旅立ちの日に
あらすじ
次なる目的地、「グランツアイク」を目指すため、道周たちはエルドレイクを発つ。旅立ちの日に、それぞれが別れを惜しみ、そして再開の誓いを立てるのであった。
夜王との激戦から、早一週間が経過した。
破壊され、消失したエルドレイクの瓦礫の搬出にも目途が立ち、ところどころで順調に復興の兆しが見え始めている。
戦闘で傷付いた戦士たちの傷は癒え、なぜか風邪を拗らせた道周も復調していた。
そして訪れるのは、次なる出発である。
エルドレイクにある大通りのうち、南側の大通りに面した大門にはかすかな人だかりができていた。
空は青い快晴、心地よい陽気と北方特有の冷風が混ざり合った中、マリーはセーネと固い握手を交わしていた。
「君たちは先に出発だ。僕も王位の継承と、復興の計画を練った後にすぐ合流する」
「私だってセーネたちの繁栄を祈っているよ。セーネはセーネの大事なことを成し遂げて」
「ありがとうマリー。君と戦えてよかった!」
そう言った2人の少女は、熱い抱擁をした。涙ぐむマリーは必死に落涙を堪え、力強くセーネの背に手を回していた。
長い時間に思えた抱擁は、セーネの手から解かれた。
マリーの瞳に浮かぶ涙を流麗な指先で拭うと、朗らかに笑いかける。
「大丈夫だマリー。また会おう」
「うん……」
セーネの激励を受けたマリーは、唇を噛み締めて顔を上げた。
「それじゃあ、行くか」
別れを済ませたマリーに、リュージーンが声をかけた。マリーは促されるままに頷き、仲間の元へ駆け寄った。
2頭のギュウシが引く荷車に荷物を載せ、防寒具を着込んだ道周たちと肩を並べる。
見送りの顔ぶれを見渡した道周が、名残惜しそうに呟いた。
「アドバンは来ていないんだな」
「このような天気のいい昼間は義兄にとっては処刑場に等しい。義兄の性質だから、どうかこの無礼を許していただきたい」
アドバンを代弁したセーネが頭を下げた。
道周はすぐに取り繕い、セーネに頭を上げるよう言葉をかけた。
その横に佇むシャーロットが、丁寧に腰を折って言葉を加える。
「私たちの見送りでご勘弁を。代わりにソフィをお付けしますので」
「私はおまけなのですか。てっきり案内役かと!?」
シャーロットの小ボケにソフィが異議を唱えた。
直射日光を避けるローブの下から、ライムンが訂正を加える。
「ソフィはミチチカ殿たちと最も交流が深いからな。これからも補佐をしていただきたいので、オレが推薦した」
「で、ですよね。安心しました」
ソフィはホッと胸を撫で下ろして表情を崩した。そして道周たちと肩を並べ、課された使命を以って自らを律する。
そして道周はライムンに歩み寄り、顔を覗き込んで言葉をかける。
「頼ぬん、お前の兄を守れなかった。すまない」
「そのことはミチチカ殿が気に留めることではない。ケイオスは、自分の意志を貫いて死んでいったのだ。夜王を恨めど、ミチチカ殿を憎むことはありえない。
むしろ、兄の遺体を届けてくれたことに礼を言う。ありがとう」
「そう言ってもらえるなら救われるよ。こちらこそありがとう」
そして2人の戦友は別れを告げる。その表情には後悔の影はなく、清々とした輝かしさが浮かんでいる。
口惜しさの残る、各々の別れが済んだ。
太陽光が照り返す雪原を目指し、道周たちが踵を返した。
「では、ご武運を」
「あぁ、上手く獣帝の協力を得てくるよ」
セーネと道周が言葉を交わす。信頼に拠る多くない言葉で、2人は志を同じにしていた。
「行ってきまーーーす!!」
マリーは全力で別れを叫び、同時に再開を祈願する。ブンブンと両手を振り、名残惜しそうに仲間たちを視界に捉え続けた。
一行はエルドレイクを後にし、次の目的地へと出発した。
それぞれに残した思いはあれど、ここで留まるわけにはいかない。
道周とマリーがフロンティア大陸に転生した真相を明らかにするために、そして混沌とした大陸を生み出した元凶である魔王に抗うために。
イクシラを出て、西方最大の領主、獣帝が君臨する領域「グランツアイク」だ。
大陸随一の野生が根付く自然の大地、過酷な生存競争が現存する弱肉強食の世界だ。
これにて第2章「イクシラ革命戦線」編が終了となります。
次回、第3章「名前未定」編、始まる!?




