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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
67/369

異世界ドッグファイト 2

「異世界ドッグファイト 1」の続き

 レンガ造りのエルドレイクを覆っていた炎は、そのほとんどが沈められていた。焼け焦げた都市は広い範囲で崩壊し、目も当てられないほどの惨状である。

 しかし逃げ惑っていた住人は都市を忙しなく駆け回っている。そうやら瓦礫の下敷きになった者が多くいるようだ。助け出すべく体躯のいい男たちが瓦礫にたかっている。


「こっちに手を貸してくれ!」

「無理に手を付けるな。上から順に降ろしていく」

「男で以外は負傷者の手当てを。ここは近衛兵が引き受ける!」


 燦々たる都市の中で飛び交う言葉たち。そこには住人も近衛兵も、リベリオンの差別はなかった。イクシラに生きる全ての種族が、仲間を助けるべく手を取り合っていた。


「すまない、指示を出していたら遅くなった」

「遅れてくれたおかげでベストタイミングだったよ。一度安全な場所に降ろして」

「させるか!」


 しかし安穏と安らぐことはできない。

 広大な翼で急接近した夜王が打拳をを振りかざして突貫する。


「しつこいぞ!」


 ミサイルのような急襲を道周が間一髪でいなすが、空中で反転した夜王が攻撃の手を緩めることはあり得ない。

 軌道を直線的と単調ではあるが、夜王の突貫は尋常ではないほど速く重鈍であった。一撃一撃が流星に匹敵する打拳を、道周はライムンに抱えられながらなんとかやり過ごす。


「仕方ない。このままオレがミチチカ殿の翼となる。攻防は任せるぞ!」

「任せた!」


 ライムンと道周は息を合わせ空中を舞った。僅かなアイコンタクトで意思疎通を行い、夜王が繰り出す高速の連打をいなし続ける。


「そこだ!」


 道周は魔剣の反撃を織り交ぜるが、空中戦では明らかに分が悪い。

 夜王の機動力は言わずもがな神速と暴風雨の如き苛烈さを誇る。

 対する道周・ライムンペアの機動力には大きな欠点がある。2人の意志疎通の間に発生するタイムラグだ。コンマ数秒にまで洗礼された連携の間隙こそが、夜王が漬け入った弱点である。


「ぐっ……!」


 疾風を追い越した夜王の拳骨が道周の肩を掠める。ライムンが間一髪のところで転身したために直撃こそは免れたが、空気を震わせる衝撃波が襲い掛かる。

 錐揉みになった空気が凶刃となり道周を切り裂く。肩口から胴にかけて大きな裂傷を受けた道周が唸り声を上げる。


「すまない、次はもっと速く回避に入る!」

「それじゃ駄目だ。肉を絶つ覚悟で近付かないと当たらない」

「しかしミチチカ殿の身体が保たないぞ」

「俺の心配はいい。ライムン自身も油断して落とされるなよ!」


 再び夜王が特攻を仕掛けた。

 音速に匹敵する初速が気中に可視化できる歪みを発生させる。夜王の軌道を目で追っていては間に合わない。始点と体幹の傾きから逆算して、後は直感に託して身を繰る。


「ぐっ……、らぁぁ!」

「ふんっ!」


 夜王の打突と道周の剣閃が交差する。

 夜王は握り固めていた拳を広げ、槍のような手刀が道周の肉を抉り取った。肋の肉を削り取った掌中には、爪くらいの血塊が握られている。

 道周とてただで肉を絶たせたわけではない。「肉を切らせて骨を断つ」の諺通り、魔剣のカウンターは夜王の身を斬っていた。しかし骨を断つまでは至らず、深くも致命打とはならない反撃に終わる。

 しかし最も重要な戦果は夜王にあった。夜王は先の撃ち合いの際、一瞬ではあるがその翼の権能を起動していた。

 夜王の翼は飛翔のための機能はもちろん、普段では外套として防御と防寒防熱の役目を担う。そして戦闘時に発動する権能が「刃」であった。道周たちを幾度となく狙った影の剣こそこの翼である。

 飛翔と刃の権能は同時に発動できない。よって刹那的に飛行能力を制限されたために道周のカウンターを受けたのであるが、夜王の狙いはまかり通った。

 その影刃が狙ったのは道周ではない。


「…………」

「ライムン? ライムン!?」


 道周を抱えて飛行していたライムンが沈黙した。揚力を失ったライムンは、道周を抱える手を離して地面へと落下する。もちろんライムンの助力をなくして宙に留まれない道周も同じく落下する。


(ぶつかる! どうする!?)


 荒れ果てた地面がみるみる接近する。道周は目を見開き策を講じるが、胸部から迸る激痛がノイズとなって思考を乱す。


(こんな終わり方かよ! こうなったら……)


 内心で地団太を踏んだ道周は、魔剣を大きく引き絞る。

 もう手段は選んでいられなかった。3秒もないうちに地面とキスするのなら、もったいなくとも使うしかない。


「魔性――――」

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