目覚めよ暴君
あらすじ
セーネは自分に問い掛ける。一度挫けた己を律し、霞がかった本心を晒す時だ。
その先に、凛々しい白夜王がいなくとも。
その果てに、我が儘暴君が生まれようとも。
ケイオスが言い放った、「白夜王は吸血鬼の王ではない」。
その言葉がセーネの心を折った。
セーネはイクシラに生きる「全て」の種族に、平等な安寧と発展を求めた。もちろん、その「全て」には吸血鬼も含まれていた。
しかし、その吸血鬼が白夜王を否定する。
曝け出したセーネの本心に、拒絶という棘が突き刺さっている。それは今でも変わらない。
セーネは「全て」ために。
僕は「全て」のために。
僕は「 」のために……。
僕は、「誰」のために……。
セーネの脳内で木霊し反芻する疑念は止まない。
セーネの理想は誰が継いだ?
そのとき、セーネはある逸話をふと思い出した。それは燃えるような夕景を背に、道周が語った異世界の英雄の話。
『さっきマリーが言ってた「ジャンヌ・ダルク」のことで、少し訂正したいんだけど――――』
道周が語った、名も顔も知らぬ少女の物語は、セーネにとって壮絶すぎた。始まりは全く違う少女の物語は、いつしかセーネに似通った姿を取る。
「ジャンヌ・ダルク」なる少女は神の名の元に群雄を率いた。
「セーネ・ドラキュリア」は、望まれるがままに身を捧げリベリオンの旗となった。
自分の影を重ねながらも、しかしながら共感できない。
なぜ彼女は、火刑の終末を納得できたのであろうか。いや、納得などしていないのかも知れない。けれど、僕なら人を呪ってしまうに違いない。
――――そうか、僕の理想は。
遥か異なる世界の少女が、迷えるセーネに道を示した。
セーネは今度こそ迷いなく顔を上げる。その紅眼には爛々とした光が宿り、淀みのない戦意を剥き出しにする。
「――――行こう、マリー。ソフィもシャーロットも、満身創痍だろうが剣を取れ。あの愚兄に目にものを見せてやる!」
セーネを留める錨は失われた。心に刺さった棘の痛みすら心地いいと感じているセーネは、壊れてしまったのだろうか。
それでもいい。僕は、僕のために!
セーネの決意は、確かな熱となり伝播する。
燃える闘志に充てられたシャーロットは傷を押して立ち上がる。ソフィも強気な顔でセーネの号令を舞った。
何より、輝いた顔でマリーが喜びを露わにする。
「行こうセーネ! 私たちでミッチーを助けるよ!」
「もちろんだとも!
リュージーンよ、案を出したからには、何か作戦があるのだろう?」
「作戦だなんて大層なもんじゃねえよ。ただ、勝機がなきゃ提案しねっての」
やれやれと長首を振ったリュージーンも、どこか勝気な顔をしている。身振りで全員を集めると、即興の作戦を伝えた。
「――――って感じだ。後はミチチカのアドリブ力に託すしかねえ。いいな?」
「もちろんだとも。
……では、行くぞ!」
「はい!」
「かしこまりました」
「うん!」
リベリオンの逆襲は最終局面を迎える。




