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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「イクシラ革命戦線」編
53/369

攻勢と攻勢 2

「攻勢と攻勢 1」の続き

 一度浮上した影は、道周と衝突する瞬間に潜行し空中から姿を消した。そして魔剣の空振りを見届けると、再び浮上して道周へ牙を剥いた。


「ミチ――――!?」


 セーネの呼びかけも束の間、道周は魔剣を返した石の床を穿った。


「行けセーネ!」


 道周は振り返らずに号令を上げる。その声はセーネに向きながらも、道周は魔剣を操って影ごと床を繰り抜いている。

 止まらない道周は抉った床の石を蹴り飛ばし、夜王に向かって直進する。

 道周と横並びになったセーネは純白の翼を広げ、旋風を巻き起こしてさらに速度を付け――――消えた。


「っ!?」


 目の前で起こった出来事を視認した夜王は急ぎ身体を捻った。回転力を上乗せして振り向いた目と鼻の先には、先ほどまで道周の隣に立っていたはずのセーネがいる。


「せい!」

「むぅっ」


 2人の王がぶつかる。片や磨き上げられた銀の穂先を突き立て、片や俊敏な手刀で首を狙う。

 ぶつかった一撃が鍔競り合うのも束の間、夜王は強引にセーネを引きはがして背後に迫る道周に対応する。

 魔剣の剣戟は速く鋭い。どの一撃を受けても痛手となる剣閃を、夜王は外套を揺らして回避する。


「どうした? この前みたいな余裕がないぞ夜王サマ?」

「貴様、前回は手を抜いていたか? これほどの苛烈さならば、愚かな近衛兵など蹴散らして逃走できただろう?」

「昔のことは知らないよ。ただ、今の俺は確実に本調子だ!」


 前進する道周の攻撃は熾烈を極めていた。魔剣を横に振り抜いたと思えば次の瞬間には頭上から切っ先が迫り、打と斬の組み合わせにより先読みが困難になっている。さらに驚くべきことは、全ての剣戟に一切の守勢を見せていないということだ。それは「守りを捨てる型」というよりも、「反撃すらさせない連続攻撃の型」である。

 超攻撃的な道周の型に加え、スピアを構えたセーネが好機を窺っていることも効果的だ。下手に退避をしてみれば、セーネが「空間転移(テレポート)」で肉薄し間隙を貫く。


(攻め続けるにつれ速くなっているな……。愚妹の脅威を牽制に使い、自分の手で仕留めるつもりか……)


 事実、夜王は苦戦を強いられていた。道周の想像以上の進化がセーネの実力を効果的に引き出している。このまま回避に徹していても打開の光はなく、限りのある天守での戦いでは後退する夜王が先に追い詰められるだろう。


(ならば……)


 ならば夜王が取る手は限られている。反撃だ。


「剣士よ、オレに策を弄させたこと、褒めてやるぞ」

「あ? 何を言っている?」


 一気呵成の中、道周は夜王の語り掛けに訝しむ。

 防戦一方のはずの夜王は余裕の笑みを湛え、剣戟の隙を突いて柏手を2つ打った。


「気を付けるんだミチチカ。義兄は何かを企んでいる!」


 セーネが警鐘を鳴らすと同時に、天守の外壁が外側から砕かれた。


「っ!?」

「何だ!?」


 爆破にも近い破壊に驚いた道周に僅かな油断が生じた。夜王はその隙を突いて抜き手を放つが、間一髪道周は後退した。

 しかし危機に立たされたのは道周でも、ましてや夜王でもなかった。


「うっ!?」


 突如として吹き抜けた黒い疾風がセーネの身体を攫った。


「さぁ、1対1と行こうじゃないか」


 身体を弩のように引き絞った夜王がほくそ笑む。砕かれた天井に浮かぶ夜空には満天の星が敷き詰められ、満月は冠のように夜王の頭上で月光を放つ。

 夜闇に浮かぶ紅蓮の双眸と歪んだ口角は「怪物」そのものであり、満月を冠する姿は「夜王」の名に相応しい覇気を放っている。

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