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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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獣帝は理に当てはまらず

あらすじ

リュージーンの説得の甲斐あって、道周たちは獣帝に近付くことができた。のだが、獣帝はどうやら気が済んでいないらしく、瞳を輝かせてとある提案をするのであった。

「ぜひ、俺たちをグランツアイクで雇ってほしい」


 想定外の回答に耳を疑ったのは、何も道周たちだけではない。

 相対していたバルバボッサでさえ、思いもしない返答に驚嘆していた。


「……は? 今、何と言った……?」

「俺たちは使者と言っても非公式だ。こしらえられた宿もない身である。だから、獣帝の世話になりたいのだが、「タダで」なんて図々しいことを言うつもりは毛頭ない。

 俺たちはグランツアイクで働き、その対価をもらう。そうして、イクシラからの正式な使者を待つ」

「こ、交渉はしないのか? そのために先行して来たのでは?」

「あ? 確かに話はしにきたが、「交渉」だなんて俺は一言も言ってないぞ」

「た、確かに……」


 バルバボッサはリュージーンに言い包められていた。腑に落ちていないような、何とも言えない表情ではあるが、筋の通った言い分にひとまずは納得する。

 バルバボッサが閉口した隙を逃さず、リュージーンはさらに捲し立てる。


「さっきの話にあったが、俺の後ろに控えている3人は夜王を打倒した当人たちだ。その実力は、俺の名誉にかけて保証しよう。

 どんな仕事を任せるかは、獣帝サマの裁量次第だな……」


 満天の営業スマイルで、リュージーンはここぞと売り込みを入れる。

 思考を乱されたバルバボッサは、駄目押しに心を揺らされていた。

 しかし、「豪快・豪傑」が形どったような快男児、バルバボッサ・バイセに迷いなどは似合わない。ややこしい駆け引きと、細かな損益を切り捨て、豪快な鐘声で決断を告げる。


「よし気に入った! あんたの名は!?」

「俺はリュージーン。後ろのは、向かって左からマリー、ミチチカ、ソフィだ。

 それで、あれはウービー」

「ウービーは知っておるわ!

 いや、そんなことはどうでもいい。

 リュージーンの提案、乗ったぞ!」


 バルバボッサは、爽快なまでの快諾を示した。

 控えていた道周たちは内心でガッツポーズをしていた。マリーは我慢できずに口元が緩んでいる。

 「グランツアイクと同盟を結ぶ」という当初の目的の達成には程遠いが、第一歩は順調に踏み出すことができた。この成果は大きい。

 譲歩をもぎ取ったリュージーンは、誇らしげな表情だ。緊張で張り詰めた心の弦を緩め、安堵の溜め息とともに姿勢を崩した。

 緊迫していたバルバボッサも姿勢を崩し、無邪気な笑顔である提案をする。


「じゃ、ここはひとつ手合わせと行くか!?」

「は……? テアワセ?」


 油断したリュージーンは、馬鹿みたいにオウム返しをする。油断していたとはいえ、バルバボッサの発言の理解に苦しむ。

 後ろに控えていた道周たちも、聞き間違いかとざわついた。しかし、銅鑼のようなバルバボッサの大声を、聞き間違えるはずがない。

 道周たちのすっとぼけを気にも留めず、バルバボッサはさも当たり前かのような面でのたまう。


「あんたらを雇うなら、実力は知っておきたい」

「そうだな」

「だから、おれが直接手合わせしてやろう」

「ちょっと待て」

「どうしてそうなった」


 リュージーンとマリーの講義を受けても、バルバボッサは不思議そうな表情を崩さない。どうして異を唱えられているのか、根っからの戦闘民族である獣帝は、一般人の心が分からない・

 しかし、戦闘民族であれば他にもいる。

 「仕方ない」と表情を輝かせ、各々の武器を抜いた2人が席を立つ。


「おいミチチカ、何をやる気を出しているんだ」

「ソフィも、武器を仕舞ってステイしましょねー」

「なんで私はあやされているんですか?」


 1人味の違う説得を受けたソフィは文句を垂れるが、聞き入れるマリーではない。

 焦った様子のリュージーンは道周の肩を掴み、力づくで椅子に押し込んだ。


「相手はグランツアイクの領主、かの獣帝だぞ。夜王と同等、もしくはそれ以上の相手だ」

「だからこそ、そんな相手と手合わせができる機会を逃せるか。ましてや、夜王のときみたいな殺し合いじゃない。やらないという選択はないやろ」

「だー。これだから戦闘狂は!?」


 納得できないリュージーンは怒りを叫ぶ。しかし、道周とソフィの心には全く響かない。


「話はまとまったようだな」

「これのどこを見て、そう思ったんです!?」

「ウービー、西の高原まで案内してやれ」

「またオレかよ……。早く帰りたい」


 だが、バルバボッサは抗議の一切を受け付けない。この辺りの強情さは、いささか夜王と通づるところがある。


「領主ってやつは、戦闘民族はこれだから嫌なんだ!」


 リュージーンの憤慨も、やる気を出したバルバボッサの鼻息に掻き消された。

 リュージーンを見込んだバルバボッサは、その首根っこを巨掌で鷲掴みにする。本人の是非を聞き入れることは全くしない。

 リュージーンの抵抗も虚しく、バルバボッサは決戦の高原へ先だった。


 冒険の顛末を語るうちに、天頂の太陽は地平線に脚を掛けていた。夕暮れの茜が大自然を赤く染める中、道周たちは獣帝と対峙するのであった。

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