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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
87/369

可愛いは正義

あらすじ

なにこれ

 マリーの中にある「可愛いメーター」が振り切れ、止めどない愛くるしい感情が溢れ出す。堰を切った情熱は、悪い方向に暴走する。


「私、ウサ耳なんて生で初めて見たよ。本物かな? 触っていいかな? ショタだけど、法的にセーフかな?」


 興奮したマリーは、鼻息を荒くして一息に捲し立てる。暴走したマリーに免疫のある道周ですら若干引いており、ソフィは満天の苦笑いでマリーを見詰める。

 しかし、この場で一番迷惑を被っているのは誰であろうか。そんなこと、考える暇もなく一目瞭然だ。


「な、なんだそいつは……。金毛の女は、オレのことを言っているのか……?」


 ウサ耳の狩人はドン引きである。先ほどまで淡々と魔法を放ち、リュージーンに辛辣な言葉を言い放っていた相手が、まるで別人のようにトチ狂っている。

 シリアスブレイクをしたマリーを、道周が諫める。


「よーし、落ち着けマリー。そういうのは順序と雰囲気を大事にしろ。少なくとも今じゃない」

「そ、そうだよね……。ごめんね、少し取り乱し」


 ピコッ。


 狩人のウサ耳が揺れる。暴走したマリーの熱が収まり安堵したようだ。直立していた耳が、稲穂のように倒れた。

 喜怒哀楽を直結して動くウサ耳に、マリーの自制心はぶっ壊れた。余りにも単純で愛くるしい仕組みに、感情が大爆発(ビッグバン)を起こす。


「ごめん無理ぃ! ちょっとモフってくるね! これで死ねたら本望!」

「なわけあるか!? 落ち着けマリー。深呼吸だ。マイナスイオンを取り込んで、邪な気持ちを浄化しろ!」


 理性のたがが外れたマリーと、制止に力を注ぐ道周が押し問答をする。

 その迫力に圧倒され、ウサ耳の狩人はドン引いていた。


「どうにかしろよ。話が進まんだろ」

「私にはどうにもできません。ミチチカにお任せしましょう」


 呆れ返ったリュージーンとソフィは、他人事のように諦観を決め込んでいた。


 マリーと道周の押しつ押されつの問答は、その後数分続く。

 道周は腕力でマリーの暴走を抑え込み、何とか説得に成功した。


「――――……、失礼しました」


 我に返ったマリーが、謝意を込めて深々とお辞儀する。

 ソフィとリュージーンはようやくその場に意識を戻し、本題に戻ることができた。

 ことの元凶、もとい一方的な被害者であるウサ耳の狩人は、怯えた表情で様子を窺う。


「お、終わったか?」


 小動物のように身体を震わせ、木の影から顔を覗かせる。白いウサ耳と髭をしおらしくへたらせ、未だ解かぬ警戒心で瞳を向ける。

 庇護欲を駆り立てるような表情が、再びマリーの胸を打った。


「ヴッ! かわっ――――!」

「止めろマリー! もう一回同じ下りをさせるつもりか!?」


 暴走の影を見せたマリーを、道周は焦って引き留める。「それ以上先は地獄だぞ!」と情熱的に言葉をかけ、何とか理性を引き留めた。


「なんだ!? まだなのか?」

「うるさい! ほとんだお前のせいだぞ! さっきまでの粋がった口調はどうした。そんな可愛い振る舞いをするな!」

「えぇ!?」


 完全にとばっちりだ。

 ウサ耳の彼の取り繕った振る舞いは崩れ去り、本性が露わになっているかもしれない。しかし、根本的にはマリーの、衝動的暴走発作が悪いことに変わりはない。

 全く進展しない状況に、リュージーンとソフィは思考を停止して観戦していた。


「よくこれで、白夜王の美貌を耐えれたものだな」

「マリー曰く「死ぬ気で慣らした。セーネの笑顔を犯す輩は決して許さない所存」だそうです」

「苦労してんだな……」


 ほとほと呆れたリュージーンには、吐く溜め息もない。遠い瞳で、沈む太陽を眺めた。

 その間も、マリーと道周の拮抗は続く。

 なぜか鬼気迫る表情の2人に気圧され、ウサ耳の狩人は困惑しておろおろしている。


「オレが一回出直そうか? 姿を現すところから」

「弱気になるな! そんなことだから「可愛い!」なんて言われるんだ。シャキッとしろ!」

「そ、そうだな! オレ頑張るぞ!」


 狩人が意気込むと、感情に比例してウサ耳が起立する。その様子が、暴走するマリーに油を注ぐ。


「かわっ!」

「いい加減にしろマリー!」

「……俺らは狩った獣の血抜きでもしておくか」

「そうですね」


 この押し問答はしばらく続いた。

 リュージーンとソフィは、最早他人の体で獣の屍の処理を始めた。

 道周の説得が功を奏し、マリーは何度か小康状態に落ち着く。しかし、狩人君の弱気な姿勢がマリーの庇護欲に点火し、何度も同じ下りを繰り返した。

 しばらくすると森は静かな夜の帳が下りたが、このやり取りはその後も続いたらしい。


 こんなことに1話割いた、作者の気持ちにもなってほしい。

勢いとノリと雰囲気で書きました。これが何かと聞かれたら、それは自分にも分からない。

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