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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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自然の掟

あらすじ

謎の声に突き動かされ、道周たちは反撃に出る。そして謎の声の主が、その正体を現した。

「死にたくなけりゃ殺せ。それが自然のルールだ!」


 森の闇から投げかけられる声に、道周たちは背筋を伸ばした。敵か味方かも分からない、正体不明の声だが、その言葉は真理である。

 居姿を正した道周は魔剣を振り上げ、迫るモルグを切り捨てた。頭を割られたモルグは、力なく白目を剥いて沈黙する。

 道周の行動に感化され、ソフィも続いた。燃えた枝を投げつけ、数頭のモルグが火の玉に包まれる。

 慌てたモルグはのたうち回って河に飛び込んで消火した。しかし、その身を河の主であるワニに啄まれ、新たな戦闘が発生する。


「ミッチー!?

 ソフィ!?」


 道周とソフィの反撃を目の当たりにして、マリーが驚嘆と抗議の声を上げた。


「許せマリー。これは食うか食われるかの戦いだ。弱肉強食の世界なんだよ」

「そうです。これ以上の譲歩は私たちの身を滅ぼします!」

「ぅっ……」


 道周とソフィの反論を受け、マリーは口を噤んだ。俯いたマリーに、一頭のモルグが飛び掛かるが、


「ガフッ!」


 飛んできた矢がモルグの脳天を貫いた。

 絶命したモルグを目にして、マリーは思考の海に落ちる。閉口したまま熟考し、自分に対して問い掛ける。


(これが、自然の摂理……。弱肉強食の世界だって言うなら、これがこの世界のルールだとしたら……!)


「あぁ、もうなるようになる!」


 腹を括ったマリーは、自棄っぱちにステッキを振り上げる。その動きに合わせ、光球が散らされた。

 疎らに打ち出された光球がモルグの群れを蹴散らした。群れの陣形を崩され、はぐれたモルグを狙って道周が特攻を仕掛けた。


「おらっ! 喰らえ! せい!」


 河原を蹴り、森林に飛び込んだ道周の怒声が木霊する。薄暗い影の中で、威勢よく振るわれる魔剣が光を放つ。

 群れを崩されたモルグたちも黙ってはいない。特効に出た道周が守っていた箇所を狙い、一気呵成に反撃に転じる。

 しかし、モルグの反撃を見据えていたソフィの守りは固い。魔法によって吹き荒ぶ逆風が獣の進行を阻み、止まったところを短剣で一閃していた。


「いいぞ! あんたら中々強いじゃんか!」


 森から降り注ぐの謎の声も、一行の暴れっぷりに興奮を隠しきれない。冷え切らぬ叫びのまま、次々と矢を放つ。

 宙を駆けた矢はモルグの四肢を貫き、動きが止まった個体をソフィが止めを刺した。

 一帯を身軽に動き回るソフィは、さすがエルフの血を引くだけのことはある。それも森林地帯で繁栄したエルフだ。森林地帯を故郷としていたソフィにとっては、馴染深い立地である。


「それっ!」


 枷を解かれ、調子の上がったソフィは一息に跳躍をした。後方に二回し、宙で身を返して螺旋状に捻る、いわゆる「ムーンサルト」を披露した。

 そして河原の石を踏み抜いて着地を魅せると、同時に短剣を振り下ろす。

 切っ先にはギュウシに噛み付いていたワニがいた。

 見事にワニの脳天を貫くと、ワニは力なく噛み付いていた顎を外した。


「こちら無事です! あとはモルグの群れを追い返したください!」

「ナイスだソフィ。あとは任せろ!」


 ソフィからの報告を受けた道周は、森の影の中から姿を現した。そして気前よく返事をすると、ペースを上げてモルグに襲い掛かる。


「そらぁ!」

「ガウ!?」

「ギャンッ!?」

「ブゥワ!?」


 道周が放った狂気の眼光を受け、モルグたちが戦慄した。

 最早どちらが獣か分からぬ勢いで、道周はモルグの群れを蹂躙する。

 地表のモルグを縦斬りで一閃し、樹上からの襲撃は打拳と魔剣を駆使して迎撃する。モルグによる全方位からの襲撃も、道周の縦横無尽な攻撃には歯が立たない。


「グゥゥ……、アオォォォン!!」」」


 すると、一頭のモルグが遠吠えを響かせる。その合図に合わせ、残ったモルグが反転した。


「ガッ」

「ギャ」

「ボフゥ」


 次々と駆けだしたモルグたちは、地上と樹上を自由自在に行き交い撤退した。目の前にいた獣の群れは森の奥に消えていった。

 その後の逆襲の気配もなく、道周たちは一息吐く。


「何とか追い返したようだな」

「……の、ようですね」

「皆おっつー」

「まぁな」

「「「黙れリュージーン」」」

「……」


 武器を降ろして、一行は荷車に再集合する。

 針のむしろにされたリュージーンは口を噤み、大人しく身体を丸めた。

 謹慎したリュージーンを他所に、道周とソフィはギュウシの怪我の手当てに当たる。


「あんまり深手じゃなさそうだけど、手当てできるかな?」

「この怪我なら、荷物の中にあった薬草で手当てできますね。

 しかし、すぐに荷車を引くのは厳しいかと……」

「よしよし、痛かったねー」

「ヒヒン……」


 怪我を労わるマリーがギュウシの頭を撫でた。広い額をワサワサと撫でられ、ギュウシは気持ちよさそうに鳴き声を上げる。

 怪我の調子を見たソフィは、渋々と次点の策を提案する。


「荷車の移動をしなければならないのですが、誰かが押すしかないですね」


 心苦しそうな視線のソフィに、道周は軽快に返す。


「問題ない。荷車はしっかり押すぞ! リュージーンが」

「そうだよソフィ。荷車を押すくらいなんてことないよ。リュージーンは」

「おい待て。どうして主語が俺なんだ」


 身の危険を察知したリュージーンが意を唱えるが、


「やるよな」

「ね」

「……しょうがねえぇな」


 道周とマリーの静かな圧に、リュージーンはぽっきりと折れた。

 目下の問題点を(高圧的に)解決したところで、一行は次の問題に移る。


「……で、手助けしてくれたお前は誰だ? まだいるんだろう?」


 道周は一転して、険しい眼差し委で森を睨む。その瞳には明確な敵意が含まれ、油断は一寸たりともない。

 道周の隣に控えるソフィも、短剣こそ仕舞っているが魔法を放つ姿勢に入っている。

 マリーも同じくステッキを抱え、慣れない威嚇の表情で警戒を怠らない。

 3人の警戒と注視を受け、謎の声の主が姿を現した。


「警戒するのは分かるが、実績を評価してくれ。オレはあんたらの手助けをしたんだ。穏健にいこうぜ」


 飄々とした声音で、キザなセリフが並べられる。声の主は矢筒を背負い、片手には木製の弓を持つ。森林地帯の環境に適応するような革の服に身を包むその姿は、「狩人」を彷彿とさせるものだった。

 しかし、その出で立ちに、道周たちは厳重な警戒心を抱くことはできなかった。

 なぜなら、


「……ん? どうした、珍妙なものを見たような顔をして」


 姿を現した推定狩人は、道周たちのリアクションに首を傾げる。

 すると、狩人の()()()()()()()()()()()が揺れた。


「ウ……、ウサ耳だ! ミッチー! ウサ耳ショタだよ!」


 興奮を抑えきれないマリーが絶叫した。

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