少女との出会い。
不定期です(前もって宣言)
――なんてことのない冬のある日。
僕はひょんなことから、とある総合病院に検査入院することになった。自覚症状はないけれども、どうやら精密検査が必要なほどに心身が疲弊していたらしい。
大学も後期課程を終了し、時間もあった。
それなら実家に帰るよりもどこか、別の場所にいた方が気が楽でもある。
「個室なのは、ありがたいけど。暇だな」
窓の外を見ながら、僕はそう漏らした。
街灯に照らされた駐車場に、寒そうに身を寄せ合う木々がある。しんしんと降る雪が積もっても大丈夫なように、雪囲い、という傘がつけられていた。
心許ない、という印象だ。
なんとも殺風景で、空虚で、無為に思える景色だろうか。
それを暖房の効いた部屋から見下ろす自分は、一体何なのだろう。
「…………喉が渇いたな」
そこまで考えて。
僕は不意に、飲み物が欲しくなった。
病室には一つ冷蔵庫があるのだが、しかし中には何もない。どうやら先ほど飲んだ清涼飲料が、最後の一本だったことを失念していたようだ。
こうなったら、買いに行くしかないのだが。
「まぁ、誰にも見つからないだろう」
当直の看護師に見つかったら、面倒だ。
そうは思ったが、冬の乾燥した空気の中で一晩過ごせという方が辛い。それだったら、多少のリスクは承知で買い出しに行った方が良いに決まっている。
僕は財布を取り出し、静かに病室から出た。
◆
夜の病棟は、信じられないくらいほど静かだ。
明かりといえば精々、非常口の方向を示す緑色のアレくらいなもの。あとは窓の外から入り込む月明かりや街灯のおこぼれだけだった。
足元の覚束ないそんな道を、記憶を頼りに進んでいく。
すると待合スペースに突き当たる。ここまできたら、自動販売機はすぐそこだった。機械からの明かりもついている。
僕はもう迷わずに、財布を手に自動販売機へと向かった。
「とりあえず、水でいいか」
そして、一番安価な水を購入する。
思った以上に大きな音が響き、一瞬だけビクリとした。
しかし特に人の気配は感じられず、ホッと胸を撫で下ろす。が――。
「ん……?」
取り出し口から、水を手に取った時だった。
どこからか、ひゅうひゅう、という呼吸音が聞こえてくる。
待合スペースの方から、だろうか。僕はほんの少しの恐怖心から、そちらへと足を運んだ。すると、物陰から見えたのは……。
「女の、子……?」
どこか息苦しそうにしている、中学生くらいの女の子だった。
腰まである長い黒の髪。円らな瞳にかかりそうな前髪は、額にかいた汗でべったりと張り付いている。着ているのは桃色のパジャマで、どうにも歳不相応に幼い印象だった。それでも、少なくとも幽霊の類ではないと分かり、一安心だ。
しかし、そうなってくると今度は別の問題がある。
僕は買ったばかりの水を手に、その女の子もとへと歩み寄った。
「大丈夫……?」
「え、あ……」
こちらが声をかけると、か細い声で少女は言う。
そして、くりくりとした瞳を僕に向けるのだった。
「あの、その……」
「いいから。これ、飲みなよ」
これは、純粋な心配から。
僕が水を手渡すと、彼女は何度か瞬きしてこう言うのだった。
「あの――」
意を、決したように。
「わたしと、友達になって!」――と。
これが僕、九条久弥と。
少女、御堂茉奈との出会いだった。
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