夜王の問答 2
「夜王の問答 1」の続き
「は……? ちょっと待て」
道周は堪らず話を遮る。それほどまでに、アドバンの発言には違和感があった。
(「大したことなかった」だと? 「魔性開放」は、物理や力学を無視した威力の収束だぞ。それに、あれは邪神を倒す一手だったんだ。それが「大したことない」、だと……!?)
道周の焦りは驚きに変わり、次第に疑念に変わる。しかし、アドバンが「魔性開放」を直撃したにも関わらず立ち上がったことは事実だ。
道周が抱えた疑念は、起こった事実に裏付けされて不安へと変わり果てる。
アドバンは表情の変化から道周の心境を察し、見透かしたように言葉を紡いだ。
「そうだ。貴様の奥の手は通用しない。それはオレだけではない。これから向かうグランツアイの「獣帝」も、その先の領主にも同様だろう」
「夜間のアドバンが特別頑丈なんじゃないのか? 他の敵には通用し」
「しない。これはオレが断言してやろう。
夜王たるオレと、愚妹を含めた「四大領主」、そして魔王に対して強力な一撃であることは認めるが、決して必殺ではない」
アドバンは容赦のない言葉を浴びせ続ける。
道周はただ顔を伏せ、その事実を受け止めるしかできなかった。
「……だが、使いどころを誤らなければいいだけの話だ」
すると突然、夜王の語調が穏やかに変わる。
何事かと道周が顔を上げると、すぐ目の前にアドバンが立っていた。
「っ!?」
「そう驚くな。地上で交わした貴様の剣筋、筋はいいが、速さ・切れ味・思い切り、それも半端で伸びが悪かった。それを、このオレ自ら稽古をつけてやると言うのだ」
「……え?」
このときの道周の顔は、さぞ間抜けであったことだろう。それほどに、状況とアドバンの発言を飲み込めていなった。
「二度は言わん。貴様の返事は「是」か「否」だけだ。どうする?」
アドバンの問い掛けに、道周は腹を括る。
戻る道はなく、ここは異世界。自分の命を守るのは自分で、仲間の命を守れるのも自分だ。強くなるしか生きる術はない、そういう世界なのだ。
(ちょっと忘れかけていた感覚だな……)
道周は心から込み上げてくる情熱に似た熱さに滾っていた。
一度目の異世界転生で学んだことを、経験してきたことを疎かにしていた、そんな自分に喝を入れる。
目の前には絶好の好敵手、本来ならば勝てないであろう相手に、不足はない。
「それじゃ、頼めるか……」
「夜の夜王相手に稽古できること、感謝せよ。そして、先の屈辱晴らさせてもらうぞ――――!」
夜王は外套と化していた黒翼を解き、道周と距離を開けて雄叫びを上げた。
今にも崩れそうな不夜城の跡で、過酷な稽古が始まった。




