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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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巧みな罠

あらすじ

ウービーに一服盛られた道周たちは、成す術もなく昏睡に陥る。突如として訪れた危機を、どうやって乗り越えるのか――――?

「何だよこいつら、ただの旅の芸人集団かと思えば、それなりに金を持ってるじゃないか」


 眠り耽ったギュウシの間を掻き分け、ウービーは荷台の中に身体を滑り込ませる。雑多に散りばめられた荷物を漁り、金目のものを物色する。

 大事に木箱に入れられたタール硬貨を鷲掴みにして鞄に移し替える。勢い余って零れ落ち、転がる小銭を慌てて拾い上げる。

 ウービーは硬貨に続いて、値の張りそうな貴金属を探す。こちらは期待していたほどの成果はなく、口を尖らせて舌打ちをした。

 あとは荷物の隙間に物資を詰め込み、荷台から身軽に降りた。

 焚火は依然として勢いよく炎を上げている。囲むように伏して寝入る一行を横目に、ウービーは鼻で笑った。


「結構な強者だろうが、眠ってしまえばこんなものか。呆気なかったな。

 あとは獣どもの餌にでもなればいい……」


 捨て台詞を吐き捨て、ウービーは弓を拾い上げる。そして横に転がしていいた矢筒を背負い直し、軽快な足取りで踵を返した。


「――――おい待てよ」

「げっ!?」


 霞のように逃げ去ろうとするウービーの背中に、不穏な言葉が投げ掛けられた。

 慌てて振り向いたウービーは、顔を真っ青にしていた。背筋には冷汗が滝のように流れ、総毛立たせてウサ耳を小刻みに震わせる。

 ウービーは恐る恐る、蒼白な顔で振り向いた。


「よう。調子良さそうだな」

「ど、どうして……。眠っていたはずじゃ……?」

「どうしてって、どうしてだろうな?」


 怒髪天を衝く道周は、怒りに眉を戦慄かせて笑顔を浮かべる。怒気と笑みが混濁した表情は、本能に危険を予知させる。

 ウービーが次に取った行動は、迅速な退却であった。


「さらばだ! 森の立地で、オレに追い付けると思うな!」

「ならば、逃がさなければいいだけです!」

「―――っ!?」


 跳躍したウービーが、垂直に落ちて地面に叩き付けられた。

 ウービーが嘔吐感を催した内に、その上にソフィが圧し掛かった。

 うつ伏せになったウービーに馬乗りになり、容赦なく短剣を首筋にあてがう。こうなったらソフィは本気だ。不審な動作を少しでも見せれば、一息に頸動脈を割断するだろう。

 諦めきれないウービーだったが、抑え込まれては成す術がない。少しの抵抗を見せた後、力なく首とウサ耳をしおらせる。

 すると、どこからともなくリュージーンが現れた。ウービーの目線まで顔を提げ、温度のない声音を突き付ける。


「さ、観念して荷物を返しな。ついでにお前の有り金も吐き出せ」

「違うだろ」


 脅しをかけるリュージーンを、道周が鋭くしばく。

 力の強い叩き突っ込みに見舞われながらも、リュージーンは警戒を緩めずにウービーに視線を向ける。


「仲間はどこだ? 今すぐ降伏させろ。そうすれば命は助けてやる」

「仲間なんていねえよ」

「嘘は止めておけよ。1人で盗みなんて考えにくい。どこかに仲間を潜ませているんだろう?」

「だからいねえって。もし仲間がいるのなら、すでに飛び出していはずだろ」

「機を窺って潜んでいることだって有り得る。そう簡単には信用しない」


 ウービーに言い逃れの余地はなかった。

 リュージーンの厳しい追及に、ウービーは返す言葉がなくなる。

 リュージーンから言葉攻めにあい、馬乗りになったソフィに剣を突き付けられる。この緊張感と恐怖心に、怯え戦慄する。

 見かねた道周がリュージーンを引き上げ、情けをかける。


「勘弁してやれよリュージーン。仲間がいたら、俺たちが眠ったところで出てきているはずだ。この期に及んで、庇うものでもない」

「それもそうか……」

「ソフィも剣を納めてくれないか。弓は弦を切って矢は折る、隠している武器を巻き上げて縛ってしまえば無力化できるし、そっちの方が緊張せずに話し合いができるってもんだ」

「ミチチカがそう言うのでしたら……」


 道周の説得を受け、2人はウービーを開放した。そして道周の言ったとおりに隠し武器ごと取り上げ、ウービーを縄でグルグル巻きにした。

 両手両足を縛られ、ウービーはミノムシのような格好になる。ソフィの魔法で硬度を強化された縄を破ることはできず、道周たちに囚われた。


「おーい、起きろマリー!」


 ソフィとリュージーンがウービーを縛っている間に、道周はマリーを起こす。頬を叩き肩を揺すられ、ようやくマリーは重い瞼を開けた。


「――――うぅん……、ミッチー……?」


 マリーは眠そうに眼を擦りながら、気持ちよさそうに欠伸をする。

 額に怒りマークを浮かべ、ウービーを取り囲むソフィたちが視界に入ると、やんごとなき事態が発生していることには勘付いたようだ。

 そして何よりも、ミノムシのように縄に縛られたウービーを目の当たりにして、大方の状況を理解した。


「緊縛ショタ!?」

「そうじゃない!」

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