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育てる星 ─A─


今回取材をしたのは「惑星アニマ」

この星では以前から多くの動物を保護しており、観光星としても人気を博している。




━━録音開始━━




──本日は私共の取材を受けて下さり、ありがとうございます。


「いえいえ。この銀河でも名高い彗星報道社からの取材などこちらからお願いしたいくらいですよ」


──さっそくですが、取材を開始しても宜しいですか?


「勿論です。私にできる限りのことをお答えしましょう」


──それでは、まず貴方のことについてお聞きします。名前、役職を教えて下さい。


「レイヤ=ケーと申します。現在我々がいるGブロック、ひいては森林部門の管理長を務めています」


──森林部門?


「はい、陸上グループの中では他にも平原、丘陵などに分かれています」


──どのようなお仕事を?


「私の仕事は主に作業員の管理ですね。人材を適切な場所に割り振ります。しかしそれを見てもつまらないかと。本日は……作業員の仕事について取材にいらっしゃったのでしょう?」


──まぁ有り体に言ってしまえばそうなりますが……


「ふふ。それでは早速、現地に移動しましょうか。移動手段はこちらで準備させて頂きます」


──ありがとうございます。しかし、移動を始める前に1つ、宜しいですか?


「何でしょう?」


──その服装はどういった意図のものなのでしょうか?随分とその……モコモコとして、暑そうなのですが。


「ああ、防護服ですよ。これで全身を(おお)わないとケガしてしまいますから」


──そんなに凶暴な動物がいるのですか!?


「いえ、我々がケガするのではなく──動物逹(かれら)がケガするのを防ぐんです」


──成る程。それでフワフワしているのですか。


「ああそうだ、貴方の分の防護服も用意してあるんですよ」


──え?


「どうぞ、これを」


──また随分と…その……可愛らしい………


「遠慮せずにどうぞ、なんならプレゼント致しましょう」


──結構です。


((しばら)くガサゴソとした音だけが録音される)

[なお、担当記者は男性である]


──思ったよりスースーしてますね。


「それでは、あちらの『ボール』にどうぞ」


──『ボール』?


「我々が用いる移動手段です。詳しくは…移動しながらでも」


(足音、小さな機械音などが聞こえる)


「こちらの乗り物は透明で、柔らかい素材でできており、360º全てを見渡せるようになっています。詳しい仕組みは省略しますが……乗り物自体が回転することで移動できます。勿論乗っている我々自身は揺れを感じないでしょう?」


──はい、恐ろしく静かですね。


「この星は見ての通り殆ど道といった物が無いため、どんな場所でも同じ様に走れるこの乗り物が用いられているのです。ああ、素材が柔らかいのは防護服と同じ理由です」


──何の操作もしていませんが、自動運転なのですか?


「いえ、動物達で道を塞がれることもあるのでそれはできません。『ボール』は操縦者の脳から出る電気信号を受け取って走っています」


──電気信号?


「ご存じかと思われますが、生物は筋肉を動かす際に脳から神経を通して電気信号を送り、指示を出します。『ボール』はその信号を読み取り、私の願った方向へ走ってくれるのです。ついでに言うと『ボール』の動力源もこれに近いです」


──近い?


「生体電位、という物はご存じでしょうか。人間、と言うより生物は体中で電流を発生させています。身近な例で言うと心電図でしょうか。手術の時にピッピッと鳴っているアレです。あれは心臓が動くときに流れている電流を感知しているものです。さて、電気が流れているということはそこにエネルギーがあるということです。我々はそのエネルギーを最高効率で利用し、遂には乗り物を動かせるようになりました。これによって何人乗っても『ボール』は動きます。何しろ人が多いほど多くのエネルギーが手に入るわけですからね」


──すごい技術ですね。


「全ての動物を守ることにくらべたらこのくらいは……まだ到着には時間がかかりますね。では今の内にこの星について大雑把な説明を致しましょう」


──宜しくお願いします。


「まず、この星は保護星と呼ばれるほど動物の保護に力を入れています。勿論、陸上動物だけでなく水中動物も保護しています。昔からこの活動を続けていたせいか最近では近隣惑星から絶滅危惧種となった動物を贈られることもあり、現在もこの星に生息する動物の種類は増え続けています」


「我々人類は生活を可能な限り自然に合わせ、動物への悪影響が出ないようにしています。尤も絶滅しそうな動物は優先的に扱い、その動物を補食する生物の数を減らす、といった対応をとることはありますが」


──生態系の維持を行っているわけですか。


「新種の動物が外星(そと)から贈られた時は大変なんですよ。まずは何を食べるのかを調べなくちゃならないし、逆に何に食べられるのかも調べなくちゃならない。時には海洋グループとも協力して、何とかやっています」


──海洋グループ、ですか?


「見ての通り陸地が多いこの星ですが、海にも多種多様な生き物が住んでいます。我々は海洋生物に関しても保護をしています。観光客の中には(そちら)を目的にしていらっしゃる方も()られるんですよ。……ただ、私の管轄からは離れているのであまり詳しいことは分からないんですけどね」


──そちらの方も後日取材したいと思います。


「それは良いですね!私から話は通しておきましょう。きっと歓迎してくれますよ」


──楽しみです。


「あっ、見えてきましたよ。あの大きな木の所です」


──?何もありませんが…


「ふふふ。そうですね。地上には何もありません。動物達が寝床にしたら困りますから」


──では、どこに?


(機械音が停止)

(乗り物のドアが開く音)

(二人の足音)


「こっちです。この木から少し離れた場所に………っと。ほら」


──階段、ですか。どのくらい深いんですか?


「施設の天井が大体地下10m地点になってます。意外と穴を深く掘る動物って少ないんですよね」


──10mもあれば充分、と言うわけですか。


「はい。…立ち話もなんですしどうぞ、入っちゃいましょう」


──それでは、失礼します。


「蓋を閉めると割りと暗いんで足元気を付けてください」


(しばらく、二人の足音)

(ドアの開閉音)


「この通路を突き当たって左の……この部屋です」


(ドアの開閉音)


「ようこそ、我々の作業場へ」


──これは……すごい………


「合計で80個のモニターを使い、24時間体勢で監視しています。さすがに壁3面がモニターだと大変ですけどね。それでもこの部屋だけで森林部門のA~Iブロック全てを管理しなければいけません。……っと、そうだ」


「イナバくん、それにイクナくん。こちらが本日取材にいらっしゃった彗星報道の方だ。現場の視点でしか分からないようなことがあったらどんどん言ってくれ」


「ああ、すみません。この二人は作業員のイナバとイクナです。二人とも真面目で──」


《プルルップルルッ!プルルップルルッ!》

(電子音)


「はい、こちらレイヤです」


《緊急──です。最─の──がし─ま─た。至急、ば──う室へ───します》


「すみません、急用ができました。今日はこれで席を外させて頂きます」


──何やら大変そうですが、それを取材させて戴いても?


「部外者立ち入り禁止の区間ですので申し訳ありませんが……」


──いえ、無理にとはは言いません。


「助かります。後のことはこの二人に任せますので。……頼んだぞ」


「「はいっ!」」


(ドアの開閉音)

(急いでいるらしき足音)


「それでは、ここからは僕たちが」


「あたし達はこの部屋から毎日監視をして、何か異変が無いかチェックしているの」


「勿論人の目だけでなく、コンピュータによって個体数は常に把握しています」


「それで、特定の種族が増えすぎたり減りすぎてたりしたらその調整もしているわ」


──調整、とは具体的にどうやって?


「増えすぎた種族はある程度間引けば良いだけです」


「どの個体を残すかは慎重に決めるけどね」


「減りすぎた個体は……一時的に保護、もしくは天敵を間引きます」


「自然の姿が大切だって考えがあるからあんまり直接の保護はしないんだけどね」


──24時間体勢での仕事と伺いましたが、何人でこの部屋を回しているのですか?


「6人です。2人で8時間ずつですね」


──仕事は、辛くはないですか?


「僕たちは皆、動物が大好きなんです」


「とっても大変な時も、動物(みんな)の姿を見ると何となくだけど『頑張らなきゃ』って思うの」


「この星で働いてる人達は全員、動物に人生捧げてるようなものですよ。ま、誰もそんなの気にしちゃいないんですけどね!」


──仕事が生きがい、と言うよりも生きがいが仕事になった、みたいな感じですか。


「そうですね。ここで働けて幸せですよ」


──それでは、質問の内容をガラッと変えて……あのモニターに写っている、あの生き物は何ですか?


「これですか?この動物はアレクマノと言いまして──」


「宇宙でも珍しい3足歩行の動物なの。人間で言う右手の部分が前足として残って、左手の方は高い場所に届くわ」


──3足歩行、ですか。


「確かに珍しいけれど、とっても合理的なの。人間は当たり前のように2足歩行だけれど、それは本来とっても難しいことよ。だから彼等は手を1本加えることでバランスをとり、もう一方の手がより高いところに届くようにしたの。ほんとに生き物の進化ってステキよね!」


──映像の…アレクマノ、でしたか?彼は何をしているんでしょうか?


──先程から木に頭突きしていますが……


「さあ?頭がかゆいのか……何ででしょうね」


「あたしも分かんないわね」


──それでは、あちらの動物は?


「ああ、あの子はマヌと言って──」


[本題から離れた為省略]


──そう言えば、動物の首に黒いアザがついていることがありますよね?


「ああ、それですか。それは何て言うか……そう、識別番号みたいなものです。あれを使って個体数の管理をしています」


──アザがない個体があるのは?


「産まれたばっかりとか、そんなんじゃないかな?」


「そうだと思います……そろそろ時間も遅いです。寝る場所へ案内しましょう」


「たしか、2日かけての取材だったわね?」


──はい。明日の昼頃には終わらせられるかと思います。


「夕食は部屋に運びましょう。風呂は部屋についているのでご心配なく」


「イクナ、後は任せたよ」


「あいあいさ~!」


「それじゃ、僕が案内します」


──あ、その前に、1つだけ良いですか?


「何でしょう?」「何かな?」


──どうして、室内でもこの……防護服を着ているのですか?


「いつでも外に出られるように、と言うのもありますが…それより、」


「かわいいもんねっ!」


「…ではなく、僕たちは人の顔を見るのが苦手なんですよ。動物に囲まれた方が人に囲まれるより落ち着きます」


──そんなこともあるんですね。


「それじゃ、行きましょう」


(ドアの開閉音)

(しばらく二人の足音)


「この部屋です。何かあったら部屋の中にある有線電話でお願いします。夕飯は……10分後くらいですね」


──今日はありがとうございました。


「こちらこそ、ありがとうございました。明日も宜しくお願いします。それでは、失礼します」


(ドアの開閉音)


──とりあえず、脱ぐか。


[数分後]


──暑くはないとは言え、この着ぐるみは見てるだけで暑苦しいような気がしてしょうがないんですよ。


──ちなみに、私の防護服のデザインはフクロウがモデルみたいですね。


──互いに顔を隠しての取材は中々慣れませんね。


──やはり表情が見えないとどこまで聞いたものか判断に迷います。


(ドアのノック音)


──どうぞ。


「失礼します。こちら夕食となっておりま──キャッ!」


──どうかなされましたか?


「お客様、できれば顔を隠して頂けますか?」


──ああ、成る程。そう言うことですか。


「……ふぅ。失礼しました。こちらが夕食です。食べ終わったら通路の台に置いておいて貰えれば、こちらで回収します」


──ご丁寧に、ありがとうございます。


「失礼します」


(ドアの開閉音)


──本当に変わった方達だ。


──今度の人はアリクイの服でしたね。


──さて、ご飯ですが……至って普通ですかね。


──ああでも、この肉は見たことがありません。


──明日、聞いてみましょうか。


[しばらくの間、食器の音]


──ふぅ、おいしかった。


──これから食器を置いてきて……そのまま潜入取材へ移ろうかと思います。


──万が一を考えて、ここまでの記録は先に送っておきます。


──それでは、また。




━━録音終了━━




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