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聖都市アリアドネ

 ボス撃破をした一行は道中も苦労することなく第二の街に着いた。


 『聖都市アリアドネ』と呼ばれており、美麗な建物が多く中には宗教建築のような珍しい建築物が点在していた。

 中央には教皇が住んでいる城が建てられており、外観も凝って作られている。

 この聖都市は東西南北で様々な特色があり、東は商業エリア。北は貴族など位の高い人間達が住む屋敷などが点在。西は産業エリアになっていて様々なものが作られる。南はギルドエリアと呼ばれプレイヤー達の拠点となる大小様々なギルドホームが立ち並んでいた。

 

 「でっかいな~、迷いそうだ」


 初めて訪れる場所という事で有用な店や、面白いクエストが転がってないかなど観光半分、情報収集半分という面持ちで探索する。

 道中ニナが人込みに攫われてしまう事件が起きたが、ガリルが肩車するというまるで父子にしか見えない手段で解決した。

 

 ひとしきり探索をしレイの提案により『ギルドエリア』へと足を向けた一行。

 

 「へー!こんなオシャレなギルドハウスあるんだ!」

 「大きいですねー、何人ぐらいこの建物ならすめるのかな…」


 とあるギルドハウスに目が止まる。


 その建物の周りは鉄柵に覆われ、入口は正門のみ。

 入ってすぐに石畳みの道があり、通路以外の場所は芝生を植えられている。

 中央には巨大な噴水が設置されており涼やかな雰囲気を醸し出している。

 肝心の建物は五階建てとなっており、横幅もかなりあるため一階あたり何部屋あるのか見当もつかない。


 「いいな~!こんな所に住んでみたい!」


 「なんか貴族っぽくていいですよね!私もちょっと憧れてたんですよね!」


 メルヘンチックな会話を繰り広げる二人についていけない父子。


 「うち…こじんまりしてるところ…好き…」

 

 「俺も広すぎると落ち着かないなあ」


 「え~!広いほうが伸び伸び出来るしいいよね!」


 「私もそう思います!」


 狭い所が好きなタイプとそうじゃないタイプで対立をしている時、その建物から銀色の鎧を纏っている二人の男女が出てきた。


 兜こそ着用していないが立派な甲冑を装備している二十歳ぐらいの男性。その腰の剣も豪勢な装飾が施されている。

 女性のほうも銀色のプレートアーマーを胸元につけ、手甲など要所要所にのみ装備を施している。

 ドレスにアーマーをつけたような美しい見た目の装備を完全に着こなす金の髪に見目麗しい容姿に目が奪われる。


 「やあ君たち、我々のギルドに何か用かい?」


 爽やかなイケメンと言った茶髪の男性が、にこやかにハニカミながら聞いてくる。

 礼儀正しく、申し訳なさそうにレイが返す。


 「あ、申し訳ございません。あまりに綺麗な建物だったのでこんなところに住めたらなって話ていまして。お邪魔してしまったみたいで私どもはそろそろお暇させていただきます」


 「いえいえ、我がギルドホームを褒めていただいてありがとうございます。皆様はこのギルドエリアで拠点をと考えておられるのですか?」

 

 「そこまでは考えてないですね。というより実はギルドについてもほとんど知らなくて」


 苦笑いしながら答えるレイ。

 紳士淑女による礼儀正しく大人な会話に入っていく自信のない三人。

 社交性が一番あるのはレイだった。

 そんな会話をしている時もう一人の女性が会話に割って入る。


 「宜しければ中を見てみますか?素敵なリーダーさんですもの。私もおしゃべりしてみたいです」

 

 爽やかな笑顔でそう告げる女性。

 自分たちのホームに素性のしれない人間を上げるのはどうか、とも一瞬考えるが本心からの発言だと確信出来るほどにまっすぐな言葉だった。

 レイは振り返り皆の様子を伺うが、全員が同意見のようだ。


 「ではお言葉に甘えてお邪魔させていただきます、自己紹介がまだでしたね。私はレイと言います。それと右からガリルさん、ニナさん、ラディーさんです。よろしくお願いします」


 レイが全員分の自己紹介を終えた所でその異変は起きた。

 何やら騎士風の二人が驚愕、そしてどこか寂し気な表情に変わる。


 「そう…ですか…あなた方があの『四人組』だったとは…残念です」


 そう言い終えた男は決意の表情に変わり腰の剣をおもむろに抜きレイに向ける。


 「私の名はアール。そしてギルド名は『イノセンス』。絶対の正義を掲げ、悪を許さない。君たちの悪行は聞き及んでいるよ」


 そこまでの発言を聞いて4人は『あぁ~』と納得する。

 人の感情を読み取った上で炊きつけお金を稼ぎ、PKしまくったりと確かに褒められた事ではないし逆の立場だったら絶対されたくないだろう。

 しかし四人からしたら大勢の人間がやっていないだけでシステム上あるのだから何がいけないのか、というスタンスだ。

 当然やられる覚悟も持っている、故にこういった場面でも臆さない。

 

 「なるほど…。では許さない、のであればどうするのです?」


 「無論、君たちにデュエルを挑む。そして僕たちが勝ったらもう非道な事はしないで欲しい。この世界の人達は楽しみながら純粋にクリアを目指している人がほとんどだ。だから水差すような真似は見過ごせない」


 「純粋にね…俺らも純粋に本気でクリアを目指しての行動なんだよな。ただの母数の問題だろ?」


 ガリルの言っていることは至極真っ当な反論だろう。

 四人だって他プレイヤーの足を引っ張って楽しんでいるわけではない。

 二年の月日が流れ、最前線の人間の進行度ですらまだ七割程度だ。

 リアルもゲームも同じだ。小より大の声のほうが正しいとされる。

 運営側がその行為を認めていた、としてもだ。


 ネトゲには数種類のスタンスが存在する。

 『ライト層』『カジュアル層』そして『コア層』。

 ライトは効率などを気にせず、純粋に楽しむのが目的の層だ。

 コア層は効率や勝つための行為に重きを置き活動する。

 故にライト層とは相いれない事が多く、集団の中にコア層とライト層が混じったせいで分解してしまう集団などはざらにある。

 まさしく四人が直面しているのがこのスタンスによる差だろう。

 四人はクリアするためなら違反しなければそれは問題ではないと考えている。

 しかしアールはそれを良しとせず、言わばライト層の人達基準で物事を考え四人との倫理観の差で生じた問題だろう。


 「どうやら分かり合えないようだね」

 

 「当然の帰結だな、元から俺たちは悪いことしちゃいないし実際お咎めとかも一切来ていない」


 「とまあ一つの結論が出たわけですが、そのデュエル、受ける気はありませんよ。メリットがないですし」


 「無論、君たちが勝った場合には僕たちのギルドは二度と君たちには接触はしない」


 ふむ、と少し考えるレイ。

 そして不意にギルドハウスに目を向ける。

 そこで天啓が降ってきたようにレイはあることを思いついた。


 「一つ質問よろしいですか?」


 「構いません」


 「あなた方のギルドハウス、とても立派ですけどかなり大規模、もしくは腕が立つギルドだったりしますか?」


 何やら話の趣旨がずれている発言をする。

 そんなレイに向けて疑問の眼差しが集まるのも無理はないだろう。

 デュエルとギルドハウスに何の関係があるのかという。


 「そうですね、以前行われたギルド対抗イベントでは総合4位だったから強いほうではあると思います」


 ニヤリ、とレイが笑みをこぼす。

 そしてこんな事をあっさりと発言した。


 「そうだったのですね、どうりで…そんなギルドに目を付けられてはこちらとしても怖いのでPKなど倫理に反する行為は控えさせていただきます。それで手打ちとはいきませんか?」


 当然疑問も残れば疑う気持ちもあるだろう。

 しかしアールという男のいい所でもあり悪い所でもあるだろう。


 「わかりました。その言葉を信じます。ただ、二度目はないと思ってくださいね」


 「承知しました」


 そして石畳を歩きホームへと戻っていく二人、最後まで疑いの眼差しを女性から向けられたが気にしない。むしろ疑われているぐらいが『ちょうどいい』

 レイには企みがあった、しかもかなりの外道な作戦が。

 しかし成功した際には超が付くほどの利益が発生する。

 

 「いいことを思いつきました。さすがの私も少々心が痛むのですが…」


 そして新たな街で始まる最初の作戦が告げられた。


 「えっぐ…」


 「レイってやっぱドSだよね」


 「うちはそんな所も…好きだよ…?」


 

 

 

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