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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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最初の試練

と言う事で、まず彼女は現在地から一番近いガレリア王国の勢力下にある村であるプルターブへと向う事にした。プルターブまでは北へおよそ10キロ。多分遙か彼方に薄っすらと見える森の向こうにプルターブの村はあるはずだ。しかし、彼女はどうやって北を認識したのだろう?方位磁針でも持ってきてたのか?でも方位磁針って地場の向きを表すだけなので、こちらの世界の地場が南北に伸びているとは限らないと思うのだが?


「シャラーップっ!また出たわね、謎の声っ!全く何なのよ。ハーツに出会ってから変な事ばかりだわっ!もしかして誰かが私を覗き見しているのかしら?それともこれが異世界の常識なの?」

えーと、これって私が言われているんでしょうか?凄いな、護国寺 未来。天の声が聞こえるとはあんたはやっぱり勇者だよ。


さて、何故彼女が間違わずに北を目指せたかと言えば、タネを明かせば情報検索コマンド『ポチ』のお陰である。そもそもスクリーンに地図を表示できるのだから方位も丸判りなのだ。

そして今、太陽は丁度彼女の頭上にある。つまり正午だ。理科の授業で習った言い方をするならば『南中』である。これは「なんちゅう」と読むのだが、決して「みなみちゅうがく」の略ではない。えっ、そのボケはいらない?あっ、そうですか・・。


「うーっ、駄目だ。何か頭の中で誰かが薄っぺらいうんちくを喋っている気がする。なんだろう、これ。耳鳴りかなぁ。」

・・。


・・。


・・。えーと、私が説明しないと話が進まないんで喋ってもいいですか?いや、駄目だと言われても喋りますけどね。


さて、北にあるプルターブ目指して歩き始めた彼女だが、1時間ほど歩いたところで根を上げた。現代人である彼女にとって如何に平坦とは言え、道でないところを歩くのはさすがに堪えたのだろう。

「くっ、ぽちっ!タ、タクシーを呼んで頂戴・・。」

『ピッ、コマンドが間違っています。入力し直して下さい。以上。』

彼女の訴えを情報検索コマンド『ポチ』は一刀の元に拒否する。だが彼女も負けていなかった。


「あーっ、なら何か楽に移動できる手段を教えて。」

『ピッ、移動手段としては馬車がありますが道の無いこの場所へは呼び出せません。以上。』

「えっ、道があれば呼べるの?」

『ピッ、可能です。王都パリーヌでの乗車運賃は1キロ500ギールです。但し、この付近の相場は情報がありません。以上。』

「1キロ500ギール・・。ギールって円に換算すると幾らなの?」

『ピッ、円という単語が不明です。以上。』

「うーっ、ポチって便利だけど独り言にまで答えられるとウザイわね・・。」

そう、言葉によるインターフェイスは指示を明確にしないとこのような事態がまま起きる。これが人とのコミュニケーションだと相手が勝手に判断してくれるのだが、所詮は情報検索コマンドでしかない『ポチ』にそこまで期待するのは無理であろう。


だが、次の瞬間彼女が問い掛けてもいないのにポチが警告を発した。

『ピッ、魔物の接近を感知しました。種別:不明アンノウン。レベル:Cランク以上と推定。方位:北東。距離:300メートル。数:推定1匹。以上。』

「えっ、魔物?えっ、どこ?北東ってどっちよっ!」

『ピッ、方位の表現方法を変更します。現在あなたが向いている方角の真後ろが北東です。以上。』

ポチの報告に彼女は後ろを振り向いた。そして遠くに魔物を視認する。それは彼女の知識では『スライム』と呼ぶべき魔物だった。いや、ポチは種別が不明と言っていたので違うのかも知れないが、彼女は魔物の姿かたちから魔物をスライムと認識したのだ。


「なんだ、スライムじゃん。もうっ、びっくりさせないでよ。」

当初、魔物と聞いて身を強張らせた彼女だが相手がスライムだと判って安堵した。


彼女の知識、これは主にゲームによるものなのだが、スライムとは半透明のアメーバのようなゲル状生物で、魔法生物且つ無生物とされる。たが無生物と分類されているのに何故か目と口が付いていることが多い。能力としてはあらゆるものを取り込んで食べ、消化してしまう。

ゲーム内の設定では打撃を加えても直ぐに復元してしまう為物理攻撃が効きにくいとされており、故に剣などでの攻撃では低ランク魔物という評価の割りに討伐しにくい魔物とされていた。しかし火には弱いとされており、簡単な着火魔法や焚き火の火でも弱体化し溶けてしまうといわれている。


だが、ここは彼女にとって異世界ではあるがゲーム内ではない。故に見た目が彼女の知っているスライムという低ランク魔物に似ているからと言って、向ってくる魔物が本当にスライムとは限らない。その証拠にポチも魔物の種別を不明アンノウンとし、レベルもCランク以上と推定していたはずだ。

そして彼女も直ぐに自分の認識が間違いだった事に気付く。そう、なんとそのスライムに似た魔物は巨大だったのだっ!まぁ、巨大とは言っても象や恐竜のような巨大さはない。だが身長160センチの彼女からしてみれば高さと胴回りが2メートルはありそうなスライムは十分巨大と言えるだろう。


「ちょっ、なんなのそのサイズはっ!普通スライムって言ったら大きくても50センチくらいなんじゃないの?何を食べたらそんなに大きくなるのよっ!」

魔物が50メートル程まで近づいて来た事により、漸くその大きさを実感した彼女は誰に向ってかは知らないが文句を言う。だが当の魔物はそんな彼女の文句を気にする様子もなくどすん、どすんとジャンプしながら彼女に対して真っ直ぐに進んできた。


ゲーム内のスライムは結構身軽にぽよんぽよんと可愛らしく飛び跳ねているイメージだが、2メートル程のスライムがそれをやるととても可愛いなどとは言ってられない。そもそも、体液と思われる液体の比重が水と同等と仮定すれば、今彼女に向って来ている魔物の重量は5トン近いはずだ。そんな重量のあるものが飛び跳ねたりしたら地響きを伴って地面に大きな溝を穿つだろう。当然圧し掛かられたりしたら一発でぺしゃんこだ。


「きゃーっ、火っ、火はないの?きゃーっ、火炎魔法ってどうやるのぉーっ!」

彼女はゲーム内での対スライム対処法に則り火による攻撃をするべく持って来たカバンの中を探る。そしてそこに発炎筒を見つけた。

発炎筒とは交通事故を起こしてしまった時に、他のドライバーへ危険を知らせる為に煙を発生させる道具だ。そしてその煙を発生させる為に筒の先からは結構な勢いで火が噴出する。なので彼女はその火がスライムに有効なはずだと判断し、発炎筒を着火させるとスライムへと投げつけた。

スライムとの距離は既に10メートル。この距離なら彼女でもまず的を外す事は無い。そもそも相手は2メートル級の大物なのだ。なので彼女の手を離れた発炎筒はモノの見事にスライムへと命中した。

だが、ここで彼女も予想していなかった事が起こる。なんと火に弱いとされていたスライムが発炎筒を餌とでも勘違いしたのか体内に取り込んでしまったのである。


「へっ?なんで?ちょっとあなたっ!ヤラレキャラの癖してルール設定を無視した行動をするんじゃないっ!雑魚キャラは雑魚キャラらしく大人しく魔石をドロップして消えなさいっ!」

はい、あくまで彼女は目の前にいる魔物がゲーム内のスライムと同じだと思っているようだ。だが先にも言ったが、この魔物が彼女の知識内にあるゲーム内の低レベル魔物と同等である確証はどこにもない。

そう、ここは異世界ではあるが既存のゲーム内の世界ではないのだ。誤った認識はその身を危険に晒すのである。そしてその代償は多分『死』だ。


しかし、ここでまたしても予想外の事が起きた。発炎筒とはその性質上自前で燃焼に必要な酸素を発火火薬の中に持っている。故に水の中に投げ入れても燃焼火薬が燃え尽きるまで火が消える事は無いのだ。なので魔物の体内に取り込まれた発炎筒は今でも魔物の中で燃え続けていた。

その熱は当然魔物の体温?を上昇させる。そしてあろう事か魔物の体液は可燃性の液体だったのだっ!但し、その着火点温度は割と高かった。なので少しくらいの火では着火しない。だが、密閉された魔物の体内で燃焼を続ける発炎筒はじりじりと周囲の体温?を上げてゆく。そしてとうとう、着火温度に達した。


どか~んっ!


轟音と共に魔物は発火した体液を周囲に撒き散らしながら爆発した。その光景はさながら軍事用のナパーム爆弾が爆発したかのようである。当然その火炎は近くにいた彼女をも包み込んだ。

哀れ、彼女は折角王子の待つ異世界へと来たというのに、来た早々爆炎に焼かれてしまった。これがゲームなら文句なしにゲームオーバーである。だが、ゲームは再度やり直せるが現実にやり直しは無い。なのでこの物語もこれにて終了だ。余った時間は勉強でもして下さい。あっ、ゲームでもいいですよ?


だが、数分後。火力の燃料となった魔物の体液も漸く燃え尽きたのだろう。燃えるものが無くなった火はたちまち火勢を衰えさせ鎮火した。但し、火は消えたが炎によって炙られた大地は未だ燻っている。そんな大地の至る所からは煙が行く筋も立ち上っていた。その煙はまるで若くして死んでしまった彼女の魂を天に送り出すかのように細く高く昇っていった。


しかし、そんな煙が風に流され視界が開けた時、爆心地の側には何故か尻餅を付いた状態で体中煤だらけになりながら驚いた表情で呆けている彼女がいた。いや、なんで?あの火力で焼かれたなら普通骨すら残らないはずだよ?それが煤だらけとは言えなんで彼女は火傷すらしてないの?


「ぷはーっ、びっくりしたぁーっ!う~んっ、防御レベルをマックスにしておいてよかったわ。危うく丸焦げになるとこだった・・。うんっ、さすがは勇者特性ね。便利だなぁ。」

彼女はあれ程の炎に巻かれながらも自分が生き残った理由を勇者特性と踏んだようだ。

あーっ、そうですか。そうきましたか。はいはい、防御魔法を施していたんですね。けっ、これだから魔法はチートなんだよ。シリアス展開を簡単に覆すからな。


「だけど爆発するスライムってなんなのよ?もしかしてこっちの世界ではスライムが危険物の運搬に使われているのかしら?だとしたらちゃんと火気厳禁のプレートを掲げておいて欲しいわ。」

何とも自分勝手な事を言いつつ、彼女は立ち上がりスカートに付いた煤を叩き落とす。そんな彼女の周囲は半径2メートル程を除いて草が丸焼けである。成程、彼女に施されていた防御魔法は彼女本体でなく、彼女の周囲ごと危険から遮断する範囲魔法だったらしい。ただ、魔法の解除がちょっと早すぎた為、周囲を漂う煤が彼女に降って来たのだろう。


そもそも彼女はこの世界では並び立つもののない勇者としてやって来た。だからこの程度で死ぬはずが無いのである。そう、勇者とはまさにチートの塊なのだっ!いや、魔王も結構チートかな?まっ、どっちでもいいや。勝手にやって下さい。

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