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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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新天地

あらすじ

イクシラの雪景色を踏破し、道周たちはグランツアイクを目指す。

新たな領域での出会いに期待を込め、新たな一歩を踏み出す。

 イクシラからグランツアイクへ向かうには、いくつものルートが存在する。イクシラの深い雪世界を掻き分けて進むのであれば、そのルートは無限大と言っても差し支えない。


 だが、道周たちが行く道はイクシラ内で一般的とされる、安全で円満なルートだ。

 エルドレイクの南側から伸びる街道は、商人たちが都市を行き来するために整備されている。薄い雪を敷きながらも、石畳の道は荷車で進みに最適である。

 何より、街を街を結んでいるため、一日中には必ず街に辿り着く。そこで宿を得ることができることが大きい。深雪が大地を覆うイクシラの雪原で野宿など、永眠待ったなしである。

 街と街、ときには町や村を経由して街道を突き進むと、やがてその道には果てが現れる。代わりに姿を現す河こそ、先の道を示す道標になる。


 イクシラとエヴァーの境界に当たる山岳を覆う雪が解けると、それが流れとなり河となる。数々の支流がやがて斜面に沿って合流すると、それが一つの大河を形成するのは自然の摂理であろう。

 いくつも存在する大河の一つが、道周たち一行を導く流れとなり、フロンティア大陸の西方へと向かう。

 山岳からイクシラへ、そしてイクシラからグランツアイクへ続大河の名は「テテ河」と呼ばれている。


 テテ河の上流周辺はただの氷河である。極寒の環境では住まう動物は獣毛豊かなモフモフだらけであった。肉食草食雑食問わず、ぬいぐるみのような外見にマリーがはしゃぎ倒したのはいい思い出である。その度に道周やソフィが慌てて制止し、獣の性質をよくよく見極めていた。

 そして下流に下るほど、植生が変化する。緑が増えてきた環境に従い昆虫も増え、それを食す鳥獣や小動物も増える。こちらでも愛くるしい小動物にマリーのテンションがぶち上がったのだが、羽音が喧しい昆虫に幻滅もしていた。上流に比べて大人しくなったマリーに、道周たちも手を焼かずに済んだという。



 そして一行は、現在テテ河の流れに沿って下っていた。

 大河の周辺の景色はみるみる変化し、いつの間にか雪のひとかけらもない森林地帯に突入していた。

 鬱蒼と生い茂る森林を掻き分け、ギュウシがけん引する荷車の押しながら前進する。

 しかし、進めど進めど街らしきものは見えてこない。

 代り映えのない道すがらに、さすがのマリーも苛立ちを隠せない。


「ねぇソフィ、いつになったらグランツアイクに入るの?」

「それがですねマリー、イクシラとグランツアイクの境界は曖昧なのですよ」

「ほう……。と、言うと?」


 ソフィの言葉に、荷車を押す道周が興味を示した。

 道周の問い掛けには、隣で荷車を押すリュージーンとソフィの2人で交互に答える。


「イクシラとエヴァーでは、領域の間に連峰があっただろ。超えてきた関所のあった山々だ」

「あぁ、俺がぶっ壊したあれか」

「ですです。あの地形を利用して、明確な「境界」と定義していました。

 しかし、ほとんどの領域にあのような自然的特徴があるわけではないのです。今回のように、段階的に環境が変化する場合では、明確な境界を引こうとすると争いの種になりますから」


 「どこの世界でも、争う理由は変わらないな」と、ソフィの説明を受けた道周が苦笑いした。道周の言葉にマリーも同調し、理解したように指を立てる。


「つまり、「なんとなく境界を引いている」ってことだね」

「違ぇよ」


 どや顔で総括したマリーを、リュージーンが一刀両断した。

 即答で否定されたマリーは、見るからに不機嫌そうに頬を膨らませる。


「どういうことだってばよ」

「境界だのなんだの「線」で考えるんじゃねぇよ。領域は「面」だ。

 面同士が重なっている箇所はあれど、それ以上の干渉は互いにしない。土着のコミュニティであり、その内側で完結しているんだ。領域の外側なんて、元から意識していない脳空どもg」

「はいストップですよ」


 熱くなって弁を振るうリュージーンをソフィが諫めた。強烈な張り手で後頭部を殴打し、強引に口を閉ざさせる。

 そしてリュージーンの説明を受け、道周は唸り声を上げる。


「分かるような、分からないような概念だな。要は、「今、俺たちはグランツアイクの中にいる」ってことか?」

「ですです。

 というよりむしろ、今は一帯を縄張りにしている猛獣たちを警戒するべきかと」


 笑顔を湛え、ソフィは懐に手を忍ばせた。ギラリと怪しい光をちらつかせ、愛用の短剣を逆手に構えた。

 道周はソフィの行動に一瞬の戸惑いを見せたものの、前の言動を思い出し口角を上げる。そしておもむろにブレスレッドを光らせ、蒼白の光の渦の中から魔剣を収束させる。

 マリーを除き、リュージーンでさえも面倒どうに腰の鉄剣を抜いていた。


「ん? どったのミッチー、ソフィ?」


 2人の突然の臨戦態勢に、マリーは大きく首を傾げる。

 先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、険悪な空気が一体に立ち込める。

 すると、醸し出された敵意に触発された唸り声が周囲から迫ってくる。


「ガルル……」

「グルル……」

「ゴルル……」


 腹を空かせ、涎を垂らした四肢を持つ獣が、群れを成して一行を包囲していた。

 オオカミに似た胴長と発達した四肢、森林に馴染むように全身を覆う黒色の獣毛を逆立たせ、獣たちは獰猛な牙を剥き出しにする。


「どうやら、餌の時間のようだったな」

「あら、そうなら飼い主がいるのでしょうか?」

「俺は何もやらん。お前たちで追い払え」


 道周たちは口々に喜色を漏らす。ただ1人だけ、余裕のないリュージーンが剣を震わせて指示を出す。

 ようやく状況を理解したマリーがステッキを構え、遅れて戦闘態勢に移った。


「追い払うだけだよ。殺したら駄目だからね!」

「失礼ですがマリー、この獣たち「モルグ」と言うのですが、食肉としては中々の美味なのです」

「……、必要以上の殺生禁止、ということで!」


 マリーは綺麗に食欲に負けた。その掌返しっぷり、10点(10点満点)。


「「「ガアァ!!」」


 敵意を受け取ったモルグの群れは、合図もなしに同時に飛び出した。

 夜王と渡り合った猛者を相手に、30を超える獣の群れが襲い掛かる。

第3章始まりました。

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