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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
88/369

夜営の飯

あらすじ

87話は、一体何だったのだろうかね……。

『反省しています』


 虫のさざめきが木霊する夜の森の中、開かれた場所で一同は宿を展開した。テテ河の河原から荷車ごと移動し、狩った獣の山を築き上げている、その片隅でマリーは猛省していた。首から反省の言が書かれた看板を提げ、正座をして口を固く結ぶ。


「――――で、お前は誰なんだ?」


 暴走したマリーを沈め、息を切らした道周が問い掛ける。

 ようやくまともな言葉を投げ掛けられ、狩人君は鼻を鳴らした。腰に手を当て背筋とウサ耳をピンと立てる。背中の矢筒か乾いた音を立て、小さな身体を大きく見せる。先ほど剥がれ落ちた誇張の仮面をつけ直し、弱気なキャラクターを覆い隠す。


「オレはウービー。この辺で獣を狩って、それを売って生計を立てている「狩人」だ」


 ドヤァ、と言わんばかりのしたり顔で胸を張る。その背後では道周たちが狩ったモルグ12頭とワニが1頭積み重なっている。どうやら、この成果はウービーにとって大漁のようで、かなりご満悦の様子だ。


「私はソフィと言います。この獣たちは、食べる分以外は分け前でお渡ししますよ!」

「俺はリュージーン。分け前として渡す代わりに、いくつか要望がある」

「おう、何でも言ってくれ。オレに手伝えることならなんでもするぞ」


 ソフィとリュージーンがウービーに対して交渉を持ちかけた。マリーの暴走中、手持無沙汰だった2人は、持てました余力を振るう。

 ウービーはとても気分がいいようで、調子よく交渉を受け入れた。

 しかし、ウービーはまた下手なことを口走ったようで、傍らのマリーが猛禽類のように瞳を光らせた。


「今何でもって……?」

「ヒィ」

「止めんか。話が巻き戻る」

「ごめん」


 マリーの悪乗りを道周が諫めた。マリーは冗談っぽく舌を出して誤魔化すが、ウービー本人は真に受けているようだ。前進の毛を逆立たせ、マリーを威嚇するように唸り声を上げる。

 見かねた道周はマリーをソフィたちの元に送り付け、交渉を切り出す。


「俺は道周、あっちの珍獣がマリーだ。

 俺たち4人は訳あってイクシラからグランツアイクまで来た。要件は1つ、獣帝に会いたい」

「ほう……、イクシラから親方に会いに、ね……」


 すぐにキャラクターを作り直したウービーは、意味ありげに間を空けて考え込む。顎に手を当てウサ耳を動かし、深く熟考すると顔を上げて道周の目を見上げる。


「要件は分かった。だが、親方……、獣帝は気まぐれでな、「会いたいときに会えず、会いたくないときに会う」。そんな天災のようなものなんだ。オレの恣意でどうにか融通できるものじゃない。

 オレに出来るのは精々、道案内と手助けだけだ」

「んん? 獣帝の居城があったりはしないのか?」

「あるにはあるが、本人は常駐してない。言っただろ、親方は気まぐれだ」

「んん……。参ったな」


 予想外の返答に道周は音を上げる。しかし、考えても仕方がないのなら、取れる最良の選択をするのも、道周の長所の1つだ。


「分かった。じゃあ、獣帝の居城がある街まで道案内を頼みたい」

「それはできないな」

「は?」


 ウービーの返答に、道周は思わず怪訝な顔をする。

 ウービーは慌てて道周を諫め、言い分を述べる。


「まぁ聞いてくれ。親方の居城は、ここから向かうと10日はかかる。オレの場合、狩場であるここに戻るまで20日。そんな期間、本業の狩りを止めて道案内をするには報酬が少なすぎる」


 ウービーは慌てて獣たちの山を指さした。そして続けざまに言葉を並べる。


「分け前から考えて、近くの街までなら案内してやる。それで手打ちだ」

「……仕方ないか。それで交渉締結しよう」


 了承をした両者は握手を交わした。納得したようなウービーの顔つきに比べ、獣帝の元までの距離を突き付けられた道周の顔は暗い。

 すると、沈んだ道周に対して、ソフィが木の器を差し出した。深底の器には湯気の立つスープが注がれており、スパイスの香りが鼻孔をくすぐる。


「仕方ありません。今日は休みましょう、ミチチカ」

「そうだな。今後の方針は、明日考えるか」


 道周は思考を切り替え、晩御飯の席に向かう。その後ろをウービーが付いていき、一同の並べた晩餐に目を丸くする。


「す、すげえなあんたら……」

「ウーたんもどうぞ」

「ウーたん……?」


 マリーがウービーのために席を空ける。席といっても、切り株のテーブルと丸太の椅子だ。焚火を囲むように設置された簡易的な晩餐会でありながらも、並べられた食にウービーは目を輝かせる。

 スパイシーな香りと具だくさんのスープに、先ほど狩ったモルグの焼肉、炒った雑穀をトマトソースとあえた「雑穀チャーハン」である。その他、小鉢にはイクシラ特性の漬物が盛られ、狩人の食卓では滅多にみない彩があった。


「さぁ、召し上がれ」


 マリーはさも当たり前かのようにウービーの隣に座る。そして器とスプーンを手渡した。

 しかしウービーとて、相伴に預かるだけではない。すぐに身を翻して鞄の中に手を入れて探ると、麻袋に入れられた燻製チップスを差し出す。


「オレの家で作った保存食だ。よかったら食ってくれ」

「わぁ! ありがとー!」


 満面の笑みで、マリーが燻製チップスを食卓に並べる。

 道周とリュージーン、ソフィの3人も席に着き、並べられた夕食をつつく。


「いただきまーす」

「いただきます」


 合唱したマリーと道周がスプーンを動かす。スープとチャーハンを口へ運び、味を噛み締め感嘆を漏らす。

 2人に続いて、リュージーンとソフィも手を付けた。


「前々から気になっていたが、お前らの「いただきます」って呪文は何なんだ?」

「俺たちの世界の礼儀だよ」

「食材と作ってくれた人への感謝だよ」

「素敵な言葉ですね!」


 和気あいあいと歓談し、4人は夕食を進める。

 ウービーも気後れをしながら、遠慮がちにスプーンを動かす。雑穀チャーハンを一口食べると、目を輝かせて頬を緩める。


「旨い――――!?」

「でしょ。これミッチー考案なんだよ。ミッチーって、以外に料理できるらしいんだよねー。以外ー」

「一言余計だぞマリー」


 ウービーも歓談の中に混じり、笑顔を見せて夕食を食べ進める。雑穀チャーハンにモルグの肉を乗せてボリュームアップ。次にスープの香料で味変をして、ウービーが進めた燻製チップスで鼻を楽しませる。

 焚火の火の粉が飛び立ちながら、十数分が経過すると、


「…………」

「zzz……」

「スゥゥ……」

「ガァァァ!」


 道周たち4人は深い眠りの中にいた。一向に目覚める気配も見せず、手に持った器からは温かい夕食が零れ落ちている。


「……ふっ」


 ただ1人、赤目を光らせた狩人がほくそ笑む。

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