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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
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窮鼠流星を落とす 1

あらすじ

燃える都市を走り抜ける道周たちは、次々と仲間と合流する。しかし火の手と追撃の勢いは途絶えることなく、驚異の攻撃が一同を襲う。

「ほら、立てる?」


 道周の手をひったくったマリーが力強く引き上げた。

 存外頼り強い腕力に引っ張られ、道周はよろめきながらも立ち上がる。それ以上に、道周はマリーの無事に安堵していた。と同時に、背後で煌々と燃えるマリーが放ったであろう魔法に驚いていた。


「あれはマリーがやったのか。すげえな」


 感嘆したリュージーンが道周の気持ちを代弁した。

 マリーは照れ臭そうに肯定しながらも、周囲の状況を鑑みて逃走を促す。

 すると燃える都市の瓦礫の穴からソフィが顔を覗かせた。


「マリー、こちらの細道から抜けられます!」

「ありがとうソフィ。聞きたいことは後だよ。今は逃げよう」


 未だ道周の手を取っているマリーが引っ張る。

 道周は呆気にとられながらも脚を回る。背負ったセーネが呻き声を上げているが、とりあえずはソフィとマリーに導かれるまま穴に飛び込んだ。

 ソフィが先導する穴は熱せられた瓦礫に囲まれており、釜戸の中と相違なく灼熱であった。触れれば焼かれてしまう細道を慎重にかつ迅速に駆け巡り穴倉を抜ける。

 その先の道に火の手は回っておらず、熱気に満ちた風が通り抜けるだけであった。

 灼熱の空気に満ちた肺に穏やかな風を取り込み、道周の呼吸は安寧を取り戻す。ようやく冷静になった思考を回すと、今の状況にいくつかの驚きと疑問が浮かぶ。


「どうしてマリーがここに?」


 脚を止めずに問い掛ける。


「どうしてって、お城から「百鬼夜行」がたくさん出てきたから、きっとそこにミッチーがいると思ったんだよ。

 それよりもどうしてリュージーンがここにいるのかとか、セーネが何で眠っているのかとか聞きたいんですけど!」


 脚を止めないで答えたマリーは半ば逆上に近い形で問い返した。マリーの問い掛けにソフィも同調して頷いている。

 しょうがねえな、と前置きして答えたのはリュージーンだ。


「俺はミチチカの置いて行ったメモ通りに作戦実行しただけだ。ただ余りの劣勢さに見かねて撤退命令出しのは俺だけどな!」

「メモって?」

「これだよ」


 そう言ってリュージーンは懐から一組の紙束を取り出した。

 マリーは走る風速に靡いた紙を受け取り、その内容に目を落とした。ソフィも靡いている銀髪を耳にかけ、隣から覗き込んだ。


 紙に記されていたのはエルドレイクを現しているであろう略地図と、ひたすらに平仮名が羅列されていた。


「……なにこれ?」

「何ですかこれは?」


 覗き込んだ2人のリアクションは似て非なるものだった。

 もちろんマリーは平仮名を読むことができる。しかし隣に記された地図との兼ね合いと、「なぜ平仮名?」という疑問に首を傾げていた。

 対するソフィは初めて目にした文字群に目を剥いていた。記された地図はソフィが収集した情報であり、道周の手書きであろう地図は大雑把に都市の全貌を現しているにすぎない。


「もう1枚紙があるだろう。それは俺お手製の「互換五十音表」だ。

 いざと言うときのための複製としてリュージーンに託したつもりだったけど、まさかここまで状況が悪化するなんて思ってもいなかった」


 それぞれの疑問符に道周が補足を加えた。

 2人は促されるがままに2枚目の紙を閲覧した。マリーは規則正しくも隙間なく埋め尽くされた文字の羅列に顔をしかめ、ソフィは対照的に未知なる言語に目を輝かせた。

 しかし今はソフィの知的探求心を満足させている場合ではない。それを自覚してか、ソフィは自制して紙を自らから渋々遠ざけた。


「俺はリュージーンに陽動のために、ソフィからもらったガス管の見取り図と着火の手筈を残したんだ。まさか逃げるために使うとは思ってもいなかったけれど」

「俺だって白夜王が昏倒しているなんて思ってもいなかったさ。一体何がどうしてこうなったんだ?」

「その話は長くなるけど……っ!」


 すると逃走中の道周たちの頭上に巨石が降り注いだ。その数7。巨石は彗星のように夜空から降り注ぐ。

 道周はセーネを背負い手が塞がっている。リュージーンも獲物を持たずに、持ったとしても巨石を穿つ戦力にはならない。

 ならばこの場で迎撃が可能なのは誰か。答えは決まっている。


「私が一番近くのものを対処します。マリーは背後の2つを撃ち落としてください! それだけで回避可能です!」

「う、うん。了解したよ!」


 頭上の巨石にソフィが挑んだ。突然役割を振り当てられたマリーはたじろぎながらもステッキを掲げた。


「やぁっ!」


 先んじて飛び出したソフィは短剣を構える。身体ごとぶつかりながら突貫し、接触と同時に魔法を使用した。目一杯に吹き乱れる風を短剣に纏わせる。その中に紛れ込ませた砂塵と火花を混ぜ合わせると、そのまま短剣を振るった。

 砂塵と十分に混合した酸素に着火される。すると起こるのは爆発だ。小規模ながらも絶好のタイミングで爆ぜた炎は、落下する巨石の軌道を変えるには充分であった。

 僅かな軌道の変化で1つの巨石は一団から逸れる。石造りの都市に直撃した巨石は無残に砕け散って破散する。


「よしっ!」


 ソフィの特攻にリュージーンが拳を握る。

 しかし巨石はまだ6つも残っている。降り注ぎ危険が残るのは最低でもあと2つ、マリーの迎撃が始まる。

「窮鼠流星を落とす 2」へ続く

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