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雑文恋愛「卒業式では泣けない。だって・・」  作者: ぽっち先生/監修俺
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心の鍛錬は仮想空間で

夏休み中の高校は普段に比べて生徒の数は少ない。しかし、グラウンドや体育館からは声援にも似た大きな声が聞こえてくる。いや校舎の中からも多分これは吹奏楽部なのだろう。今流行のパプなんとかという曲が音楽室辺りから流れてきていた。それ以外にも図書館や自習室では自主学習をしに来た学生たちが黙々と勉強に励んでいるはずだ。

そんな中、彼女もまた備品保管庫へとやって来ていた。だがその足取りはおもい。まるでこれから感染予防の注射を打たれる順番待ちをしている小学生のようだ。そんな彼女に人体模型に憑依しているハーツが訓練の開始を告げる。


「それでは今日はVR空間で精神の鍛錬を行ないたいと思う。どうやらあんたはまだまだ精神的に弱さを持っているようだからな。昨日も言ったが魔法ってやつは術者の思いが発動に大きく関係してくる。つまり自分は出来る、やって見せるという強い思いが魔法を具現化させると言ってもいいらしい。まっ、ここいらは魔法使いからの受け売りだから詳しくは説明できない。」

ハーツの言葉に今日の彼女は椅子に座ったまま反応しない。どうやら魔法少女コスプレのダメージから未だ回復していないようだ。という事は昨夜はちゃんと家で練習したのだろう。だが途中で我に返ってしまったと推測する。もしかしたらステッキと共に昔買って貰った魔女っ子変身グッズとかも見つけたのかも知れない。それで思わず身に付けて姿見で自分の姿を見てしまったのだ。うんっ、確かにこれは女子高生にはメガトン級のイタさだろう。彼女が立ち直れていないのも頷ける。

だがまたしてもハーツは彼女の心情を逆撫でするような事を言ってしまう。


「なんだ、具合でも悪いのか?それとも寝不足か?あーっ、どうせネットでエロいサイトを一晩中見てたんだろう?駄目だぜ、いくら夏休みだからと言って羽根を伸ばしすぎるのは。大体、若いからって夜更かしはダメージが蓄積するんだぞ。若い時の無茶は歳取ってからボディブローのように効いてくるってじっちゃんが言っていたからな。」


バンっ!

ハーツの言葉にまたしても彼女のバールが机を叩いた。いや、だから机は学校の備品なんだからもっと丁寧に扱ってくれよ。

だがこれにはハーツも驚いたようだ。


「うおっ、おいおい、あんたそのバールどこから出したんだ?この部屋に入ってきた時は持っていなかったよな?」

「うるさいっ!魔法よ、魔法っ!」

「えっ、そうなのか?ほうっ、さすがは勇者に選ばれるだけの事はあったんだな。そうか、あんた魔法が使えたのか。まっ、あっちとこっちでは魔法の種類が違うんだろうけど、才能は同じだろうからな。よしっ、となれば後は精神面の強化だけだ。うんっ、これは未来が明るくなってきたぜっ!」

彼女のボケを何故か信じてしまったハーツは嬉しそうにひとり喜んでいる。だが未来は明るいと言われて彼女はますます落ち込んだようだ。

しかし、その理由はハーツ以外の人には判るはずである。その理由とは彼女の名前だ。そう、殆どの人はもう忘れただろうが彼女の名前は『護国寺ごこくじ 未来みらい』というのだ。つまりはからずしもハーツは彼女の未来は明るいと言ってしまったのである。そう、魔法少女のポーズで呪文を唱えなければならない彼女の未来は確かに明るい。だがその明るさは多分ヤケクソな明るさだ。

護国寺 未来、まさか16歳にして魔法少女を演じる事になるとは彼女も思っていなかったであろう。だが歴代の魔法少女たちは全員その洗礼を受けてきたのだ。がんばれ、護国寺 未来っ!恥ずかしいのは一時だっ!仕事と割り切ればコスプレの日当は結構いいらしいぞっ?でも、本当にどこからバールを出したんだろう?


「よしっ、では早速VR空間へ移行しよう。今日の課題は忍耐力だ。」

「へっ、ちょ、はや・・。」

彼女の抗議の声が終わるのを待たずにハーツは彼女をVR空間へ跳ばした。正確には彼女の魂だけだが彼女はその事を認識できない。なので今までいた備品保管庫の景色が一瞬で広々とした草原に変わってしまった事にただただ狼狽している。因みに彼女の体は備品保管庫のテーブルに突っ伏して昨夜のダメージ回復に努めてます。


「さっ、ここが今日の鍛錬の場だ。まぁあんたが理解しやすいようVR空間とは言っているが、実はここって数ある異世界の中のひとつだったりする。」

「異世界?なんで?異世界転移ってすごく高度な魔法なんでしょ?だから時と場所の同調が必要だってあなたも言ってたじゃない。」

「うん、そうだ。だから今回はあんたの魂だけを転移させた。今あんたが自分の体だと思っているのはこの異世界の現地人の娘の体だよ。」

ハーツにそう言われて彼女は慌てて自分の体を確かめる。


「うわっ、なにこの服。ちょっとハーツっ!鏡貸してっ!」

彼女は自分の着ている服が高校指定のセーラー服から、如何にもRPGゲームなどで女の子が着ている様な裾丈の短いものに変わっているのに気付き驚いたようだ。


「んなもんねぇよ。どうしても見たいなら魔法で何とかしな。」

「何とかしなって・・、どうやるのよ?」

「言っただろう?魔法の具現化は術者の強い思いが影響するって。だから念じるんだよ。もしもあんたに才能があれば魔法は発動する。と言うかあんた、あっちの世界で魔法使えたじゃん。なら楽勝だろ?」

「くっ、まさかの意趣返し・・。この屈辱忘れないからね、ハーツ。帰ったらその体ぎたんぎたんにしてやるからっ!」

いや、何度も言うけど人体模型も学校の備品・・。


「シャラーップっ!何これっ!誰かの声が頭に飛び込んで来たわよっ!今私は凄く機嫌が悪いのっ!それでもやるって言うなら、そのつもりでかかって来なさいっ!」

えーと、これって私が言われているんでしょうか?凄いな、護国寺 未来。天の声が聞こえるとはあんたはやっぱり勇者だよ。


さて、メタ発言ばかりしていては話が進まないので護国寺 未来の恫喝は無視する事とする。と言うかひとり蚊帳の外に置かれているハーツが彼女の側でオロオロしている。

「おいっ、大丈夫か?もしかして体との相性が悪かったのか?一応あんたの要求通り可憐で可愛い素直で奥ゆかしい娘を探して憑依させたんだが・・。」

「くっ、嫌味じゃないと判るから余計に腹ただしい・・。」

どうやら彼女は心配するハーツの気遣いが逆に気に触ったようだ。だがそんな彼女も漸くある事に気付いた。


「えっ、なに?あなたハーツなの?えっ、あなた羊飼いって言っていたけど本当は本物の羊だったの?」

彼女は今自分を心配そうに見つめる動物、つまり羊に向って話し掛けた。と言うか気づくのが少し遅くないか?ハーツは彼女と一緒にこっちの世界へ来て以来、ずっと羊の姿だったぞ?


「あーっ、これはあんたを憑依させた娘の側に適当な人物がいなかったから近くにいたやつを憑依対象にしたんだ。憑依するのは別に人間だけでなくてもいいのさ。まぁ、だからと言って岩や木では動けないからな。虫や魚なんかにも一応憑依出来るんだが、ちょっと感覚器官や神経系が違い過ぎるので自我を保ちにくいんだよね。と言う訳で大抵は動物が憑依対象になるだ。」

「・・。」

ハーツの説明に彼女は黙り込んだ。だが内心では「これだから魔法ってご都合主義って言われるのよ。」と突っ込んでいた。


「さて、大丈夫なようだから訓練を始めよう。今日の課題は忍耐力だ。なのでちょっとグロい事になるが耐えてくれ。」

そう言うと羊のハーツは何やら呪文を唱え始める。そしてその呪文が終わった途端、地中から何かがにょきにょきと生えだし彼女の体に巻き付いてきた。


「きゃーっ!なになになにっ!なんなのこれっ!」

「えーと、ファンタジー系エロゲーでの定番、触手だね。」

彼女の問い掛けにハーツはあっさりと凄い事を言った。これぞまさにご都合主義である。いや、異世界では触手って普通なのか?


「きゃーっ!ぬるぬるするぅ~っ!こらっ、そんな所をまさぐるんじゃないっ!この変態植物っ!」

そう言いながらも彼女は触手の粘液に絡め取られ徐々に抵抗する力を失ってゆく。そう、触手の粘液はとても強力な媚薬なのだ。しかも皮膚の上からでも浸透するので触手に掴まった者は10分も経たずに抵抗できなくなってしまうらしい。いや、童貞男子の場合は1分も持たないと言われている。


そんな彼女に羊姿のハーツが声をかける。

「さて、あんたが憑依しているその少女は生娘だから頑張って耐えてくれよ。触手の粘液に陥落して身を任せたりしたら、その子お嫁に行けなくなっちゃうかも知れないからな。責任重大だぞ?」

「ハーツ、てめぇっ!」

「まっ、最後の一線を越えそうな時は俺が対応するけど出来るだけ頑張って抵抗してくれ。もう一度言うけどこれは訓練だから。俺の趣味は入っていないからな。」

ハーツの言葉に彼女の中で何かがブチ切れた。するとどうした事だろう。いきなり彼女の手に例のバールが握られているではないかっ!


「この二次元にしか相手をして貰えないキモオタの手先がっ!三次元の女を舐めるんじゃないっ!」

そう言うと彼女はバールを振り上げ力いっぱい触手に打ち込んだ。


どぱーっ!

彼女からバール攻撃を受けた触手は先端から白い液体を放出しながら身悶える。その後触手はぐったりと力なく縮んで地面に横たわった。


「ひゅーっ、まさかの展開だな。そのバールって隠し持っていたんじゃなくて本当に魔法で出現させていたのか。」

そう、今の彼女の体はこの世界の少女の体だ。なので彼女は魂しかこちらに跳んで来ていない。本体事転移して来たのならどこかに隠していたとも考えられるが魂だけが跳ばされて来た彼女はバールはおろか釘1本すら持ち込め無いはずである。

しかし、今実際に彼女はバールを手にしている。ならばその取得手段は前に彼女が言っていた通り魔法で出現させたと考えるのが妥当だろう。


「いや~、お見事。さすがは魔法使いが見つけてきた勇者だけの事はある。これは案外簡単にステップアップ出来るかも知れないな。ところでそのバールはやっぱりあんたの世界から転移させたのか?」

「はっ、何言ってるの?可憐で可愛く、且つ素直で奥ゆかしい年頃の女の子の自衛アイテムと言ったらバールに決まっているでしょうっ!これは全世界共通の絶対ルールよっ!」

「えっ、もしかしてそのバールってその娘がもともと持っていたの?」

「当然っ!さぁ、ハーツっ!次はあなたの番よ。ぎったんぎったんにしてあげるから覚悟しなさいっ!」

「いや、待てっ!この羊はその娘が村人から預かっているやつだから殺しちゃまずいっ!待てっ、早まるなっ!」

手にしたバールを高々と掲げて彼女は羊のハーツににじり寄る。そんな彼女にハーツは彼女が躊躇しそうな理由を言い押し留まるように懇願した。


「ちっ、うまく逃げたわね。なら今殺るのは勘弁してあげる。でも元の世界に戻ったら覚悟しなさいよ。」

「元の世界に戻ったらるのは確定なのか・・。うへっ、戻りたくないなぁ。」

「うるさいっ!そもそもこんな方法を選択したあなたが悪いんでしょっ!くっ、ちょっとハーツっ!ベトベトして気持ち悪いわっ!シャワーを出してっ!」

「う~んっ、だんだんキャラが崩壊していくなぁ。まっ、戦争の真っ只中に行くんだからこっちの方がいいか。となると次の訓練は・・。」

「ハーツっ!シャワーっ!」

ハーツは怒り心頭の彼女をよそに何やら今後の予定を組み直し始めたようだが彼女のシャワー要求に遮られる。だが、残念ながらハーツにはシャワーを出現させる魔法は使えなかったと見え、折衷案として近くの小川へと彼女を連れて行った。


「ハーツっ!あなた何見ているのっ!後ろを向いてなさいっ!」

小川でエロ触手のベトベトな粘液を洗い落とす為服を脱ぎ始めた彼女がハーツに命令する。まぁ、この娘の体は彼女の体ではないのだから見られても気にする事はないと思うのだが、そこは女の子独特の感情があるのだろう。なので羊のハーツは素直に後ろを向く。但し、不意を付いて彼女にバール攻撃をされないよう10メートル程移動してからだ。


「くっ、何なのよ、この粘液っ!匂いが落ちないじゃないっ!ハーツっ!どこかで香りのいい草を摘んで来てっ!後、石鹸はないのっ!バスタオルも用意してっ!」

未だ怒りの冷めない彼女は矢継ぎ早にハーツへ命令する。ハーツも触らぬ神になんとやらで素直に彼女に従い香りの良い草を探してきて彼女の前に置く。因みに石鹸とバスタオルは元の世界から転移させたようだ。


その後、触手の粘液を洗い落とした彼女はバスタオルに身を包み日光としゃれ込んだ。因みにハーツは今彼女が着ていた服を小川で洗っている。だがハーツは今羊のはずなのだが?異世界の羊は洗濯ができるのか?

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