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ラブソングなんて…

作者: ニッコリ

書きたくなったので、書いてみました。割とあらい表現がありますが、お許しください。


隣の部屋とある曲調が聞こえてくる。聞き慣れたくない曲調だ。


「はァ」


僕は、溜息を1つ吐いた。ベッドから起き上がって文句の一つ言ってやろうかと思って辞めた。朝の清々しい気分をこれ以上台無しにしたくないからだ。


「はァ」


もう1つ溜息を吐くと、僕はそのままの気持ちでのそりと部屋を出た。



義務が終わっても、所詮大した変化はないらしい。

やけに小綺麗な無個性の象徴を纏って、この巣を出たら、僕は蟻の大群の1匹となる。



この時間帯には、蟻が多いらしい。まわりには同じ格好をした蟻ばかり。最寄りの駅を下りて目に入った光景に思わず鼻で笑いそうになった。だが、僕は笑えない。所詮、僕は大群の中の1匹だからだ。そんなことをしたら、仲間外れになってしまう。



ふと、視界の端にあからさまに困った余所者がキョロキョロと辺りを見渡している。近頃は、こういう光景を良く見掛ける。普段なら、親切にも声の一つをかけただろう。だが、今の僕は蟻だ。そんなことをしたら、他の蟻と区別されることになる。ほら、見てみろ。あの手のものは英語を大して、話せなくても対処可能だ。寧ろ、必要なのは声をかける勇気と思われる。それなのに、誰も見向きもしない。時間が無いわけではない。ただ、他と合わせるので精一杯なのだ。



「ねぇ、あの人困ってるよ?どうする?」

「えぇ〜、いいよ別に。私、英語喋れないし。あなたもでしょ?」

「おい、あの外国人困ってるぞ。お前、行ってこいよ。」

「やだよ。めんどくさい。お前こそ行ってこいよ。」



ああ、実にくだらない。僕は大群の中の蟻になるとは言ったが、心は人間のつもりだ。それなのに、奴らは心ですら捨てたか。僕は、正真正銘の蟻共を一瞥するとあの困った余所者元に向かった。



「おい、見ろよあの真面目。声かけをかけに行くつもりだぞ。」

「見かけねぇな。1年か。」

「みてみて、あの子行こうとしてるよ。」

「いつもながらに、よくやるねぇ。」



留まりたくなった。そして、嫌悪しながらもそれと同じ自分に自嘲した。だが、それも一瞬のことだ。そのまま歩みを進め声をかけようとしたとき。



「あ、「大丈夫ですか???」」



僕は、無意識のまま振り向いた。振り向いた自分が不思議だ。声をかけることが1番だろうに。


そして、その声の主は人間だった。


彼女は、人間だった。今までのものは何処かに消えていて、残ったのは新しいものだけ。


「あわわわわ!?」


でも、彼女は英語ができないようだ。外国人が言ってる言葉を全くわかっていない。僕は笑みをこぼすと、今日始めて出会った人間に声をかけにいった。







「ありがとう!!!私、実は英語がからっきしダメなのに話かけちゃったから困ってたんだ!!!君は新入生???」


お礼を言いたいのはこちらだ。そんな気持ちはおくびにも出さないで


「はい、そうですよ。まぁ、僕もちょうど声をかけようと思ってたんですよ。ただ、それだけです。」


そう、ただそれだけなのに僕はこんなにも救われた。

しかし、他の蟻にとっては全くそんなことはないらしい。ああ、聞こてくる。彼女には聞こえないのだろう。実に、実に、...。何となく気になって、らしくないことを聞いた。


「先輩、名前はなんて言うんですか?」

「へ?あ、わたしは...」



ああ、なんてピッタリな名前だと思った。

これが...との出会いだ。










あの日以来、僕と彼女はよく話し合うようになった。

他の蟻達は色々と言っているようだが、気にしない。最近この気持ちを理解し始めた。彼女は僕がそういう気持ちを持っていることを果たして気づいているのだろうか。いや、きっと気づいてないだろうな。あの人のことだ。きっと、この言葉を聞いたとたん顔を真っ赤にするに違いない。



僕は隣の部屋から聞こえる聞き慣れた曲調を聞き流すと、力いっぱい扉を開いて太陽が照りつける戦いへと向かった。












「好きです。僕と付き合ってください。」


「...」















あの日から幾らか何ヶ月か過ぎた。今日は彼女から大事な話があるらしい。近頃、あの曲調が頭から離れない。さすがに毎日聞きすぎたか。彼女の趣味を少しでも理解しようと、あの手の曲を沢山聞いた。スマホの音楽のライナップは彼女でいっぱいだ。まわりには、沢山の人、人、人。そして、時期が時期なので赤と緑の装飾が沢山されていた。僕は今、彼女を待っている。彼女のことを考えていれば時間なんて、気にならない。さて、今日はどんな1面をみせてくれるのか。目の前に通り過ぎる男女の姿を見て、そんなことを考えていた。











「ごめん。別れてください。」







どん底に突き落とされた。彼女には、理由を尋ねても。ただ、謝るだけだった。ああ、実にくだらない。

まわりには、蟻共が僕をはやし立てている。所詮、貴様は蟻なのだと。

人間であると証明したかった。それは、自分のためではない。僕のことを僅かの間でも想ってくれた彼女のためだ。人間と付き合えるのは人間だけだから。


僕は、イヤホンを取り出して彼女が大好きだったあの曲調を流した。メロディーが聞こえてくる。


ああ、あれはもう帰ってこないのか。かつての僕が忌み嫌い、今の僕が切望しているもの。そして、また元通り。


ところが、曲が最高潮へと差し掛かったとき、僕は人間に戻った。彼女が、帰ってきたのだ。だが、曲が終わるとまた戻ってしまった。

僕は次の曲を流す。彼女を少しでも感じようと。曲が進むと共に、音量をあげていく。もっと、もっと、もっと。まわりなんて気にしてはいられない。











聞いていた曲は全て流し終えた。

もう一度聞いても。彼女はもう帰ってこない。だが、曲が終わっても僕は人間だった。人間だったのだ。僕は愛したものとかつての僕が嫌ったものと同じ。



空を見上げる。彼女はあの曲調を聞きながら月を見るのが好きだと言っていた。ロマンチックじゃない?と微笑みかけてくれた。

ああ、今夜は満月か。今日も綺麗だった。僕を人にしてくれたあの月は、




「ラブソングなんて...」




綺麗な月をみて、泣きながら家路についた。




















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