友達になった二人。
「ねぇ、見て! 久弥君!」
「どうしたんだよ。そんなに大騒ぎして」
「雪だるま! 誰かが作ったみたいだよ! ほら!」
茉奈が元気いっぱいに、窓の外を指さす。
するとそこには、誰が作ったのだろう、二つの雪だるまが寄り添うように置かれているのが見えた。きっと近所の子供が犯人だろうが、無邪気なものである。
こんな雪の降る北陸で、外に出る勇気があるのだから。
田舎の子供というのは異次元の存在だった。
「可愛いねぇ、うんうん」
それを見て微笑み、足をパタパタさせる茉奈。
そういえばこの子も北陸の田舎民だった。体調さえ良ければ、外に出たいのが本音なのかもしれない。出会ってまだ数日だけど、彼女の人となりはなんとなく理解できていたから。
御堂茉奈――十五歳の中学生。
生まれつき身体が弱いらしく、学校にも碌に通えていなかったらしい。しかしながら、いまの彼女は元気いっぱいで、前述したことが嘘なのではないかとさえ思えた。詰まらないものは詰まらない、そう決定付ける僕とは違って、詰まらないものにも面白みを見つける天才なのかもしれない。
まぁ、そんなことはどうでも良いのだけれど。
「あまり窓際にいると、身体冷やすぞ?」
僕はボンヤリとベッドの上で本を読みながら、無邪気な茉奈に指摘した。
すると彼女は「平気だよ~」などと言って、こちらの言葉を完全に無視するのだ。そうなっては、こちらもこれ以上は言うことがない。なので、黙々と頁をめくった。
「久弥君、優しいんだね」
「は……?」
だが、茉奈のその言葉に手を止める。
僕が優しいだって? 何を言っているのだろうか、この少女は。
こちらが首を傾げていると、ニコニコと笑顔を浮かべて彼女は口を開いた。
「だってわたしの体調を気遣ってくれたでしょ?」
「それは、茉奈がここで体調を崩すと、後々に僕のせいになって面倒くさくなるからだよ。面倒事は嫌いなんだ。せっかくの個室入院、ゆっくりしたいからね」
「ふーん……?」
しかし、そこには大きな勘違いがある。
そのことを指摘すると、茉奈は少しだけ残念そうに首を傾げた。
「でも、わたしと友達になってくれたでしょ?」
「それは……」
それでも、少女は気を取り直すように微笑む。
話題に出すのは初めて会った、あの日の夜の出来事だった。
「あれは、きっと気の迷いだ」
僕は大きくため息をつきながら、そう口にする。
そしていよいよ本を閉じ、茉奈に真っすぐ向き直った。綺麗な黒髪の、愛らしい顔立ちの少女。そんな僕の友人というには似つかわしくない、そんな女の子に。
そして思い出すのだ。
あの日に、いったいなにがあったのか、を……。