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初友達

連投します。

 



 銀。

 その単語を聞くと、最初に思い出すのは鉱石だ。星の恵みたる金属元素の一種。

 美術品としての利用価値も高く、多くの可能性が秘められている。


 銀賦とは―――鉱物の力を利用し五次元に干渉する力。

 多様性と凡庸性がある鉱物の代表の一つと言える銀が、力の名に使われている理由はそれも関係しているだろう。



 現在の時間軸に戻る。

 銀から連想される物で、十人中二・三人は『水銀』と答えないだろうか。


「―――砲弾を逸らした、だと……!?」


 人の頭より大きい、初速を見切るのは不可能な速さの塊が通り過ぎた。弾道を曲げた銀は、形を無数に持ちながら力富を中心に漂っている。軍艦出現と轡を並べる異常現象、原因はアレしか説明出来ない。


「水銀……、凄いなもう銀賦使えるんだ」

「俺の半径五メートルくらいだけどな!」


 握り拳の動きに合わせて、水銀が円を作る。

 同量なら鉄の倍近い密度を有する水銀は、上手く使えば鉄の銃弾を容易く遮るだろう。砲弾を防ぐには少々物量不足かと思うが、そこは使い手の腕次第。

 現実に在り得ない法則も現代に上書きできるのが、銀賦である。


「しかし防ぐばかりでは……!」


 動揺を誤魔化さなくなったが、ドルヴァスの優位は崩れない。攻撃の手は止まらず、一定間隔で撃たれる砲弾、銃座に誰も居ないマシンガンが弾を吐き続ける。

 力富の腕に巻き付き盾となったり即席の壁で水銀が守ってくれているが、一方的な状況だ。

 場所が悪い。ポケットから拳を抜く。


「態勢を立て直す、頭ぶつけるなよ力富」

「は!?何だってえ!?」


 忙しそうなので、説明は後回しにする。

 叶雨は石をボロボロにした時の()を解く、簡単なきっかけだ。ただ地団駄を踏めばいい。


「らあ!!」


 大砲の衝撃音に負けない轟音が、()()()()()()()()()()()


「……へ?きゃあああ!!!?」


 数分前の叶雨のリクエストに沿った悲鳴で、共に落ちる力富。ドルヴァスからは既に、甲板の大きな穴しか見えなかった。水銀すら一滴残らず居なくなっている。


「逃がさん……!」





 静から動への入れ替わり、体力以上に暴れる心臓を呼吸で宥める。

 長話は危ないが、会話が出来ない状況ではない。その判断が下せる程度には、叶雨も力富も知識として銀賦を理解していた。

 水銀は空中遊泳を楽しみつつ、使い手の指示に従い周囲を回る。


「はあ、はあああ……。そっちこそ、銀賦使えるじゃねえか……」

「自身を強化する、知覚(タイプ)……げほっ、懐に入れなきゃ、意味が無い。はぁ」

「こっちは手持ちが少ねえし、近付く必要があるのは一緒か。敵の腹ン中で何処までやれっかな」

「……砲弾は何発なら防げる?」

「一発づつなら幾らでも。たださっきの以上に弾幕張られると、ヤバいかも」

「なら―――」


 叶雨の博打に、反論は出た。駄目な点も危険な理由も、問い詰められれば小一時間は消費したかもしれない。説得の材料は少なかったが、発言された反論には真摯に返す。

 結局値踏みの目線は、一分と続かなかった。


「無茶苦茶だけど、いいぜ。付き合ってやる!」

「失敗しても私のせいにしないでよ、臨機応変にね」

「ぶはっ!もうおせえよ、これはお前の喧嘩だろ?(こう)

「なにその呼び方」

「呼び易くした、戦友にあだ名の一つも無いのは寂しいだろ?」

「……勝手にすれば、行くよ」

「おう」


 独りじゃないだけで、大分心が楽だ。失敗しても何とかなると、根拠も無く思えた。



 適当な階段を上り、甲板に戻る。複雑な構造でなくて助かった。

 軍艦の主は腕を組み優勢が傾いていない者の余裕なのか、一ミリも立ち位置を変えていない。表情は固いが、特に新しい動きは無い。

 攻撃手段が砲撃類だけなら、作戦の最初の賭けには勝った。


「最終勧告だ。……私に仕える気は?」

「やだね!」

「這いつくばらせてみろ!」


「……では、そうしよう―――!!」


 複数の発砲音が重なり、大きな衝撃音として叶雨らを襲う。

 横殴りの弾丸・砲弾の雨、二つ目の賭けは()()()()()。予想より弾の数が多いのだ。力富がいけると断言した数の倍の弾が、二人の体に穴を開けようとしていた。

 スカートの裾に弾が引っ掛かり、千切れる。呑気に最善を考えている暇は無かった。遥か頭上のドルヴァスを見上げ、膝を深く曲げる。


「上に投げろ!!」


 反射神経が理解のプロセスを置き去り、迅速な対応をした。水銀の滑り台を一発の砲弾が逆に滑り、勢いを上昇力に変換させる。力は重みに耐えきれず、ドルヴァスの視線の高さで止まった。

 叶雨の跳躍力は砲弾を掬いドルヴァスの顔面に投げるまで、自身を空中に留めさせた。


「なあ!?ゴホッ!!?」


 砲弾の重みで放物線が下がり狙った顔面の下、胸部に激突した。自分が生み出した生成物で意識が飛ぶドルヴァス。物理による酸素欠乏症の誘発で、最大の好機が訪れる。


「力富!」

「おう!」


 号令とほぼ同時に、最低限の水銀を盾にして落下する影を追う。かなりの高度から降って来たドルヴァスを、やはり水銀が受け止めた。

 呻き声を出し痛みを消化している間に、金の腕輪を外す。手足の自由を完全に奪う拘束を施した時、ようやく叶雨は着地した。


「動くな!!」


 呼吸が整わないドルヴァス、拘束を解かない力富、にではない。外から軍艦に侵入し力富の背後に回ろうとしていた、野々に一声を浴びせた。

 この場で最大の脅威であるドルヴァスから目を逸らし、叶雨のアンテナは野々に集中する。絶対に拘束は破られないと信じたからではない。少女の如き顔が憤怒を模り殺意に染まれば、警戒もしたくなる。


 立場が逆転した。脅迫の対象は野々が連れて来た叶雨らから、叶雨らを連れて来た野々に変わる。

 実はこの先を相談していない。

 叶雨と力富は互いの目に意味を込めて視線を交わしても、そこまで深い関係ではないので会話にならなかった。


「……条件が二つ、それを飲んでくれるなら開放する」

「飲まなければ?」

「条件を聞いてから質問して」


 顔に出さない様にするので精一杯だった。野々の気迫は足元からにじり寄る寒気を放ち、ドルヴァスとは対照的な恐怖を与えてくる。

 要求は可能な限り平等(フラット)に、互いに利益が有れば更に良し。


「一つ、今回のような接触方法は二度としないで。話し掛けるなって言ってるんじゃない。次同じ目に遭えば、私達もなりふり構わない」


 勿論、二度目以降も勝てるとは限らない。しかし今回の結果を見てもしかしたらと思わせられたなら、二の足を踏んでくれるかもしれない。


「……二つ目は?」

「一度でいい、二人の在学中に私達が助けを求めたら、助けてほしい」

「ルヴィを使うの?」

「理不尽な要求はしないし、人道に反するお願いはしない。私の星に誓って、約束する……」

「……」


 唾を飲む音が、ドルヴァスの呼吸に挟まる。叶雨の顎を伝う汗は、甲板を跳ねて音も無く消えた。

 瞼を強く下ろし、悔しさを滲ませて搾り出す。


「……分かった。星に誓って、二人には二度と手を出さない。声が掛かれば可能な範囲で手を貸す、……約束、する」


 危機は去った、乗り越えた。

 達成感が警戒心を吸収する気配に、慌てて力富を急かす。


「力富!マーフィーさんは?」

「え、えっと……呼吸は安定してきた、けど一応保健室に連れてった方が……」

「僕が連れてく!」


 素はそっちなのか、一人称の変わった野々がドルヴァスを担いだ。足がギリギリ地面に着かない小柄な体格だが、大の男を肩に悠々と担ぎ歩き出す。一度止まり振り返る。


「もう少しで〝Whale〟消えるから、気を付けなよ」

「「え?」」


 ぐらり。

 泥に足を踏み入れたような平衡感覚の崩壊、軍艦は材質を水と化し蒸発した。


「「きゃああああああ!!?」」




 間に合った両足の痺れが治まるまで、叶雨は無言で耐えた。()を使ったが、あのタイミングならばれていない。筈だ。


「ぶ、無事か紅?」

「なん、とか……二人は?」

「もういない……」


 パイプ机も軍艦も消え、何も無い崖下広場になる。表面が焦げて場所によっては破れている制服で、叶雨は横転を堪えらなかった。痛みの呻きが聞こえ、出所を探す。


「どっか撃たれた?」

「肩と足掠った、起きれるか?」

「ちょっと待って……、そっちは立てる?」

「ちょっと待て……、ははっ!」

「頭も撃たれた?」

「それ死んでるだろうが……。いやさあ、高校初日とは思えないなあ、て」

「なるほど、同意。けどいきなり笑い出したら頭を疑うって、今度から一声掛けて」

「これから笑いますってか!?ぶっはっはっはっ!!いててて……」


 絶海の孤島七割を占める学校入学初日、歓迎の(イベント)としては濃厚の一言だ。この騒動が文字通り嵐の前の静けさなら、半年と待たず次の試練が二人を襲うだろう。

 覚悟を嘲笑う出来事の安売りに、辟易する心を癒す報は少ない。入学を正式に認められた事は嬉しいし、学食が個人的三ツ星レベルだった事も万歳ものだ。しかし未知の力と先達らの存在が、調子に乗るなと背中を叩く。

 それだけに一際喜ばしい。


「……巻き込んだ、ごめん」

「おいおいそれは言わない約束、じゃなくて。俺が選んだんだ、次謝ったら殴る」

「……オーケー」


 上級生からの接触に対して、心理戦に近い対立を選んだ。この流れを作ったのは、間違いなく叶雨である。思春期の考えは理屈通りに行かないだろうし、最初に理屈を放り投げたのは叶雨だ。良い方向に着地できれば一番だが、あの脅迫交渉の後にそれは難しい。

 油断ならない学校生活のスタートを切ってしまった。不幸中の幸いは、一人ではない事だ。


「ま、楽しくやろうぜ!さっきの喧嘩も中々楽しかったしな!」

「マゾだね。まあ、よろしく」

「マ!?さては、根に持ってんな!?」


 どちらともなく差し出された手が固く結ばれ、互いの体を引っ張り上げた。






 歪みが消えた。屋上からその違和感を()()していた男は、己の胸に手を置く。


「……」


 一定の鼓動しか響かなかった心臓が、ゆっくりと興奮へと変化する。かさついた唇の両端を上げ、白衣の裾を翻した。


 役者は集いつつあった。

 此処はそういう学校なのだと、叶雨も直ぐに理解していく。




一先ず連投終了します。

閲覧有難う御座いました。

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