピッ、検索範囲を前方20度の範囲に限定して調査します。ピッ、前方20度の範囲で距離5キロの範囲にDランク以上の魔物の存在を確認出来ませんでした。以上。』

ポチの報告に漸く彼女は安堵した。目的地であるプルターブ村までの残り距離は凡そ5キロ。という事は残りの行程はほぼ安全という事だ。なので安堵した彼女は今度はポチに文句を言う。


「ねぇ、ポチ。あなたもうちょっと融通が利かないの?いちいち細かい事まで指示しなきゃならないなんて面倒すぎだわ。」

『ピッ、了解しました。以後、あなたの理解レベルを赤ん坊と同等と設定します。わかりまちたかぁ?』

ポチは彼女の命令により対応レベルを一番低くする。当然話し言葉は赤ちゃん言葉だ。だが、それは彼女のプライドを些か傷付けたようだ。


「くっ、嫌味にしか聞こえない・・。えーと、もう少しレベルを上げてもいいわよ。」

『ピッ、了解しました。以後、あなたの理解レベルを10歳前後と同等と設定します。判ったか?』

ポチは再度対応レベルを変更した。だがポチにとって10歳前後という設定はどうやら大人が子供に接する時のレベルらしい。なので急に上からの物言いになった。そんなポチに彼女は降参する。


「くっ、本当に面倒ね・・。なんなのよ、この情報検索コマンドはっ!きっと、作ったやつの根性は相当捻くれているんだわっ!」


『ピッ、私をプログラミングしたのは彼の3級魔法使いリッカ・バードプレイ様だ。なので当然捻くれている。判ったか?』

「・・。」

ポチの説明に彼女は無言になる。自身がプログラミングした魔法に捻くれていると言われてしまう魔法使いとはいかほどのやつなのだろう。なので彼女は諦めてポチの対応設定を初期に戻した。


『ピッ、私の対応設定を初期値に設定しました。但し、これによりハーツ様が当初仕込まれていた対応設定が発動しました。以後はこの設定で対応いたします。』

「へっ、ハーツ?なにそれ?」

『ピッ、あなたが私の対応設定を変更し且つ初期値に戻した時は、ハーツ様が予め設定しておいた対応設定に切り替えるよう言われていたのです。現在私はその設定に則り対応しております。』

ポチの説明に彼女はげんなりした。つまりハーツは彼女がポチを弄ってカスタマイズしようとする事を予め予想していたのだ。そして諦めるだろうと推測し彼女でも馴染めるような設定をポチに施していたのだ。つまり彼女はハーツに遊ばれたのである。

なので現在の彼女の心中はどす黒い炎が渦巻いている。だが、その矛先を向ける相手はここにいない。もしかしたらハーツはそこまで見越してこの遊びを仕込んだのかも知れなかった。ハーツも彼女と過ごした3年あまりの期間で彼女の事を十分理解したのだろう。何事も身の安全が第一なのである。


「そう言えばハーツはどうなったのかしら?あなた何か知らない?」

怒りの矛先を向ける相手がいない為彼女は別の事へと振り替えた。とは言っても内容は不満をぶつける相手の居場所探しだ。


『ピッ、ハーツ様は元のお体にお戻りのはずです。』

「へっ?ハーツってちゃんとこっちに戻ってきているの?ならなんで私の側にいないのよ?」

今まで彼女はハーツが転移に失敗してこちらに戻って来れなかったと踏んでいた。なのでポチからこっちの世界に戻ってきていると聞いて少々ご立腹のようである。そんな彼女にポチが説明する。


『ピッ、ハーツ様は魂が体からお離れになっていた時間が長かったので魂とお体の再融合に時間が掛かります。なのでハーツ様の意識がお戻りになるには今少し時間が掛かるはずです。いえ、下手すると戻れない可能性も高いです。』

「えっ、そ、そうなの?意識の転移ってそんなに危険だったの?でも私もハーツの結構転移していたけどなんともなかったわよ?」

彼女はポチにハーツが彼女の元に来る為に結構危ない橋を渡っていたと聞かされて動揺した。なのでそれを否定すべく別の大丈夫だった例を出した。


『ピッ、魂と体の再融合の成功率は離れていた時間に比例します。現在のところ1ケ月程度なら再融合の成功率は100%です。しかし、3年近く離れていた事例で再融合が成功した案件は私のデータベースには記録されていません。』

「そんな・・、だってハーツはそんな事一言も・・。」

今彼女の中ではハーツと過ごした3年間の日々が走馬灯のように流れていた。確かにハーツは口が悪く、何かにつけ彼女をからかったが自分の事は滅多に話そうとしなかった。ましてや元の世界に戻った時に自分がどのような状況に置かれるかなど話題にもしていない。いや、それどころか常に側にいるから大丈夫だと彼女は励まされていたくらいだ。

だがそれは嘘であった。但しその嘘に悪意は無い。彼女が不安にならないように敢えてついた嘘である。相手を慮ってつく嘘はもはや嘘とは言えないだろう。そう、言葉とは常に二面性を持っているのだ。それをどう使うかはその人次第である。


そんなハーツの思いやりにショックを受けている彼女にポチが話しかけてくる。

『ピッ、まぁ、この数字はあくまで今まではの話です。でも大丈夫ですよ、なんと言ってもハーツ様は勇者であるあなたの加護を受けているのですから。勇者とは全ての人の幸せを願うものです。その中には当然ハーツ様も含まれます。』

「うっ、ポチ・・、それって全然慰めになっていない・・。すんごく重たいんだけど・・。」

『ピッ、当然です。勇者とは茨の道を歩むものです。神さまからぽいっとチートを貰ってお気楽無双をするなんてのは物語の中だけですよ。』

「ますます持って重い・・。」

『ピッ、でも安心して下さい。ちゃんとご褒美も用意されています。あなたの場合はアルバート王子ですね。』

「あっ、そうだった。そう言えば私アルバート王子に会いに来たんだったわ。もうっ、ハーツが似合わない事したりするから忘れてたじゃないっ!」

ポチからアルバート王子の名を聞いた途端、彼女は元気を取り戻す。うんっ、ここら辺は恋する女の子の優先順位なのだろう。所詮彼女の中ではハーツは『お友だち』レベルの存在なのだ。まぁ、確かにあちらの世界では人体模型だったからね。訓練で跳んだ異世界でも羊だったし・・。


『ピッ、はい、ですからハーツ様も現在はアルバート王子の下にいらっしゃるはずです。ハーツ様のお体はアルバート王子が保管されているはずですので。』

「はず?なんか随分推測で話をするのね。なんで?」

『これはあなた方がこちらへ転移される前の予測情報です。現在私はハーツ様やアルバート王子への直接のアクセスが禁止されておりますので今現在の最新情報は持ち合わせていません。』

「アクセスを制限されている?なんで?それって勇者である私の権限でも駄目なの?」

『ピッ、グレートキングダム王国の魔法使い「モリガン・ケルティア」への対策の為です。彼の者は魔法によってこの国全体にアルバート王子関係の情報を見張っております。なので不用意にアクセスすれば忽ちその情報は彼の者に知れるでしょう。』

「げっ、なにそれ?聞いてないんだけど。」

『ピッ、これはハーツ様が異世界へ旅立たれた後にアルバート王子にお味方する魔法使い「フレイヤ・ヴァンアース」が掛けた制限です。なのでハーツ様はご存知ありません。』

「ふ~ん、そっか。まぁ、知らないんじゃしょうがないか。ところであなた何でハーツを様付けで呼ぶの?」

『ピッ、ハーツ様はガレリア王家に古くより仕える羊飼いの家系のお方です。故に敬称をもってお呼びするのが正式な対応です。』

「あーっ、そう言えばそんな事も言ってたな。えっ、もしかしてハーツって結構偉いの?」

『ピッ、ハーツ様はガレリア王国の羊飼い筆頭ガブリエル家の八男です。家系としては尊ばれておりますが、ハーツ様のお立場は微妙です。なんと言っても八男ですから。』

「あーっ、それも言ってたわ。はははっ、家柄はいいけどその中では味噌っかすなのね。う~んっ、ハーツも結構大変なのねぇ。」

『ピッ、ハーツ様は確かに八男ですが現在ガブリエル家は長男の方から五男の方までがお亡くなりです。故にハーツ様はガブリエル家の継承権では現在第3位です。なので以前のようなお気楽なお立場ではありません。そうゆう意味ではご苦労をなさっておいでです。』


「あら、そうなんだ・・。もしかしてそれって戦争が原因?」

『ピッ、はい。ガブリエル家は長男のブレイン様以下五男の方まで全て戦死されました。ハーツ様のお父上様も同様です。』

「あっ・・、そうなんだ・・。」

ポチの説明に彼女は口ごもる。ポチの説明では彼女がハーツと始めて会った時、ハーツは既に親兄弟を亡くしていた事になる。確かにハーツは自身のプライバシーをあまり話さなかったがそれでも彼女の前ではそんな素振りすら見せなかった。それは多分ハーツなりの意地だったのだろう。アルバート王子の命を受け、神から告知された国の運命を左右する大切な勇者を連れ帰り隣国グレートキングダム王国との戦争を勝利に導く。それがハーツなりの親兄弟の仇打ちのやり方だったのかも知れない。


人の人生は様々だ。中には銀のスプーンを咥えて生まれ育つ者もいれば、産まれた途端に便所に捨てられる者もいる。だがそれでも一旦この世に生を受けた者は皆精一杯生きようとするものだ。

しかし皆が望むであろう安穏とした生き方は定員制限が厳しい。故に競争が生まれる。そしてその競争から脱落した者はこの世に産まれた事を嘆くであろう。

だが、それもまた人生である。人の長い歴史において人ひとりの人生などほんの一瞬だ。ひとりの人間にとっては大切な人生も全体としてみれば取るに足らないものである。

仮に脱落した者がいずれ大発明をする事に運命のレールが敷かれていたとして、その前にその者が諦め自ら命を絶ったとしても歴史は変わらない。そう、歴史は常に第二、第三の成功者 (交換部品)を用意しているのだ。長い歴史においては数年、数十年の予定遅延など誤差の範囲でしかないのである。


しかし、そんな強力なチカラを有している時の流れでも勇者クラスの予備は中々用意できない。それだけこちらの世界では勇者とは特殊な存在だったのだ。


「歴史を変えるチカラを持つ者か・・。はぁ、なんかすごく重いものを背負わされた気がするわぁ。」

『ピッ、気負う必要はありません。所詮勇者は導く者です。その導きに従うかどうかは人それぞれの判断です。勇者に従わずに野垂れ死だとしてもそれはその者が選んだ道です。勇者が気に留める必要はありません。』

「ますますもって重い・・。あーっ、なんか嫌になっちゃうなぁ。もう、このまま帰っちゃおうかしら?」

彼女はこちらの世界における自分の立ち位置を確認させられ気持ちが沈んだ。なのでそんな彼女の動揺に誘われるかのように、何者かが彼女に近づいて来ている事に彼女はまだ気付いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ