奪われていく同胞よ
あらすじ
セーネの目の前に現れたのは近衛兵隊長であるケイオス・ヴォイドであった。かつての同胞を相手にセーネは苦心しながら武器を取るが、ケイオスの様子はどこかちぐはぐで――――。
突如、不夜城の外壁を砕いた黒い疾風はセーネを攫った。
どんどん離れていく天守に手を伸ばしたセーネは、吹きすさぶ風にあらがうように翼を広げた。しかし漆黒の風に抗うことは敵わず、揉まれるように夜空を舞う。
(くっ……。僕の翼でも飛ぶことのできない風だと? 獣帝並みの威力か……!?)
心中で冷汗を流したセーネだったが、すぐに思考を切り替え次の策を弄する。
(一刻も早くミチチカと合流しなければ……。行くぞ、「空間転)
「……っ!?」
セーネが権能を発動を思念した瞬間、セーネを包む暴風が吹き止んだ。予想外の事態にセーネは権能を停止し周囲を見回す。そこには、華美な紋章をあしらった漆黒の鎧の兵士がいた。
セーネはその男に見覚えがある。200年振りの再開となった同胞の名を呼んだ。
「久しいな、ケイオス・ヴォイド」
「……」
セーネに名を呼ばれた近衛兵の隊長、またはリベリオン隊長ライムンの実兄ケイオス。しかしその表情に喜怒哀楽をいった感情はなく、光のない赤眼がセーネを見詰める。
「貴方は、私が殺す……」
生気のないケイオスの声が闇夜の宙に漂って消えていく。
それでも聞き逃すことのないセーネは、手に持った銀のスピアを構える。
「いいだろう……。君を侮ることはしない。だが、すぐにけりを付けさせてもらう!」
セーネの背面に広げられた純白翼が空気を撃つ。夜空の天蓋を激震させる羽撃きは衝撃波を放つ。しかしセーネの本領は神速の飛翔にあらず、「速さ」を超越した「空間転移」である。
セーネが行った瞬きの転移に、ケイオスが追い付けるはずはない。
「喰らえ!」
ケイオスの背後に回り込んだセーネがスピアを突き込んだ。
辛うじて身を翻したケイオスは芯への打突を回避する。しかし完全な回避は間に合わず、銀の穂先が黒々とした翼膜を貫通した。
「Guuu……!」
翼を突き抜かれたケイオスは愚問の声を漏らした。大きく風穴を空けられた翼は夜空を空振り、ケイオスは空中で大きく体勢を崩した。
だが崩れた体幹を利用して空中で回転し、剣をセーネの直上へ振り下ろす。
「っ!」
不屈のケイオスが繰り出した反撃に、セーネは思わず後ろへ引き下がる。
空中で後退した速力を翼膜で殺し、闊大な翼で空を撃つ。跳ねるような旋回に速度が加算され、スピアの切っ先は鋭く輝く。
「Uuuu……、ムゥッ!」
ケイオスはセーネの突撃を正面から迎撃する。鈍く光る剣は辛うじてスピアの重撃を受け流す。だが捌ききれなかった威力に身体を弾かれ、直下の城郭に墜落した。
レンガ造りの城郭は微塵に砕かれケイオスを飲み込む。舞い上がる砂塵を掻き分け、ケイオスは広大な翼膜を展開する。
ケイオスの漆黒とした翼には向こう側が垣間見えるほどの大穴が空いている。そんな重症でさえ、ケイオスは苦痛を感じさせぬ羽撃きで瓦礫を散らす。
「グゥゥurrr……」
ケイオスは血走る眼でセーネを見上げる。喉の最奥で唸る声は、最早理性を飛ばした獣のそれである。
昔日の面影をなくした同胞の姿を目にしたセーネは、脳裏に過った「最悪の出来事」に戦慄する。
「ま、まさかケイオス……。君は……、もう!?」
「ア……ァァaaGryyy!!」
ケイオスの咆哮が周囲の瓦礫を発散させる。ケイオスを中心とした音の爆発は不夜城を震撼させた。
セーネ 「ま、まさかケイオス……。君は……、もう!?」
ケイオス「ア……ァァ賛成ぃぃぃ!!」




