6話
次の日、学校に行き、孤独を感じながら席に座っていた。
というより転校次の日で誰一人として転校生に話かけてこないとは冷たくないか。
結局、名前を覚えるほど話したのは4人だけ。
俺がいてもいなくても変わらないような日常を他のクラスメイトは過ごしていた。
昨日の歓声はなんだったんだ。まあ、期待外れの声が多かったがそれが原因だろうか。
「おい、神野、お前何やったんだよ」
佐藤健が話掛けてきた。
「何って何?」
「何だとぉ!!桜木さんがお前を訪ねてきたんだぞ。転校二日目にして、嫁にしたいランキング1位と言われる桜木花音ちゃんがお前を訪ねにクラスに来るなんてお前何したんだよ」
そう言って佐藤が俺の襟を掴みグラグラ揺らす。
「ああ、桜木さんか」
「なんだよ。ああ、桜木さんかって知り合いなのか。生き別れた妹か、それとも幼なじみなのか。どっちにしても羨ましいぜ、ちきしょう」
「違うよ。昨日、ひったくりから助けたんだ」
「なるほど。運の良い奴め。でも桜木さんを狙う男はこの学園には大勢いる。ひったくりから助けたくらいで付き合えるなどと思うなよ」
「分かった、分かった。待たせちゃ悪いし行ってくる」
「クソォ!!!!羨ましいなぁ」
後ろから佐藤の恨みがましい声が聞こえてくる。人の多い教室でよくそんな声が出せるなぁなんて思いながら俺は桜木さんの待つ教室のドアに向かった。
「お待たせ」
「いえ、大丈夫よ。それより昨日は本当にありがとう。これつまらないものなんだけど、昨日焼いたクッキー、受け取って貰えないかしら」
「いいの?ありがとう」
転校早々、こんな美少女からクッキーが貰えるなんてラッキーだな。
「私、料理部に入ってて、いつも放課後は何か料理を作っているからいつでも遊びにきて」
「ありがとう。きっと行くよ」
「楽しみにしてるわ。じゃあ、また」
そう言って桜木さんはツインテールの髪を揺らして自分の教室に戻っていった。
席に戻ると佐藤より先に昨日は無視された音無さんが俺のクッキーを掴み
「これ誰から貰ったの?」
と聞いてきた。色々思うことがあったが、咄嗟だったので考える間もなく
「桜木さんからだけど」
「なんであなたが」
「昨日ひったくりから助けたんだ。そのお礼にって」
なんか色んな人に言い訳のように言ってるが、これって武勇伝を語ってると思われてるんだろうか。
だとしたら恥ずかしい。
「……そう。いきなりでごめんなさい。どうしても気になったの」
「いや、いいよ。転校生がいきなり誰かきらクッキー貰ったら誰だって驚くよ」
「そうね。でも本当に驚かせてしまってごめんなさい」
音無さんはぎこちなく笑うとまた席に戻り本を読み始めた。
なんだったのだろうか。
気を取り直して席に座って貰ったクッキーの袋を見ると、貰った時はテンパって気にしてなかったが、可愛らしくラッピングされてていかにも店で並んでそうだ。
袋から見えるクッキーも店で売っててもおかしくない出来だ。
将来はパティシエにでもなるんだろうか。
「なんだ〜ニコニコして、そんなに桜木さんのクッキーが嬉しいのか」
佐藤がまた冷やかしに俺の席に来た。
「いや、上手だなぁと思って」
「そりゃそうさ。桜木さんは可愛いだけじゃなく料理も超上手いんだ。県の料理コンテストで優勝したこともあるんだぜ」
「へぇー、じゃあ、将来は料理人でもなるのかな」
「さあな。まあでも残念だな。これでお前は今回で一生分の運を使い果たした」
一生分の運がクッキー一袋って安すぎるだろ。
なんてことを思いながら南方と錦戸さんが助けに来るまで佐藤に絡まれ続けた。
そういや、朝日は今日は休みだったな。
昨日は元気そうだったが、何かあったのだろうか。
そんなことをふと思った。