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少女との出会い。

不定期です(前もって宣言)







 ――なんてことのない冬のある日。

 僕はひょんなことから、とある総合病院に検査入院することになった。自覚症状はないけれども、どうやら精密検査が必要なほどに心身が疲弊していたらしい。

 大学も後期課程を終了し、時間もあった。

 それなら実家に帰るよりもどこか、別の場所にいた方が気が楽でもある。


「個室なのは、ありがたいけど。暇だな」


 窓の外を見ながら、僕はそう漏らした。

 街灯に照らされた駐車場に、寒そうに身を寄せ合う木々がある。しんしんと降る雪が積もっても大丈夫なように、雪囲い、という傘がつけられていた。

 心許ない、という印象だ。

 なんとも殺風景で、空虚で、無為に思える景色だろうか。

 それを暖房の効いた部屋から見下ろす自分は、一体何なのだろう。


「…………喉が渇いたな」


 そこまで考えて。

 僕は不意に、飲み物が欲しくなった。

 病室には一つ冷蔵庫があるのだが、しかし中には何もない。どうやら先ほど飲んだ清涼飲料が、最後の一本だったことを失念していたようだ。

 こうなったら、買いに行くしかないのだが。


「まぁ、誰にも見つからないだろう」


 当直の看護師に見つかったら、面倒だ。

 そうは思ったが、冬の乾燥した空気の中で一晩過ごせという方が辛い。それだったら、多少のリスクは承知で買い出しに行った方が良いに決まっている。

 僕は財布を取り出し、静かに病室から出た。





 夜の病棟は、信じられないくらいほど静かだ。

 明かりといえば精々、非常口の方向を示す緑色のアレくらいなもの。あとは窓の外から入り込む月明かりや街灯のおこぼれだけだった。

 足元の覚束ないそんな道を、記憶を頼りに進んでいく。

 すると待合スペースに突き当たる。ここまできたら、自動販売機はすぐそこだった。機械からの明かりもついている。

 僕はもう迷わずに、財布を手に自動販売機へと向かった。


「とりあえず、水でいいか」


 そして、一番安価な水を購入する。

 思った以上に大きな音が響き、一瞬だけビクリとした。

 しかし特に人の気配は感じられず、ホッと胸を撫で下ろす。が――。


「ん……?」


 取り出し口から、水を手に取った時だった。

 どこからか、ひゅうひゅう、という呼吸音が聞こえてくる。

 待合スペースの方から、だろうか。僕はほんの少しの恐怖心から、そちらへと足を運んだ。すると、物陰から見えたのは……。


「女の、子……?」


 どこか息苦しそうにしている、中学生くらいの女の子だった。

 腰まである長い黒の髪。円らな瞳にかかりそうな前髪は、額にかいた汗でべったりと張り付いている。着ているのは桃色のパジャマで、どうにも歳不相応に幼い印象だった。それでも、少なくとも幽霊の類ではないと分かり、一安心だ。

 しかし、そうなってくると今度は別の問題がある。

 僕は買ったばかりの水を手に、その女の子もとへと歩み寄った。


「大丈夫……?」

「え、あ……」


 こちらが声をかけると、か細い声で少女は言う。

 そして、くりくりとした瞳を僕に向けるのだった。


「あの、その……」

「いいから。これ、飲みなよ」


 これは、純粋な心配から。

 僕が水を手渡すと、彼女は何度か瞬きしてこう言うのだった。


「あの――」



 意を、決したように。





「わたしと、友達になって!」――と。





 これが僕、九条久弥と。

 少女、御堂茉奈との出会いだった。


 


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